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モードノオト2020.10.12

ANREALAGE 21年春夏コレクション

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ファッションジャーナリスト
麥田俊一

半年ぶりにこの稿を復活させる機会を得ることが出来て嬉しく思っている。既にご案内の通り、二ヶ月前に発表された欧州のメンズコレクションが先鞭を付けたが、パリのウィメンズに於いても、新作発表をデジタル配信に切り替えるブランドが激増したことで、キャットウオークは鼠が這い回るはおろか閑散としていた。

新型コロナウイルス感染症拡大を避けるために余儀なくされた代替え案とはいえ、「フィジカル」「デジタル」の標語が、此れ見よがしに流行語のように巷間を飛び交う始末。ここ東京も例外ではなく、デジタルプラットホームが新作発表の新たな本流になり、皮肉なことに、デジタル流行りがYouTuber諸兄、influencerの先生方の活躍の場をメッキリと少なくしてしまったようである。実際、彼等の中にあって、改めてショーの重みに気付かされた人にとってすらも、この珍現象は恐らく小さからぬ震撼(センセーション)であったことだろう、と、まるで他人事みたく、恰も傍観者の如く感じるのであった。

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理想や虚構を具現化するデジタルの強みを最大限に生かした発表形式は、ひとっとびに時空を越えた、アートやデザイン、ファッションの概念を超えた新しい表現の試みであり、まさに当今に見合った手法として注目されるのは、時節柄自明の理なのだろう。今季はミラノコレクションでも、会場に招待客を入れずにショーをする模様をライブ配信したブランドもあったが、クリエーティブな趣向を凝らした動画の中には、軽妙で心踊る作品(?)も少なくなかった。しかし、映像が従来のファッションショーの代替になり得るかと云うと、些か疑問の余地が残る。

趣向を凝らせばそれだけブランドが打ち出そうとする世界観は確かに濃密になるが、その反面、本来主役たる服の存在感が稀薄になる場合もあり、ディスプレーの光を処理する動作を見詰めながら、やはり何とも、もどかしさは否めない。ややともすると、デスクトップが映し出す虚像を眺めていると、実際の服地の匂い、場の空気、緊張感、そう云う諸々の魅力とか、作り手が仕掛けた謎と云った生々しさがダイレクトに伝わり難く、動画中で僅かに漂わせている雰囲気より演繹可能なもの以外には殆ど残らないような気もする。服が放つ強さは何処に行ったのか?動画配信が、眼前をモデルが通過する様を肉眼で追い続ける実体験(会場でショーを取材すると云うこと)とはまったく性質が異なることは端より諒解しているのだけれど、服もトリッキーな映像仕掛けも、その一切合切が一つのコレクション(作品)とする考え方が新たな潮流になるのかと思うと、少しく背筋が寒くなってくる。否定的な意図と云うよりは、これは飽く迄も私見だけれど。註釈を記しておくと、この稿で紹介しているイメージは、デザイナーの提言が明確に伝わってくるものとしての実例の一つである。

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振り向くな。振り向くな。後ろには夢がない。ちびちび杯を舐めながら、だが決しておセンチになっているわけではありません。明らかに一つの時代は終わってしまった。過ぎ去った時代など今の私には、風に吹き払われた夕立雲のように、心に影もとどめていないよ、と云うと嘘になるけれど、漠然とした憤りのような、不安な感情を抑えることが出来ない。

時節柄、他所より依頼された原稿にて番度記した言葉がある。「想像力を抹殺せよ。人形のように糸に操られるな。時を現在に限れ」。これは、マルクス?アウレリウス?アントニヌスの警句の一つである。自分を確と持ち、環境に左右されることなかれ、と云った意だ。これまでも、散々ぱら酒の上での不始末を性懲りもなく暴露してきた私にとっての座右の銘なのだけれど、はて、役に立ったことがあったかどうか。変わるざるを得ないから変える、のではなく、変える必要があるのかを先ずは考えること。受け身でいるのではなく、自分自身の物差しで考えること。それが大切なのですね。私も含めてですけれど。

現代人は、強い自我意識に縛られ、競争心を煽られて、一方では、骨身を削られるようなストレスにさらされ続けている。とりわけモノを作る人はそうなのではないかな。娑婆は生き辛いけれども、何かを書いておかねばならないと思うわけです。音楽でも文学でも、芸術に於いても社会科学に於いても、何事も書かねば、刻まねば、後に残らない。だから、他人に嘲笑されようが私は書く。少しくメートルが上がってしまったようで身が縮む思いがしてならないのだけれど、明日以降、フィジカルとデジタル、分け隔てなく紹介するつもりでいる。(文責/麥田俊一)

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