1946年創業の株式会社七彩(ななさい)は2022年11月、服飾デザイン用CADソフトに活用できるデジタル化トルソー「VIRTUAL DRESS FORM(以下バーチャルドレスフォーム)」のプレ販売をスタートした。
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今回の「バーチャルドレスフォーム」ではサステナブルな社会を目指し、働き方の進化に貢献することもミッションの一つだ。
同社は老舗のマネキン会社でありながら、これまでにも「アバターマネキン」や「デジタルコンパニオン」などデジタル事業に積極的に参入してきた。
そこで今回、バーチャルドレスフォーム開発の経緯、デジタル領域への取り組みとサステナブル、今後の展開について同社の営業部 濱田麻維さんにお伺いした。
今まで開発してきたマネキン?トルソーを「造形資産」として、価値創出に挑む
株式会社七彩は、1946年に造形作家の向井良吉を中心に京都で創業し、日本のマネキンメーカーのパイオニアとして業界を牽引してきた。現在は全国の主要都市で、店舗什器や備品の企画?製造?販売?レンタルを始め、空間デザインとディスプレイ内装工事に事業領域を広げている。
これまでにも同社は「インタラクティブマネキン」などデジタル領域に取り組んでいるが、今回のトルソーのデジタル化とどのような関係にあるのだろうか。また、マネキンのデジタル化は同社事業においてどのような位置付けにあるのだろうか。
「インタラクティブマネキンは『売り場と顧客の架け橋になれば』と、2018年にリリースしました。首部分にカメラを内蔵したマネキンで、AIにより顧客と会話し商品や店舗などの音声案内ができる商品です。
今回のバーチャルドレスフォームはトルソーをデジタル化したものですので、まったく違った取り組みになります。
バーチャルドレスフォームは服飾デザイン用のCADソフトに活用できるデジタルトルソーで、東レACS株式会社さまと共同で開発しました。弊社が販売しているトルソーをデジタル化し、ソフトに取り込む事で実物のトルソーを作らなくてもデザインができる仕様を目指しています。
弊社の事業においてマネキンのデジタル化は、拡大していくファッションDX市場にて保有するフィジカルを「造形資産」として使い、価値を作り出していくという挑戦的な位置付けです」
今回なぜ同社の「V-Fair Lady 9AN」「V-MT-20」「V-MT-40」という三つのトルソーをデジタル化することになったのだろうか。
「以前より3Dスキャン技術を使い、マネキンやボディを3Dデータ化して保管を進めてまいりました。そのなかで『デジタル資産であるデータを保管しておくだけではなく、商品として展開できないか』という考えから開発が始まりました。
今回デジタル化したトルソーは弊社の裁断ボディの中心的商品です。特に年代別の平均寸法データを基にしたMTシリーズは、アパレルメーカー様のパタンナー(デザイン画を元に型紙を起こす人)からのニーズが多い商品ですので、メーカー様にとって『1つの基準』となっているのではないかと考えました」
デジタル化したトルソーで地球環境に配慮、働き方の進化といったサステナブルな社会を目指す?
バーチャルドレスフォームは同社ホームページで「サステナブルな社会を目指し、実物のサンプル削減、企画?生産時間の短縮をアシストするために開発したデジタル商材」と紹介されている。具体的にどのような形で持続可能性に繋がるのだろうか。
「バーチャルドレスフォームは、デジタル化だけではなくスマートなモノづくりに貢献していくという役割も担っています。具体的な数値は現段階ではまだ不明ですが、実物のサンプルを作る必要が無いため、サステナブルな地球環境に貢献できる商品といえるでしょう。また、ご利用いただく方が企画?生産を効率化し、結果的に労働時間を短縮させ働き方の進化に繋がればと考えています」
デジタル化にあたって苦労した点?工夫した点などはあるのだろうか。
「3Dスキャンしてモデリングする作業工程では造形を得意とする弊社ならではのスキルが発揮でき、開発はスムーズに進んでいました。
しかし、商品がデータということで、容易にコピーができてしまいます。ここに関する専門知識が無く『どのようにして商品を保守して提供すればよいか』に苦労いたしました。
そこで、東レACS株式会社様のサポートも受けながら、アプリケーション内でのみ使用できるデータとして提供するに至りました」
デジタル化の課題はデータの取り扱い
2023年3月現在はプレ販売の段階だが、実際にトライアルもしくは購入した企業からの反響はあるのだろうか。
「まだ提供を始めたばかりという事もあり、反響を得るところまでは至っていません。しかし、取り組みに賛同いただいている企業様との協業でデジタルツインの有用性があると確認できました」
現時点でのデジタル化に関する課題や、デジタル化による新たな可能性とは。
「やはりデータにどのような保守をかけて販売するかは当面の課題です。今後は弊社の強みであるマネキンのデータを生かした取り組みで、デジタル領域における活躍を想定しています」
環境や人に責任を持ったモノづくりで、持続可能な社会へ向けて貢献したい
今後、同社はマネキンのデジタル化も視野に入れている。どのようなデジタル事業の拡大を想定しているのだろうか。
「マネキンに関しては『洋服を美しく魅せる』という使命がございますが、新領域でアバター化したマネキンがそのその使命を果たしてくれると思っています。
また、これからはアパレル3DCADツールでご利用いただける商品を考えています。データ商材の活用とは違った側面では、商空間をVR化する取り組みにもチャレンジしています」
最後に、ファッションに関わる企業として今後デジタル化に関する目標や、実現したい取り組みについて聞いた。
「マネキンを作り続けて75年。ファッションと共に成長してきました。弊社は自社のオリジナルのマネキンだけでなく、数々の著名なブランドの特注オーダーのマネキンもフィジカルで制作させていただいています。
加えて今後はVRの商空間でもブランドの世界観を演出して頂くことができるように、将来的にはデジタルの特注オーダーにも取り組み、フィジカルとデジタルの両面でマネキンメーカーのリーディングカンパニーとして進化していきたいと考えています。
そのうえで環境や人に責任を持ったモノづくりを行い、微力ではございますが、ファッションテック業界の発展と持続可能な社会へ向けて貢献してまいります」
マネキン?トルソー開発?製造のノウハウを活かし、ファッションテック業界の発展やサステナブルな社会への貢献など、活動の幅を広げていく株式会社七彩。同社の取り組みに今後も注目したい。
Text by Asami Tanaka
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