販売職から本社勤務へのキャリアチェンジを果たし、ブランドの第一線で活躍する方々に話を聞き、仕事への姿勢やそれまでの取り組みを学ぶ「本社の壁」企画。今回はトゥモローランドでバイヤーとして活躍する山野邉彩美(やまのべあやみ)氏に話を伺った。抜群のセンスで、インスタグラムアカウントでも人気が高い山野邉氏は、入社前からバイヤーを意識していたという。販売職時代から実践していたことや普段心掛けていることなど、さまざまな話を伺った。
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山野邉彩美さん/株式会社トゥモローランド 商品部バイヤー
エディション、スーパーエーマーケットでの販売、アシスタントバイヤーを経て現職。TOMORROWLAND バイヤーとして海外?国内での商品買付を担当。商品を買い付けるだけでなく、自身も企画や販促、販売に携わっている。洗練されているのに自然体で無理のない独自のセンスは、SNSでも注目を集めている。
?Instagram:@129nb
好きなことを仕事にしたい!始まりはそこから
―まず、大学卒業からこれまでのキャリアや、トゥモローランドを選んだ理由について教えてください。
学生時代からファッションやモノが大好きで、好きなことを仕事にしようと決めていました。ファッション業界でアルバイトをした経験もあり、働くイメージがしやすかったのもあります。
ファッションスタイリストか、バイヤーとして仕事をしたいというビジョンがありましたが、様々な方向性の中で大きなきっかけになったのが、青山にあるスーパー エー マーケットとドリス ヴァン ノッテンの店舗の存在です。どちらもトゥモローランドが運営している業態だったことで興味を持ち、会社の説明会に参加しました。話を聞いていくうちに社風的にも自分に合っているのではないかと感じ、ご縁があって入社しました。
※ドリス ヴァン ノッテンについては、日本にある直営店舗である青山店をトゥモローランドが運営。
2015年に入社して今年で9年目ですが、最初は販売からスタートしました。3店舗ほど勤務して、店舗業務と兼務という形でディストリビューターのアシスタントとして商品や店舗売上など、全体的なものごとの動きを管理したり、同時にバイヤーのアシスタントとしての経験も積んできました。そうした兼務期間を2年半ほど経て、4年前にバイヤーを担当するようになりました。
―入社前からバイヤーを意識して目指してきたのですね。では、現在の山野邉さんのバイヤーとしての仕事内容は具体的にどのようなものでしょうか?
国内外での洋服の買い付けや雑貨の仕入れのほか、深い繋がりのある他社様とのコラボレーションやオリジナルグッズの企画から実際の販売まで一連の管理、最近ではライフスタイルにまつわるイベントの企画など、多岐に渡って手掛けています。
買い付けについては、「トゥモローランドとして、どのような商品を提案したいのか?」というところを軸にリサーチをして商品を選定します。根底として、トゥモローランドには「エレガント」というコンセプトがあり、そこに合ったものをバイイングします。その上でデザイナーと話して、私たちのフィルターを通して確認して決めています。
以前は1年のうち10回以上、期間としてはトータルで3ヶ月近く出張して現地でデザイナーとの対話や展示会場での買い付けを行なっていましたが、現在は海外の商品についてはリモートでオンラインを通じての買い付けが主ですね。
―コロナによる働き方の変化などもありそうですね。
海外出張には行かなくなりましたが、できることが狭まったかというとそんなには変わりません。本を読んだり、美術館に行ったり興味のあることをインプットできる時間が増えたことでアイデアの引き出しが増えて、人への伝え方を工夫するようになりました。
―販売からバイヤーになって、時間の使い方含めてどう変わりましたか?
店舗にいたころは毎日違うお客様と接して常に変化がありましたが、バイヤーになってからは人との関わり方について、より長期的なコミュニケーションが必要になったと感じます。
また時間については、店舗にいればシフトに則った規則的なものでしたが、アシスタント時代は、右も左もわからないまま一日中歩き回って頭もフルに使って、ごはんを食べている最中に寝てしまうこともありました(笑)。今は慣れてきて切り替え方を学びました。
聞くことを恐れずに貪欲に「知る」を追及することが、人との信頼関係にも繋がる
―ご自身のインスタグラムもセンスが良くて、ファンも多くいらっしゃいますよね。職種的にも高いセンスが必要とされると思いますが、普段からバイヤーとして意識をしていることはありますか?
自分にセンスがあるとは思っていなくて......。周りの人に支えられて日々刺激を受けています。
「知らないことを知りたい」と思うことが、すごく自分の人生にとって重要なんです。買い付けをする上でもデザイナーさんや作り手の方に実際に話を伺った中で、それをどう私たちが伝えていくかを常に考えたり。自分が「知る」ことで、それが「伝えたい」と思う原動力になって、お店に来てもらったお客様にも驚いてもらえる。そこを努力することが私の仕事でもあります。
知らないことに関しては自分自身で深堀りして調べたりもします。分からないことがあったらすぐに人に聞く癖もあったり(笑)。お店に行ったりしても知りたいことがあるとすぐに「これはなんですか?」と聞いてしまうんです。
知らないことを知っているフリをしていると、いざという時に自分の言葉で伝えられないことがあります。販売員だった頃にそのような部分で表面的な説明をしてしまって、お客様の信頼を損ねてしまった経験もあり、知らないことは必ず解消するようになりました。そういったコミュニケーションも含めて、とにかく「素直であること」、そして作り手の方に対するリスペクトを常に持つことを意識しています。
あと、情報のインプットの量は人と比べると多いかもしれません。普段から街歩きをしたり、気になるお店があればすぐに足を運ぶようにしています。SNSの発達した今と比べると、私が学生の頃は皆雑誌や口コミなどアナログな手段で情報を得ていたので、当時からフィジカルに、ある意味泥臭く情報収集をすることを今でも楽しんでいます。
陶芸や読書、自分に向き合う時間を持つことで原点に帰る
―最近は趣味で陶芸の作品も作られていますね。そちらもクオリティーが高く、人気が出ていると伺っています。趣味も仕事に生かされていますか?
モノづくりについてはもともとリスペクトしているんですが、数年前から自分でも趣味として陶器作りを始めてからは、「素材」についての探究心が深まりました。自分自身が着る洋服だったり、素材についてもより一層知りたくなるんですよね。素材についての目が深くなったというか。選ぶものもやはり素材が大切だということを改めて感じています。
また、ライフスタイルの雑貨を扱うことも多いので、自分自身が作ってみることで、作家の方が「こういうところに拘っているんだな」と気づけることが増えたり、話を聞いた時の会話のキャッチボールがマニアックになっていったり(笑)。
陶芸のほか、本を読む機会が増えたことも手伝って引き出しがさらに増え、コミュニケーションの幅が広がりました。洋服に対する文化的目線もはっきりしてきて。コロナになって「原点回帰」とよく言われるようになりましたが、もしかしたらこういうことなのではないかな、と。
―販売職の経験はバイヤーになってからどう生かされていますか?
弊社は基本的に、本社職も最初は販売からスタートしキャリアアップしていきます。お店にいたからこそ得られる目線があるという考えです。企画をするときのスケジューリングであったり、実際の店舗経験がないとうまくできません。
また、買い付けをする時に「誰に届けたいのか」という具体的なビジョンができることも店舗経験によるところが大きいです。
―どういった時に一番仕事としてのやりがいを感じますか?
買い付けているものが最終的にお客様の手に渡って、それが誰かの一生物の買い物になったりするのが一番うれしいし、一番やりがいを感じる部分です。販売員だったときからそれは変わりません。今でも、商品の企画だけではなく実際に販売するところまで一連の流れを手掛けているのは、そういう考えに因るところもあります。大変さもありますが、楽しさが勝るんです。
コロナ以降は早い段階からインスタライブやオンライン接客にも力を入れています。それがきっかけで地方の方からお声を掛けていただくことも増えて、そういったこともまたうれしいです。
人が好き。興味を持ち続けていれば、「伝える力」は自然と育つ
―販売職からバイヤーになるにあたって努力されたことや、同じくバイヤーを目指すかたへのアドバイスはありますか?
私の場合は、普段から情報収集するほか、「バイヤーになりたい!」と常に本社の方に伝えていました。挨拶をはじめ小さなコミュニケーションも大切にすることを心がけ、商品に関しては、くまなく試着して細部まで説明できるようにしていました。
アドバイスとしては、信念の軸をぶらさずしっかり保つことでしょうか。やってみたけど壁にぶつかることって必ず出てきます。その時にどうすれば解決できるか、信念に基づいて考える力を培うことは今後必ず役に立ちます。
もっとベーシックな部分としては、挨拶をきちんとしたり、身を置いている環境に対して素直な行いを続けること。コミュニケーション力はどちらの職種においても重要です。人に対しても、モノに対してもとにかく興味を持ち続けていればお客様への「伝える力」が培われて、自然なコミュニケーションにつながるのではないかと思います。
今は皆マスクをしているので、人の表情や感情がわかりづらいですよね。なので、特に相手の目をしっかり見て話したり、より細かな気遣いを心掛けることが伝える力へとつながっていくはずです。
―最後に、今後のキャリアプランについてどのように考えていますか?
自分自身の、というよりはお店ひとつひとつがそれぞれにイベントや商品企画などの部分で活きるような、そんな点と点が線になるような仕事をしていくこと。それがゆくゆくは自分自身のキャリアにもつながっていくんじゃないかと考えています。お客様が実際にお店に足を運んで買いたいと思って頂けるような、ワクワクする気持ちを感じられるお店づくりをしたいですね。
また、今年は3年ぶりの海外出張を予定しているので、今までよりも新しい視点で吸収できることも増えるんじゃないかと期待しています。
文:ミカタ エリ
撮影:渡邉 彰太
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