時代が陰りを帯びると、ファッション界では真逆のポジティブ感が打ち出される傾向があります。コロナ禍が世界を覆った結果、モードが向かったのは「健康美」の提案です。ナチュラルな「アンセクシー?ヘルシー」は2021年春夏のキーテーマに浮上。フレッシュなイメージや、はつらつとしたテイストが前面に押し出されています。元気感を盛り込んだ素肌見せを仕掛けて、自分にも周りにもパワーをチャージするような装いは、エイジレスのロングトレンドとも通じる着こなしです。
(文?ファッションジャーナリスト 宮田理江)
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ファッションは着る人を励ましたり導いたりする働きを持っています。世界が深刻な病に襲われた"with コロナ"時代に入り、デザイナーたちは着る人の気持ちに寄り添いながら、服に希望や楽観を込めたクリエイションを披露。その最もはっきりした表れが「ヘルシー」です。自然の力を借り受けるかのように、ナチュラル感を盛り込むのも2021年春夏の目立った新傾向。「人生100年時代」と言われる今、若々しさや生命力を感じさせるエイジレスなムードが強まっていて、ヘルシーなスタイルからは肌越しにビタミンをもらえるかのようです。
◆脱セクシー、さわやかにチラ腹見せ
ヘルシーのトレンドを象徴するのは、健やかさを物語る程よい肌見せです。首からデコルテにかけて、また両腕やウエスト周りなど、様々なスポットで素肌を露出。セクシーを遠ざけつつ、バケットハットといったメンズライクなアイテムをミックスするなど、クリーンでキュートなスタイルに整えます。
たとえば、シャツの裾側のボタンを多めに開けて、お腹周りで三角形の窓を作ると、細見え効果も期待できます。森のパワーをもらえそうなグリーンをはじめ、海のブルーや果物のオレンジといった様々な天然色を取り入れて、装いにさわやかさやジューシーな彩りを添えるのが「さわやか系肌見せ」のコツです。
◆健やかさとダンディーが同居した肌見せ
凜々しさやアクティブ感の高まりも、2021年春夏の際立った変化と言えるでしょう。疫病の恐怖に立ち向かうかのように、強さやパワーを秘めた装いが打ち出されました。たとえば、ヨガウェア風のショート丈トップスの上から、メンズライクなテーラードジャケットを重ねるような着方には、健やかさとダンディーが同居。ネガティブな気分を寄せ付けない強さも感じさせます。
ワークウエアやアウトドアのタフネスなディテールは、このようなスタイリングと好相性。ベースボールキャップやスイムウェア風トップスのようなスポーツイメージを帯びたアイテムも盛り込まれます。綺麗に色落ちしたジーンズとショートブーツで軽快にまとめるような着こなしは、適度な肌見せに凛としたムードを添えてくれます。
◆クロップドトップスでエイジレスとくびれを強調
Z世代への目配りに加え、エイジレスの加速を受けて、装いが若返ります。大人世代にも違和感を与えない洗練度はキープしつつ、トップスの大胆なカッティングがアイキャッチーな演出。ショート丈トップスを生かして、健康的なウエストのくびれを強調します。
大人っぽく見せる着こなしのポイントは、素肌を見せるスポットを限定して、残りは上質な素材で肌を隠すこと。素肌も「服」の一部と位置づけて、クリーンなイメージで着こなすと、どの世代も取り入れやすくなります。着丈の短いクロップドトップスやショートジャケットは春夏のキーアイテム。ロングボトムスとの好バランスを発揮してくれるので、ワードローブに迎え入れる価値がありそうです。
◆シアーロングアウターで素足をカムフラージュ
素肌の透明感を引き出すうえで、シアー素材は効果的です。軽やかな透ける生地を利用して、エアリーなムードをまとうことができます。ゆったりしたシルエットのライトアウターは風をはらんで、春夏らしい清涼感を連れてきます。ほんのり透けるウエア同士を重ねるレイヤードも涼やかなたたずまい。網目のメッシュ素材は、軽快でスポーティな印象を寄り添わせてくれそうです。
足元の主役に迎えたいのは、のどかな景色のフラットサンダル。リゾート地に出掛けにくい状況の中、ビーチサイドの装いが街にお引っ越し。トレンドのショートパンツも軽やかなシアーのロングアウターを重ねれば、素足をさりげなくカムフラージュしてくれます。
◆スポット肌見せ、自然体のサマーレイヤード
コンパクトな装いがフレッシュで初々しい雰囲気を印象づけます。タイトにフィットしたミニ丈のワンピースは、ヘルシートレンドの代表的なコーデ。シャープなレッグラインを引き立てます。気取らないリアルクローズ感覚が強まるのも、2021年春夏の方向を示す変化です。ニューノーマルの長期化を見越して、デイリーなおしゃれの選択肢を広げました。
着こなしのポイントは、ノンシャランとした雰囲気で落ち着かせるような自然体のスタイリング。たとえば、ストリートのアイコン的なフーディーをミニ丈ワンピースにオン。足首にストラップをぐるぐると巻き付けたオープントゥ?シューズで足元にボリュームを出して。カットアウトや穴開けによる部分的な肌見せを取り入れれば、しなやかなサマーレイヤードを組み立てられます。
◆ワンショルダーにフラットシューズで「コンフォート見え」
ヘルシーな靴や小物の提案も相次いでいます。ハイヒールが当たり前だったパリコレでも、2021年春夏は履き心地がコンフォートなフラットシューズが増えました。一方、ハードな見え具合のコンバットブーツも春夏シーズンに持ち込まれ、シーズンレスが加速。草履風のトングサンダルは人気急浮上のアイテム。素足で履くだけではなく、レッグウェアと合わせるようなアレンジの幅が広がります。
ワンショルダーで肩を露出してヌーディーな装いを引き立てる発展形ヘルシーも、伸びやかな雰囲気を際立たせる着方。小物類ではゴーグルのようなアイウェアや荷物を詰め込んだバッグなど、身を守る「プロテクション(防護)」意識を映したアイテムも登場しています。
◆◆◆
ヘルシートレンドの盛り上がりはコロナ禍の裏返しと言えますが、着飾るのではなく内側から健康美を引き出すのは、以前から徐々に勢いを増してきた流れでもあります。エクササイズ感覚を取り入れた「アスレジャー」の進化形とも映り、さらに拡張の余地がありそう。これまでとの違いは、肌を見せつつも、オーバーサイズやメンズテイスト、スポーティなどのエッセンスをミックスするところにあります。見た目よりも本質、他人の目よりも自分流のハッピー感を優先する意識もあって、この先も続くロングトレンドに育ちそうです。
文?宮田理江
ファッションジャーナリスト?ファッションディレクター。多彩なメディアでコレクショントレンド情報、着こなし解説、映画×ファッションなどを幅広く発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かし、自らのTV通版ブランドもプロデュース。著書に「おしゃれの近道」(学研パブリッシング)ほかがある。
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