パッケージシステムの開発?販売事業を手掛ける「株式会社アベイル」が、3Dデータ圧縮&閲覧ツール『karumi(カルミ)』の提供を開始した。karumiは、専用のソフトなしで誰でも3Dデータの圧縮?最適化ができる「karu(カル)」と、データをサーバーに保存してインターネット経由で閲覧する「mi(ミ)」で構成されている。「3Dデータを誰もがもっと気軽に、簡単に活用できるように」という思いを込めて、同社ではkarumiのさらなるアップデートに取り組んでいる真っ最中だ。今回は、同社で常務取締役を務める小谷雄祐さんに、karumiの開発に至った経緯や活用事例、今後の展望などを伺った。
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PROFILE|プロフィール
小谷 雄祐(おだに ゆうすけ)
株式会社アベイル 常務取締役クラウドソリューション事業部 事業部長
3Dデータ圧縮&閲覧ツール「karumi」の開発背景
株式会社アベイルの顧客は、ほとんどがアパレル業界の企業のため、同社ではこの業界に特化したシステム開発を行っている。「弊社の強みは、アパレル業界の知識もあるシステムエンジニアが多数在籍していることです。システムの開発時には、事例などをもとにした提案を行えるため、よりスムーズな開発?導入を実現できています」3Dデータ圧縮&閲覧ツール「karumi」は、もともと制作予定のものではなかった。開発に至ったのは、「3Dで服の着用シミュレーションを見せることができれば、面白いのではないか」と考えたことがきっかけだという。「当初は、2D画像を使用した服のシミュレーションアプリを作ろうとしており、『ユーザーの選択内容に応じて、服の2D画像が切り替わる』という構想でした。具体的に言うと、身長?体型?服の柄を選択すれば、自分の身長や体型に近いアバターで服の着用感をシミュレーションできる、というものです。しかし、そのようなアプリはすでに世の中にたくさんあり、新規性に欠けると感じました。そこで、『2Dではなく、3Dでシミュレーションを見られると面白いのではないか』と我々は考えました」同社は、主にパッケージシステムの開発?販売を行っているが、それ以外にも海外3Dシミュレーションソフトの代理店も担う。「3Dデータを直接Webアプリで使用することができれば、代理店としても分かりやすくデータの活用事例を見せられるようになる」とも考えたそうだ。「しかし、インターネットを通じて3Dデータをそのまま一般の人たちに見せるのには、『データサイズが重すぎる』『3Dのビューワの実装が面倒』など、いくつか課題がありました。特にデータサイズの問題は、クリアしなければなりません。アクセスに時間がかかりすぎると、ユーザーの多くはサイトから離脱してしまうからです。最適化を考えずに弊社の3Dシミュレーションソフトでデータを作成すると、数十MB(メガバイト)から数百MBを超えるサイズになってしまいます。せめて電子メールに添付できるくらいのサイズまで小さくできないかと考え、データの構成を調べて圧縮方法を検討しました」
試行錯誤の末、データを圧縮する方法は分かったものの、手作業の処理では時間がかかりすぎてしまったという。データの種類にもよるが、1データ当たり1時間近くかかることもあるそうだ。
「データの圧縮作業を楽にするために、ボタン一つで3Dデータを圧縮できるようにしようと作ったのが『karu』です。サーバーにデータをアップロードしないため、データ漏洩のリスクがないのが特徴です。
一方で、『mi』は、圧縮したデータを簡単に共有できるようにすることをコンセプトに開発しました。実は、glTFビューワは世の中にたくさん展開されていますが、まだ汎用的なツールとは言えない状態です。そのため、弊社では誰でも手軽にデータを見たり、誰かに見せたりできるツールの開発を目指しました」
一般的に、サーバー上で処理するプログラムの実装は自由度が高く、より高負荷な処理も実現しやすくなっている。一方で、すべてをブラウザ上で処理するにはさまざまな制限があり、開発の難易度が高くなるそうだ。
「サーバーにデータをアップロードせずにブラウザ上で処理を実行できるようにするのは大変でしたが、関連するオープンソースのコードを読み解いたり、新しい技術を積極的に試したりして、実現に至りました。
3Dのデータフォーマットについては、世界的に新たな規格が策定されているので、今後はより活用しやすくなっていくと思っています。情報を常にフォローアップし、先端技術を広く皆様にご提供できるよう努力していきたいと思います」
誰もがより手軽に利用できるサービスへ
karumiを使えば、店頭はもちろん、オンラインストアや営業の訪問先などでも3Dデータを活用できる。「弊社が考えている活用例としては、店頭でタブレットやデジタルサイネージ(ディスプレイ?電子看板)などを使って、3Dカタログとして販促に使用したり、オンラインストアに3Dデータを掲載してより分かりやすく、楽しく商品イメージを伝えたり。また、営業ツールとして2D画像の資料とともにタブレットなどで3Dイメージを見せたり、専用ソフトなしでの社内外でのデータ共有に活用したりもできます」実際に、karumiはエプソン販売株式会社と株式会社三陽商会(以下、三陽商会)、同社の3社で行っている「アパレル3Dソリューション×無在庫ビジネス構想」に活用されている。三陽商会が展開しているサステナブルファッションブランド「ECOALF(エコアルフ) 」では、実サンプルのない服の3Dサンプルデータを用意し、店頭でタブレットを使用してそのデータを見てもらう受注生産を実現した。「弊社は、3Dシミュレータソフト『VStitcher』の販売代理店であるため、アパレル3Dデータに精通していることが強みのひとつと考えています。しかし、karumiでは、3Dデータを誰もがもっと気軽に簡単に活用できることに主眼を置いています。そのため、データを作成する3Dシミュレーションソフトや製品データの種類に関わらず使えるようにしたい、と考えています。洋服のデータ以外にも、バッグやアクセサリーなどの服飾雑貨のデータはもちろん、ゆくゆくは自動車や工業製品のデータでも使えるようにしたいです。対象を絞り込むのではなく、より開かれたサービスを追求したいと思っています」
アパレル業界になくてはならない企業を目指して
karumiは、構想からローンチまではおよそ1年を費やしたとはいえ、構想全体に対して、現状ではまだ開発半ばだという。特に閲覧ツール「mi」については、管理画面の実装も含め、今後大きく機能が充実していく予定だそう。「現在、『mi』は管理画面の実装中です。当面の目標は、これをできるだけ早い段階でリリースすることです。『karu』は、今提供している機能を実際の使用方法に合わせてブラッシュアップするつもりです。現時点では、あらかじめ用意したテクスチャ自動圧縮モード『low、middle、high』を選択し、ボタンを押すと圧縮できるようになっていますが、自らが好む圧縮レシピを登録できるようにしてもいいのかなと考えています」karumiのロゴの雲に見える部分は、「&」のシルエット。これには、「karuとmiをつなぐ」という意味以外にも、「多くの人をつなぐツールであってほしい」というアベイルの思いが込められている。「karumiが、より多くの人が気軽に3Dデータを活用できる『&』になるように、今後も発展させていきたいと思っています。また、karumiに付随して、3Dを活用したアプリやサービスを企画中です。最新技術を取り入れつつ、顧客サポートもしっかりと行い、アパレル業界になくてはならない企業を目指していきます」
Text by 奥山 りか
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