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現役美大生がZ世代にインタビュー:Vol.3 ヘアメイクアップアーティスト 坂本理子

現役美大生がZ世代にインタビュー:Vol.3 ヘアメイクアップアーティスト 坂本理子

ACROSS編集部
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現役美大生、Z世代の加藤理子さんによる、
同世代のクリエイターやアーティストへのインタビュー連載企画の第3弾!

2021年5月にスタートした、現役美大生かつ自身のブランド〈RICO〉の運営やYouTube/Instagram上での積極的な情報発信など、さまざまな活動を行っている加藤理子さんがインタビュアーとなり、同世代(いわゆるZ世代!)のクリエイターたちにインタビューしたものをナラティブに文章化する企画『GALLERY R』

Vol.3は、2001年生まれで2021年からビューティーアンドクリエイティブチーム「JE SUIS HEUREUSEジェシーウール)」に所属し、フリーランスのヘアメイクアップアーティスト 兼美容師として活動する坂本理子さんへのインタビューです。

今は自分探しの最中。ジャンル問わずいろんな現場や人に触れたい—専門学校を卒業し1年が経過した今、20歳の彼女がフリーランスとして、ヘアメイクアップアーティスト兼美容師として、ひとりの人間として見てきたものとは。

春真っ盛りの4月。卒業や別れ、新生活の開始など、人生の岐路を迎えた人も少なくないだろう。私もまた、ファッションの知見をより深めるために大学4年次を休学し、ニューヨークにあるPratt Institute(プラット?インスティテュート)ヘと留学。新生活をスタートさせた。

今回インタビューさせてもらったのは、ちょうど1年前の4月から新しい挑戦をスタートさせたヘアメイクアップアーティスト兼美容師の坂本理子さん。 もともと面識はなかったものの、Instagramで繋がっていた私たち。「友人の投稿によく出てくるお友達」として理子ちゃんを認識していた私が、タグ付けされていた理子ちゃんのアカウントをたどると、まさに私好みのスタイルで溢れており思わずフォローしたのがはじまりだ。

そのような私たちが実際に出会ったきっかけはファッションだ。私は2018年から「RICO」というファッションのブランドを手掛けているのだが、ある撮影プランの際、思い描いていた世界観を表現できるヘアメイクは理子ちゃんしかいないとすぐ連絡。今思えば、同い年、同じ表記の名前、似たような趣味趣向など、理子ちゃんと私は出会うべくして繋がった関係なのかもしれない。

そんな理子ちゃんは、2021年の4月からフリーランスの道を歩みはじめた。華々しいヘアメイクの世界で奮闘する彼女。しかし、コロナ禍での就職活動や理想と現実の狭間にある葛藤など、活躍に至るまでにさまざまな壁があったそう。私も学生生活の折り返しを迎え、進路を考えはじめなければならなくなった。「好きという気持ちを追求し続けていいのだろうか?」「この道で私はやっていけるのだろうか?」などと悩みは尽きない。同い年ながら社会人として先輩の彼女に、フリーランスとして、ヘアメイクアップアーティスト兼美容師として、ひとりの人間として、これまで見てきたものとは何かを伺った。

坂本 理子(さかもと りこ)
2001年2月1日生まれ。東京都出身。ヘアメイクアップアーティスト/美容師。2021年3月に住田美容専門学校 メイク科を卒業し、同年4月からビューティーアンドクリエイティブチーム「JE SUIS HEUREUSE(ジェシーウール)」に所属し、フリーランスのヘアメイクアップアーティスト兼美容師として活動中。ポップな色使いや動きのあるヘアスタイルが特徴的な「海外girl」を得意とし、自身のInstagramでリール機能を用い、さまざまなヘアスタイルやメイクの方法を詳細に掲載している。
Instagram:@jesuis_rico

Q1. 美容の道に進もうと思ったきっかけは?

ーもともと雑誌やファッションショーを見るのが好きだったり、作品名は忘れてしまったんだけどある映画のワンシーンでショーのバックヤードに惹かれて、いわゆるキラキラした世界に憧れがあったんだ。でも、ファッションデザインとか、何かを一からつくる仕事はしっくりこなくて… 高校生のときにメイクが好きになって、いろんな情報を取得したりコスメを買いに行ったりするうちに、美容部員になりたいと思ったのがこの道を進む最初のきっかけかな。

Q2. 美容部員になりたいという思いからはじまって、今に至るきっかけは?

ー 最初はM.A.C.の美容部員さんに憧れてて、学校に入ったのもそれが大きな理由。だから、入学当初はヘアに対する関心があまりなくて(笑)でも、作品撮りをするときはメイクはもちろんヘアも衣装を考えるのもすべて自分でやらないといけないから、それをきっかけにヘアも楽しいって思うようになったんだ。メイクだけでなく、頭の中で描いていた全体像が形になるのがすごく楽しくて、美容部員からヘアメイクに目標が変わったの。ただ、実際のところメイクばかりに時間を費やしていたから、メイクの技術にヘアの技術が追いついてないのが気がかりで… 例えば、いろんな雑誌で活躍しているヘアメイクさんも、メイク中心のお仕事だとしても、前髪を少し切ったりとか染めたりとか調整できる技術は持っていらっしゃるし、そういう面でいくらメイクの技術があってもヘアの技術がなければ、私の目指しているものではないなって思っているんだ。逆に、それでヘアをもっと勉強したいって思えたし、レッスンがある今の環境にもすごく感謝している。実際にはフリーランスのヘアメイクで雑誌やライブの現場に出向くお仕事もあるし、お客様の施術とかそういったレッスンとか、サロン兼事務所みたいな感じでちょっと特殊な環境なんだ。

L:学生時代の作品撮り R:学生時代にヘアメイクとして参画した、ファッションブランド「RICO」の撮影

Q3. いわゆるサロンや会社へ就職するのではなく、最初からフリーランスでやろうって思ったのはなんで?

ーすごく悩んだ。コロナの真っ只中だったから、新卒採用の募集をしていないところもたくさんあって大変だったよ。でも、フリーランスで働く決意として、ヘアメイクという職種で新卒採用を行なっているところがあまりない点と、仮に美容院に就職したら、夢を実現している未来が想像できなかったというのが大きな理由かな。既に活躍しているヘアメイクさんの弟子になる手段もあったけど、「この人みたいになりたい!」「この人から学びたい!」という人がいなかったし、美容院に就職して、ある程度経験を積んでからフリーランスのヘアメイクになる道もあるけど、美容師も最初はサロンワークやアシスタント業が軸になって、空き時間に自分のスキルを磨くという感じになるから、自分の目標には少し遠回りなのかもって私は思ってしまったんだ。実際、美容院も視野に入れてみたけど、エントリーシートを前にしたら全く手が進まなくて…。でも、そんな時に学校に講義しに来てくれていた人が今の事務所の人。美容師として施術もできるしサロン経営もしている、一方で学校に講義もしに来る、そんなマルチな働き方をすごく尊敬していたし、 施術やレッスンで若手でも現場に出向ける環境はまさに自分がやりたいことを叶えられるって思って入ることにしたよ。

Q4. 実際に働いてみてどう?

ーいろんな先輩についてアーティストさんの現場に出向くこともあれば、学校にアシスタントとして行って講習を見させてもらったりとか、普通だったら1年目でできないような経験ができてすごく楽しい。もちろん、この道を選んだ分大変な部分も多いけど、いつも関わる人や行く場所が違うから、毎回新鮮だしいろんなところからインスピレーションを得られていて、今の環境には感謝してる。

L:昨年行われたヘアショーでの作品 R:フリーランスとしてはじめてのハロウィンをテーマにした撮影「Goddess」

Q5. 大変だと感じる部分って具体的には?

ーフリーランスだから自分からお仕事をもらいに行ったり、突然依頼があったり、決まったスケジュール感がないから体力的に疲れることもある。もちろんお金の面や、何か作品をつくるのも全て1人でやらないといけなくて、時間もかかるしいろいろ大変だよ。いろんな経験をさせていただいているとは言っても、まだ1年目だから知らないこともたくさんで…。一度、ベテランのアーティストさんの現場で1人でお仕事したときは、朝から夜までの長丁場の現場も初めてだったし、そもそもヘアメイクという肩書きで1人で仕事するのも初めて。何をどのようにすればいいか分からなくて、できる限りのことはやってみたものの期待に応えられなかった部分があったんだ。自分自身に落胆したし、この仕事向いてないのかなとか、やめようかなって思ったときもあったよ。

Q6. 自分がネガティブな状況にいるとき、どうやって乗り越えている?

ー専門学校時代の同期がめちゃくちゃ仲良くて、卒業して仕事に就いた今も毎週のように会っているんだ。自分にとってその子たちの存在はとっても大きくて、何かことばを掛けてくれることはもちろんだけど、みんなそれぞれの道で美容師としての悩みがある。タイミングは違えど、みんな辛い状況があることは知っているから「みんなが頑張っているから私も頑張ろう!」って思えるよ。

専門学校時代の同期たち

あなたにとってのベストな生き方をしていたら、それが100点満点!もっと、夢ややりたいことを言葉にしてみるといいと思います。

Q7. その中で助かったことば、大切にしていることばってある?

ー友達じゃなくて先生からのことばなんだけど、就職活動で悩んでいるときに先生に相談したら、 「人生仕事だけじゃないし、仮に理想と違ったとしてもこれが最後ではない。もっと気楽に自分の思いに忠実になって考えていいと思うよ」ということばをもらって、その当時、私があまりにも自分自身を追い詰めていたというか、「ここでの決断を間違えたら一生の終わり!」って考えすぎてしまっていたんだけど、ある程度考えることは必要でも、仮に合わなければそこでまた考え直せばいいかって、すごく心が救われたんだ。 私の場合だったらサロンに就職して美容師になるというように、いわゆる社会の模範やレールに乗ることで得られるメリットもあるけど、せっかくやりたいことや夢があるのであれば、その思いに正直になろうと思えた。あとは、最近InstagramでヘアメイクのHOW TOを載せるようになって、「インスタ見てるよ!」「いつも頑張ってるね!」とか、ヘアメイクについての悩みがDMでくると日々の励みになるし、わざわざ文字に起こして送ってくれることが嬉しい。実際にお店まで足を運んでくれたり、「今度してほしい!」という声にも期待に応えられるようにもっと頑張ろうって思えるよ。そういう友達の存在はこれからも大切にしていきたいな。

Q8. ヘアメイクだと、人それぞれ顔のパーツや、髪の長さ、質が異なってくると思うんだけど、お客様を施術する中で自分らしさはどうやって出してる?

ーいわゆるナチュラルなメイクより遊び心を加えようと思っていて。例えば、さりげないピンクを目尻の下に入れたり、ラメ入れたり、色ではなくマットや艶っぽい質感を変えてみたり、普段しないけどすごく派手ではない、みんなが挑戦しやすいワンポイントをお客様それぞれに提案できるように心掛けているよ。

フリーランスとして働いてからの施術例

Q9. 自分が生きていくうえで大事にしている自分らしさとは?

ーうーん…難しいね。事務所でもこういう話をするんだけど、自分らしさが今の自分には分からなくて…。「こういう仕事したいとかある?」「近い将来したいことある?」って聞かれたり話したりするけど、まだ明確なものが見つけられていないというのが正直なところ。もちろん夢や目標はあるけど少し漠然としているというか、まだ人に紹介できるように具現化できていない、自分のことだけど自分をよく分かっていないのかも。だからこそ今は、ジャンルを問わずいろんな現場や人に触れたい。かっこよく言えば、自分探しの最中かな。 ただひとつ言えるのは、今までを振り返ると、自分が楽しいと感じることや好きという気持ちには忠実に生きてきたかも。いい意味で後先考えていないというか、もちろんお金のこととか安定とかも大事だけど、それよりも自分の気持ちを大切にする、そういうマインドはずっとあるかな。

Q10. 将来の展望は?

ー海外のティーンエイジャーにも知られるようなヘアメイクさんになりたい。日本でも、「海外メイクといえば理子だよね!」って言われるようになりたいな!

作業中の理子ちゃん

「今の自分には、自分らしさが何かまだ分からない」。意外なことばだが、そこには競争の激しい美容業界の中で「好き」を着々と確立する彼女の「強さ」が詰まっていた。その一方、新社会人として、そしてフリーランスとしての葛藤や苦労も感じられたが、それはあくまでもインタビュアーの私が感じたこと。取り繕うことなく語る姿からは、まさに「自分の気持ちに忠実に生きる」という彼女が大切にしてきた思いが垣間見られ、友人として、同い年として感服した。

ところで、インタビュー中に出てきた「海外メイク」ということば。わたしたちは普段「海外風」という表現を何気なく使ってしまうが、いざ「海外風」とは何かを問われると具体的な表現に困ってしまう。実際に留学してみたけれど、いまだになかなかうまく咀嚼できない。

そんなとき、留学先のPratt Instituteで開催されたファッションデザイン専攻の生徒によるショーを見て、なんとなくだが感じたことがある。服のデザインやスタイリングもさることながら、特にショーで印象的だったのはモデルのメイクだった。赤や青、紫やシルバーなどグリッターを含んだビビッドなアイシャドウが両目のアイホール、眉間と目の周り全体に塗られており、まるで内側に秘めたパッションが外に放出されているようだった。

好みやデザインが全く異なる22名のデザイナーが、コロナ禍のニューノーマルと向き合いながらなんとかショーを開催したい、そしてそれぞれが「好きなもの」と向き合い続けてきた成果を見せたいという、直向きな思いが服だけでなくヘアメイクにも込められている気がして、それがもしかしたら「海外風」ということばのなかに感じられるムードなのではと思った。

理子ちゃんいわく、「海外メイク」とは「いわゆるナチュラルなメイクより、遊び心を加えたい」ということで、さりげないワンポイントカラーやラメを加えたり、マットや艶など質感を変えてみたりということだという。お客様ひとりひとりに寄り添い向き合ってその人の個性を引き出し、その人が「好き」なムードをメイクでつくってあげたい、そういう彼女のパッションが「海外メイク」ということばに凝縮されているのではないだろうか。

ファッションとビューティー(ヘアメイク)といった、似た分野で夢見る私たち。「いつか一緒にお仕事できるといいね」「絶対しようね!」このことばを交わして、私はファッションの見識を深めるため渡米した。「好き」という気持ちに忠実になることを言動で示せるよう、私自身もニューヨークでの奮闘を誓う。

【インタビュー?文:加藤理子】

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