

やっぱりなという感じだ。このコラムで取り上げたメルカリの米国事業。ずっと赤字が続いていたが、プロモーションコストの削減などが奏功し、2025年6月期決算でようやく黒字化した。コラムでは、本業のフリマアプリでも稼げるようにするには、日本での出品商品を米国の消費者も購入できるようにすべきではと書いた。その通りに進むようだ。メルカリは25年9月30日、海外のユーザーが日本で出品された商品を購入できる専用のフリマアプリを始動すると発表。3年後の28年を目処に欧米やアジアなど50カ国以上で利用可能にするという。
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メルカリではこれまで米国版のユーザーが日本版の商品を検索?購入するには、公式連携足球即时比分,比分直播Mercari×Japanを利用するしかなかった。しかも、その仕組みは越境EC事業者(Buyeeなど)が米国のユーザーに代わって日本版の出品者から商品を購入し、?出品者がまず商品を越境EC事業者の日本国内の指定住所へ発送しなければならなかった。あとは越境EC事業者が米国の購入者に商品を発送してくれるのだが、米国、日本のユーザー双方にとってシステムが周りくどく、すんなり利用できるというものには程遠かった。
専用のフリマアプリは、日本のユーザーが国内版のメルカリで出品すると、AI(人工知能)が商品名やスペック、詳細を現地の言語に変換してくれる。海外のユーザーは商品名などが母国語に翻訳されているため、商品内容がわかりやすくなる。それだけ成約率が上がる可能性が高いということだ。購入の具体的な仕組みは以下になる。海外のユーザーから注文が入ると、日本の出品者は国内のメルカリ倉庫に商品を送ると、メルカリが海外のユーザーに発送してくれる。国際配送は佐川急便が担い、日本のユーザーは倉庫まで、海外のユーザーは倉庫から自国までの送料をそれぞれ負担することになる。
また、不良品や破損の商品や説明と異なるものがないかを確認するために、2026年1月以降はメルカリが商品について海外発送する以前に検品する体制を整える。ただ、専用のフリマアプリでは海外のユーザーが出品や価格交渉をすることはできない。あくまで商品を購入するだけだ。メルカリはアニメやゲーム、トレーディングカードなど人気コンテンツの専用ページも開設する。海外のユーザーが欲しい商品を探しやすいようにするといった購入促進を図り、並行して予約販売や鑑定サービスも提供する。さらに個人ユーザーだけでなく、企業からの出品も受け付ける。中古品の販売事業者が直接海外から注文を受け付けるには言葉の壁などのハードルがあるが、メルカリ側がそれを代行することで中古品販売業者が海外に販路を広げられる。この辺は海外で店舗を展開し始めたセカンドストリートに対抗するものと見られる。
従来のMercari×Japanのように第三者が代行するのではなく、メルカリが出品?管理?発送まで行なってくる点は、シンプルかつスピーディな仕組みになった。購入者はもちろん、出品者にとってもメリットだ。しかし、購入相手が海外在住だけに、日本のユーザーに商品代金が入金されるまでには時間がかかることは同じ。メルカリが全てを管理してくれるのでトラブルが避けられる点は安心だが、そうしたリスクヘッジと現金化に要する時間を両天秤にかけた時、ユーザーがどちらを優先するかである。それでも販路が海外にも広がるという意味では、個人、中古品販売事業者の双方にとって利点になる。メルカリの国内月間利用者は2000万人を超えたものの、伸び率は頭打ちだ。2025年6月の国内流通総額も前期比4%増と18年の上場以来、最も低い。ビジネス面で踊り場にあると見れば、やはりテコ入れが必要で、新たな販路拡大が海外のユーザーの越境取引だったわけだ。
米国事業は黒字化したとは言え、フリマアプリで稼いだわけではない。中国系越境ECのSHEINやTemuは低価格を武器にリセール市場から顧客を収奪している。メルカリを取り巻く環境は決して安穏たる状況ではない。メルカリにとっては、アニメのフィギュアやキャラクターのぬいぐるみ、レアなトレーディングカードなど、海外でも人気の高い商品で勝負していくしかない。とすれば、そうした商品の流通総額を大きくして、海外ユーザーの目に触れる機会を増やしていくことが重要になる。現に2024年には米国のユーザーが日本から商品を購入した額は約1兆6000億円で前年比8%増。中国からの購入額は約2兆6300億円で同8.5%増。ともに増加傾向にあるのだから、この成長軌道をいかに維持していくかがカギになる。

米国ではトランプ関税により、低価格商品が割高になることが懸念される。そのため、中古品のリユースや修理して暫定対応する動きがあるのではないかと、考えられている。現に低所得者が多い米国では格安の商品が入ってこなくなると、消費者が生活防衛を考えて中古品の購入などThrift(スリフト/倹約)に動き、緊急避難的にリユース市場が拡大すると言われる。すでにユーチューブなどを通じて日用品を修理して使う意識も広がりつつあるが、そのコストが新品より高くなれば利用は限定的だ。トランプ大統領が宣う米国内で製造業を再興させるのは厳しいにしても、中国とその周辺国に頼らない新たなサプライチェーンの構築や中古品のリユースや修理、対応する倹約スタイルが広がれば、米国経済の活性化にはつながる。それはメルカリにとっても追い風と考えられる。
しかし、それにも暗雲が立ち込める。トランプ政権は8月29日から800ドル未満の小口荷物について関税を免除するデ?ミニミス?ルールを廃止した。小口貨物への課税は、中国系越境ECのTemuやSHEINをターゲットにしたことは間違いない。両社はこれまでは安さを武器に世界中に商品を流通させてきたが、トランプ関税で価格が上がり、米国内での競争力が一定程度削がれることになる。それはある意味、トランプ政権の狙いでもあるのだが、一部の企業は米国内に倉庫施設を設けて中国からの直送を減らすなど、物流政策の見直しを始めている。ただ、現地調達を増やすにしても、商品価格の上昇は避けられない。また、在庫をどこまで積み上げられるのかは不透明で、いつまで続けられるかはわからない。すでにTemuやSHEINの納入業者は受注が減少し、経営体力が乏しい町工場は次々と廃業に追い込まれている。

一方、デ?ミニミス?ルールの撤廃により、欧州連合(EU)から米国に発送される製品には15%の関税が課せられる。フランスの国営郵便局ラ?ポストは、毎年平均160万個の小包を米国に送っており、その20%は個人からのものという。同社は新しい関税規則が8月15日に発表されたばかりで準備期間が極めて限られると、8月25日から米国への小包の発送を停止した。他の欧州各国も追随する。ドイツのドイツポスト、スペインのコレオス、イタリアのポステ?イタリアーネ、ベルギー、スウェーデン、デンマークの郵便局は、トランプ関税の影響が不透明であることを理由に米国への小包の発送の大部分を停止。一方、オーストリアのオーストリア?ポストと英国のロイヤルメールは、8月末の関税発効前に発送された荷物が米国に到着するのに十分な時間を確保するため、8月26日に荷物の受け取りを停止すると発表した。タイムラグがあるにしても、米国への小包の発送を停止することに変わりはない。
日本はどうか。日本郵便は8月27日から米国宛ての大半の郵便物 (小包?EMS物品等) の引受を停止すると発表した。関税の支払いなどで混乱が生じることを懸念しての措置とみられる。ただ、手紙、はがき、印刷物、EMS (書類) のほか、100USドル以下の個人間ギフトについては従来通り引き受けてくれる。他の運送事業者では、引き続き米国宛の配送を受け付ける。ただ、関税支払いがなくなるわけでなく、DDU (関税未払い引渡し)か、DDP (関税込み配送渡し)を選択しなければならない。DHLやFedExはDDUとDDPの両方に対応している。DDUを選ぶと、米国内の受取人が配送会社に直接関税?消費税?手数料を支払わなければならず、事情を知らない消費者が商品を受け取らないで、キャンセルすることも考えられる。10月初めの時点で、小口郵便の発送停止は、EUも日本も解除していない。
メルカリの越境取引では佐川急便が国際配送を担当するので、小口荷物が止まることがないと思うが、15%の関税がかかることに変わりはない。ルール撤廃による通関手続きの複雑化、輸送の長期化などが影響して、米国のユーザーがせっかく日本のメルカリで掘り出し物を見つけても、購入を躊躇うことも考えられる。まさか荷物名を100USドル以下の個人間ギフトと偽って免税にすることはないと思うが。あとは、米国内の景気次第だろうか。これはメルカリとしては他力本願になるので、見極めは難しい。トランプ関税の影響で、米国内の物価高が懸念されたが、現実には関税が上がった分は企業が利益を削って負担している。消費者への価格転嫁も想定より遅れているが、外部圧力によるインフレで給料が目減りすれば、低所得層の生活を圧迫する。コロナ禍後の世界経済を引っ張ってきた米国経済が後退すれば、米国民の個人消費は鈍化するのは間違いない。今後、低所得層のみならず中所得層までが生活防衛のために、倹約に回ってリセール品を購入するようになれば、メリカリにとってはむしろ追い風になる。
人口減少でこれ以上の伸びに期待できない国内市場と違い、米国は伸び代があるとメルカリは進出したのだが、思惑通りにいかないところがビジネスの難しさでもある。どちらにしても、メルカリとしては米国のユーザーが価格が割高でも買いたくなる商品をいかに展開できるか。やはりアニメのフィギュアやキャラクターのぬいぐるみ、レアなトレーディングカードなどのコンテンツがカギを握っている。日本は次々と新しいカルチャーを生み出し、それが世界のファンを惹きつけているのは確かだ。そうした文化の副産物を手軽に購入できる環境をいかに整備していくか。それがメルカリのビジネスソリューションであるのは間違いない。
※当コラムは2010年ごろからGoo Blogにて執筆をスタートしました。ですが、25年11月18日でサイトのサービスが終了することになり、Amebaへの引越しを致しました。過去14年にわたる月別アーカイブは、2011年から併載していますlivedoorブログでご覧いただけます。
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