COVID19禍で浮上したさまざまな「不条理」に抗うかのように、
強いクリエーションが目立ったシーズンとなった。
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公式スケジュール最終日は、渋谷駅前の地下?工事中のスペースが会場に。ヘヴン?タヌディレージャ?アントワープ(Heaven Tanudiredja Antwerp)と ケイスケヨシダ(KEISUKE YOSHIDA)がショーを披露した。(文責:高野公三子)
docomo × RequaL≡ (ドコモ × リコール)“TOKYO ARUKI SMARTPHONE COLLECTION”
2023年3月18日(土)13:30/渋谷ストリーム前稲荷橋広場
朝から雨と風、さらに低い気温に見舞われてしまった今シーズンの最終日。渋谷ストリーム前稲荷橋広場を会場に、ブランド、リコール(RequaL≡)が発表したのは、ドコモ社とのコラボレーションによる“TOKYO ARUKI SMARTPHONE COLLECTION”だった。
「もともと社会問題にも取り組みたいと思っていた」というデザイナーの土居さん。今回の取り組みについて、「人はヤバい服を着ていると、おって止まるじゃないですか。ヤバい服と歩きスマホはヤバい、っていうことでタッグを組むことになりました」(土居さん)。
オートクチュールと日常着の相互関与がコンセプトでもある同ブランド。ファーストルックは、マキシ丈になったネイビーのブレザージャケットに誇張されたマフラーのようなネクタイが登場。京都西陣で織られたこのネクタイは、糸から開発した独自のヘリンボーンストライプに中綿を詰めてマフラー状に仕上げたものだそう。モッズコートは、先染めのグリーンデニムを倉敷児島でビンテージ加工を施され、アランセーターは、ケーブルにダメージ加工を施した編み方で、“腐敗の経過と過程”を再現したのだそうだ。
「ブランド名にあるように、いつも今までやってきたこと、原点を見直し=リ?コールしていて、今回は、表層は変えないけれど、ものづくりのアプローチは変えて新しいものを出しています。見た目は似ているかもしれませんが、実はフォルムがぜんぜん違ったりなど、“見立て直しの再定義”をしました」と土居さん。
ショーはゆるっと2部構成。後半は、会場に横付けされていたトラックの荷台が大きく開き、同ブランドのアイテムに古着の上着を羽織った“歩きスマホモデル(土居さん命名)”がビニール傘を片手にスマホをいじりながらランウェイをうろうろ???。その隙間を縫うように、「?(いいねマーク)」や「電波」、「グーグルマップ」などをイメージした着ぐるみモデルが登場すると、会場は爆笑!たまたま通りがかったと思われる外国人観光客のカップルも夢中になってスナップしていた。
「これまでも歩きスマホを注意喚起する活動はしてきたのですが、今回ファッションを通じて、これまでリーチできてなかった人たちにも届けられたらと思い、ご一緒させていただきました」(ドコモの担当者、吉岡さん)。
「定点観測者」的な視点としては、生活必需品となったスマホがファッションの一部としてすっかり街の風景に取り込まれていることを客体化する貴重な機会となったコレクションだった。
HEAVEN TANUDIREDJA ANTWERP(ヘヴン タヌディレージャ アントワープ)新世代オートクチュール?デザイナーによる「ポストCOVID19」の美
2023年3月18日(土)15:00/渋谷駅地下(将来はタクシープールになる予定だそう)
2018年秋冬以来、5年ぶりに東京ファッションウィークに参加したヘヴン?タヌディレージャ?アントワープ(Heaven Tanudiredja/Antwerp)。当時もその技巧が光る繊細なオートクチュールが人々を魅了。実は、1人ひとり、彼が声をかけて職人への技術指導も行っているという社会起業家でもある。
そのキャリアは、アントワープ王立学院を卒業後、ジョンガリアーノやクリスチャン ディオール オートクチュールやドリス ヴァン ノッテンなどで経験を積み2009年に自身のブランドをローンチ。その後、故郷であるインドネシアに拠点を移し、インドネシアのファッションウィークなどでも発表を行っている。
COVID-19のパンデミック禍のリサーチから「神経細胞(ニューロン)」にいきつき、再生への祈りが込められたコレクション。ブリンブリンしていた球状のデザインパーツはなんと全て1つひとつ手仕事によるビーズだった(バックステージで見せてもらったら圧巻!)。アントワープの先輩(?)でもあるMikio Sakabeのスニーカーブランドgrounds?とのコラボレーションのシューズがモダナイズさをプラスしていた。
「東京は僕にとってはスペシャルな街。ヨーロッパとは違って、自由で、クリエーションに対して寛容なので大好き!」とデザイナーのヘブンさん。
その美しいドレスの仕上がり感、シルエット(特にボトムスライン)は、フォーマルな装いのカルチャーが身近にあるかないかで大きく違うことにも気付かされた。グローバル視点への開眼、これも日本のブランドの課題かもしれない。
TANAKA(タナカ):初めてのランウェイショーyohjiyamamoto x UNIQLO x HUMANMADEのキャリアを活かし、日本製のリーバイス社を目指す
2023年3月18日(土)19:00/渋谷ヒカリエ ヒカリエホール A
TOKYO FASHION AWARD 2023を受賞し、初めてのランウェイショーを披露した日本人デザイナーのブランドTANAKA(タナカ)。NYを拠点とするブランドらしい、グラフィティやカラーリングが、奄美大島、徳島など全国の産地に、デニム生地のカイハラ、デニム加工工場の西江デニムなど日本のものづくりを担うたくさんの工房やメーカーの技術力により、ハイクォリティのデニムウェアが披露された。
デザイナーのタナカサヨリさんは、ヨウジヤマモトを経てファーストリテイリングに入社。ユニクロの東京、上海、ニューヨークオフィスにてウィメンズグローバルデザインチームのリーダーを経て、2017年に独立したというキャリアを持つ。2020年からは、ディレクターとして、ヒューマンメイドを経て、同じくユニクロのUT、メンズグローバルデザインチームのリーダーを勤めたクボシタアキラさんが加わり、まさにグローバルなアパレルマーケットを熟知した、今どき/これからの、最強のデュオによるブランドだ。同ブランドが掲げるコンセプトは、「今までの100年とこれからの100年を紡ぐ服」。日本からリーバイスやヘインズのようなデニムを中心としたブランドを目指している、と『TOKION』の2022年12月のインタビューで語っていた。
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KEISUKEYOSHIDA(ケイスケ ヨシダ)初めての他者との対話から生まれたコレクション
2023年3月18日(土)20:00/渋谷駅地下(将来はタクシープールになる予定だそう)13日から18日の6日間、毎日8?10ブランドが新作を披露した楽天ファッションウィーク、公式スケジュールのフィナーレを飾ったのは、KEISUKEYOSHIDA(ケイスケヨシダ)だった。
会場は、渋谷駅前の地下の工事現場。その天井がむき出しになっている無機質な空間は、まだしばらく続く渋谷の大規模都市開発ののち、タクシープールになるそうだ。そんなインダストリアルな空間に“コの字“型に配されたランウェイは、観客全員が見上げるほど高い。
ファーストルックに登場した「少年」には、同ブランドの初期の頃のイメージが重なった。その後、ボタンやブローチできちんと止められた首元から斜めに広がるラインが美しいジャケットやコートが続いて圧巻、と思いきや、ベルベット調の光沢のあるジャケットのルックが登場。目の前を通り過ぎた瞬間、まるで前後ろ反対に縫われている(?)かのような歪みに首に巻いたスカーフがたなびき、今までの同ブランドにはない気品、エレガントで優しい女性像が浮かび上がった。
「顔まわりにもこだわった」という吉田さん。今シーズンを最後に独立するというアシスタントの中林さんとコラボレーションを試み、フォークやスプーンを歪めた大振りのイヤリングとメタルフレームの眼鏡でクールビューティな表情に仕上げていた。
最後は、水原希子さんがモデルとして登場。今回スタイリングで参加したパリで活躍するレオポルド?ドゥシェマンのアイデアだったそうだ。
「今シーズンのコレクションは、17歳の少年Taikiとの偶然の出会いから始まったんです」と、デザイナーの吉田さんは囲みのインタビューで話してくれた。
「学校に行けなくなって苦しかった時にKEISUKEYOSHIDAの服に出会い、救われた」と、お母さんと一緒に会いにやって来たTaikiを目の前にして、苦しみながら、時に、なんでやっているんだろうと身を削りながらも自分のために創作をしている僕にとって、その言葉は深く響き、彼をミューズにしようと決めたのだそうだ。
「これまで、自分の延長—ある種突き抜けた先に“女性”を見出していたり、少年性を少女に変換した入りして女性像をつくってきた」という吉田さん。今回、彼の中に“愛されているけれど孤独”という点に、恥ずかしながら自分を重ねた、とショーの翌日メディア関係者に配信された4,000文字を超える“NOTE“に告白していた。
Moratorium end, initiation, minding the independent、、、そして、strict(抑制、厳格さ)を今シーズンのキーワードとなったこともそこには記されていた。時代に真摯に向き合い、言葉を紡ぐ“ナラティブなデザイナー“のコレクションには、東京のいまが宿っている。
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