AKIKOAOKI 2023年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP
ラグジュアリーブランドと形容されるものの殆どは、フランスやイタリアなどカトリック圏から誕生している。ココ?シャネルをはじめ、エルザ?スキャパレリやジョン?ガリアーノなど欧米デザイナーの多くがカトリックを信仰しており、ステンドグラスやシャンデリアなどカトリック教会の豪華絢爛な装飾などに強く影響を受けてきた。一方、教会のデザインも簡素で、働き者であることや、節制や倹約を実践することを重要視するのがプロテスタントだが、プロテスタンティズムの倫理が資本主義の発展を促す要因となったとするマックス?ヴェーバーの考察に倣うと、自己利益追求と競争原理に基づく資本主義という経済システムと、カトリシズムが軸にあると思われるファッションにおけるラグジュアリー、エレガンスというものは、同じ出自のように見えて実は根底の部分で性質が違うものなのかもしれない。神を尊ぶが故に生まれた豪華装飾の数々は、信仰心はさておき、現代のファッションクリエイションにも形として受け継がれ、神との関係性や聖書の教え、神秘的な要素に重きを置くカトリシズムの精神性もまた現代のファッションデザイナーに散見されるアイデンティティである。
「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」の青木明子も、カトリックの影響を受けてきたデザイナーの一人。幼稚舎から高校まで厳格なカトリックの一貫校で育った同氏は、2023年秋冬コレクションを製作する上で、イエスキリストの母マリアという抽象的な質感を題材にした。
2020-21年秋冬コレクションで行ったプレゼンテーション以来、久しぶりに展示会ではない発表方法を選んだアキコアオキは、カトリック教会にあるシャンデリアのように複数のライトを吊るした会場でショーを行う上で、人として生きながら、ある日突然運命を告げられ、何百年も誰かの救いとなってきたマリアという存在と現代人の出会い方とはどういったものなのかを思案したという。これまでファッションを通じて新しい人間像を追求してきたアキコアオキが、具体的な人物像として聖母マリアを挙げたことを珍しく思ったが、それは新しい人間像、もとい新しい価値を創造する上で必要なことはファンタジーの世界に目を向けるのではなく、見慣れたものの延長線上にある世界を目指すべきだと考える彼女のリアリスティックな一面によるもの。アキコアオキが得意とするユニフォームは、その最たる例で、見慣れたものを再構築し新たな価値を付与しようと企む同氏のデザイン哲学は、ブレず一貫している。
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ユニフォームをベースに、ミリタリーやスホ?ーツウェア、ヒストリカルコスチュームなど幅広い要素を、マリアという軸の中で足し引きして作り上げた29体のルックは、2014年にデビューして以来、アキコアオキが突き詰めてきたIラインのフォルムが核にある。足元は、Three Treasuresとの協業としてオンラインて?発表した「Aerial Garden」をショーヒ?ースとして進化させた超厚底シューズで高さを出し、胸位置のポケットに手を入れるなどして作るIラインフォルムの中に、後ろ身頃を立ち上げるとマリアベールのようになり顔を覆うことができるシャツやジャケットを差し込むことでマリアという抽象性を具体化した。個人的に注目したデザインは前後のフォルム。近年、国内外で肩に力点を置いたデザインが主流の中、おそらく下着、コルセットの延長にあるものだと推測されるが、アキコアオキはスーチング地を折りたたみ、縫い付けたシンメトリーのデザインで新たな提案を試みた。これはブランドのアイデンティティであるIラインフォルムを更新させる、思考錯誤の中で生まれたアイデアであろう。結果として、他との差異を生み出すことに成功しており、縛りつけたボンテージのディテールも、同様にIラインフォルムの追求からだろう。
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
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つまるところ、アキコアオキが持つエレガンスの本質はカトリシズムの倫理、精神性からくるものなのだと思う。浪漫主義で、神秘性を感じさせる作品群、それに伴う彼女の活動は、ファッションクリエイションを行う上での"信じるモノ"との関係性を強化するためで、その中で、もがき苦しみながらアウトプットをしている、と考えると合点がいく。今シーズンはパリで展示会も行い手応えを感じたそうだが、もしかすると日本よりもカトリック圏のほうがアキコアオキのクリエイションに理解を示すスピードは早いかもしれない。
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