Image by: FASHIONSNAP
もうファッションショーは、単なるプロモーションのツールとして見られてしまうのだろうか、と昨今のショーに対する報道を見ているとそう思ってしまう部分があった。
もちろんファッションショーは、その機能も果たすものであることは承知。むしろ多くのインフルエンス力が集うことで産業としての盛り上がりをつくり、そこから興味を持った学生や他業種の人々がファッションの未来をより良いものにしていく可能性を信じたい。興味を持つ間口さえ作れば、コレクションやファッションには単なる華やかさだけではない、深層があるからだ。ファッションをファッションのものだけにして、ファッションをファッションで語るのはもう時代的にも経済的にも難しい。
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一方で、少し前までの状況から揺り戻すように到来した「クワイエットラグジュアリー」に、彼らがフォローしていく流れは、少し恐ろしい状況なようにも感じていた。表面上の意味では、ロゴや過剰なデザインに価値を見出すのではなく、これからは分かりやすい価値ではなく、素材や仕立てで上質さを価値として引き立たせていきましょうというもの。上質な服を買って長く愛して着ることは同意するし、ロゴだけで特権感を演出するのはダサいと思うし、色々納得する部分はある。しかし結局のところ、それは着用者のベースのポテンシャルも同時に試されているようにも見えてしまうのだ。これだけ全世界中で多様性が謳われる中で、SNS上ではいまだに画一的な美意識に走る現実も多くある。どんなに他者と比べるな、自己を愛せと言ってもこれだけ四方八方から情報を浴びるいま、他者の存在をシャットアウトすることは困難なのだから。
だからこそ、表面だけをなぞるプロモーションではなく、しっかりとコレクションに込められた旨味をショーに留まらずいろいろな方法で継続的に味合わせていくブランドの方が安心感を覚える。発信するメディア側にもその責任はあると思う。インフルエンス力のある方々も、少しずつ「かわいい」「かっこいい」の言葉だけではない形で発信しようとしている。そうすることで結果的に、長くブランドを愛したり、一着を大切に着たり、トレンドに振り回されることなく服が持つ多面性をスタイリング次第で楽しめるという消費行動をエデュケーションできるのではないのだろうか(世界のどこかで毎日悲惨なことが起き、格差社会が進む中で、ただの理想論でしかないかもしれないとも本音では思ってしまう)。反対に、中身に大した強度がないのにショーのプロモーション次第で、どうとでも虚構的な盛り上がりを作れるカラクリに旨味を感じているケースも目撃する。なぜショーで開催するのだろうかとぼんやりとした疑問とともに、一般的なランウェイショーに抱かれる幻想だけがそこには浮かび上がってくる。
そんなモヤモヤした気持ちをKota Gushikenは、一気に笑いで吹き飛ばしてくれた。
TOKYO FASHION AWARDを受賞したことによる機会として、ヒカリエAホールでの初めてのファッションウィークへの参加。日程が近づくギリギリまでデザイナー本人は、Instagramで誰でも入場可能にできるようにインビテーション画像投稿し、スクショするように呼びかける光景は少し異例だった。当日を迎え、その画像は消されていたが、ランウェイがなく座席もないヒカリエホールには多くのファンが詰めかけていた。
観客から少し見上げた位置にセットされた舞台の背景には、「orgnaseid well」という注意深く見ないと分からない程度のスペルミスのコレクションタイトル。ラックにかかったニットウェアに囲まれながら、プレゼンテーション形式で左から右へとモデルが登場する中で、コレクションが徐々に整理されていくのだと思っていた。しかしそんな自分の想像をはるかに裏切るように登場したのはお笑い芸人の又吉直樹氏(ピース)と好井まさお氏のふたりだった。
共通の友人から聞いた話だが、去年の夏に又吉氏と好井氏と具志堅氏は呑みに行っていたらしい。きっとそこからの縁だったのだと帰路で納得いくほど、舞台上でのふたりのKota Gushikenへのボケとツッコミはナチュラルだった。
しかし、又吉氏が出てもなお後ろの方では「あの人だれ?」という会話が行き交うほど、ファッションの現場でショー以外のライブやパフォーマンスをするのは、かなりハードルが高い。ここ最近、月1回お笑いの劇場に通っている筆者にとっては、もはやランウェイよりも親しみを持てる光景だったが、内心本当にファッションの現場で笑いが起きるのか序盤の空気からやや不安ではあった。客観的に見ればツッコミしがいのある服ばかりが発表されているはずのファッションウィークの真面目さをそもそも覆すところから始まるからだ。
やや緊張気味のふたりが始めた、ショートコント「展示会」。Kota Gushikenの展示会に来た設定で、お互いのニットウェアを褒めあったり、ニットのスカジャンに驚きを感じたり、筒状になった赤色のニットワンピースでモノボケをしたり、Kota Gushikenがこれまでに向き合ってきたニットウェアの魅力を幾度となく彼らが伝えていくうちに、序盤の空気をみなが忘れるほどに会場の空気はどんどん軽くなっていくのを感じた。
最後には、Kota Gushikenのルック画像を使ったスライドネタを披露し、Kota Gushikenではないニットウェアを映した写真もアイロニカルに、でも笑いにかわるほどの温かさがそこには漂う異様な光景がつくり出されていた。みんながKota Gushikenのブランドそのもの、ニットウェアに愛を感じていたのだと思う。
これからはパリと東京で継続的に展示会をやっていきたいという潔さのもと、一回切りのプレゼンテーションの場だったからこそ大胆にできた試みではあったのだと思う。それでも「みんなが楽しかったと思える時間にしたかった」という具志堅氏の純粋な想いは、TOKYO FASHION AWARDやランウェイ形式、ファッションにとらわれずに生きる全ての人を肩肘張らずにフラットに包みこみ、またショーとは異なる方法で、かつファッションとお笑いの共通点である、共感性と非日常性のはざまへの我々を誘ってくれた。
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