パリ中心部から車で約1時間。「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のショー会場に到着し、メインホールに足を踏み入れると同時に湿った土の匂いが漂ってきた。暗闇に目を凝らすと、ランウェイがあるべき場所に大量の泥。その荒くれた道をモデルが歩けば、当然のことながら服もシューズも泥まみれになっていく。バレンシアガのデムナ(Demna)が2023年サマーコレクションで表現したのは荒廃した世界か、それともラグジュアリーへのアンチテーゼか。ファーストモデルにはサプライズも。
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苦難のランウェイとカニエ?ウェスト
コロナが本格化する直前の2020年ウィンターコレクションでは水没したランウェイで地球の環境変動を彷彿とさせ、そして前回の2022年ウィンターコレクションでは、猛吹雪の中をモデルが歩くショーを通じて反戦を示唆したデムナ。今シーズンも引き続き苦難を思わせるランウェイが用意され、デムナはこれを「真実を掘り下げ、現実的であることのメタファー」と表現した。
フロア全体を埋め尽くす泥の中央には大きな凹みがあり、モデルが歩く部分には水溜まりも。この異様な光景にライトが照らされると、一人目のモデルが姿を現した。
デムナによるバレンシアガのショールックは黒で幕開けするのが恒例。今回も同じくファーストルックは黒一色だったが、サプライズだったのはモデルがYe(カニエ?ウェスト)だったことだ。胸に「SECURITY」のロゴを掲げ、複数の収納アダプタがプロテクターのように取り付けられた屈強なジャケットとバイカーパンツが迫力のシルエットを描く。キャップには「2023」のロゴ。泥水を蹴散らしながらウォーキングする様は、混沌とした時代におけるセキュリティとは何かを暗示させるルックとなった。
ファーストルックのYe Video by FASHIONSNAP
2つのシルエット
バレンシアガの代名詞的なビッグシルエットに混ざり、今シーズンはタイトなトップスにボリュームのあるボトムスを組み合わせたシルエットが多く提案されている。ボンバージャケットやパファージャケットなどの定番アイテムも、コンパクトなサイズで登場しバリエーションの豊富さを感じさせた。
また、汚れやダメージなど手の込んだ加工が施されたスタイルと、クリスタルの装飾が美しく輝くスタイルの対比も今シーズンの特徴だ。
2つのシルエット courtesy of Balenciaga
激しいダメージデニムとスケーターフーディ
前半の特徴的なアイテムは、スーパーデストロイドデニムのジャケットとバギーパンツ。日本製のオーガニックデニムに、激しいクラッシュや汚れなど原型を留めないほどのダメージ加工が施されている。
courtesy of Balenciaga
中盤はスケーターカルチャーから影響を受けたアイテムに注目。オーバーサイズのテーラードスーツにグラフィティを載せ、またダメージ加工が施されたフーディもセットアップで提案された。
courtesy of Balenciaga
ラグジュアリーの概念を揺るがす
多用されているのがTシャツのディテール。ミニマルなストレッチ素材のドレスや、ブーツまでオールインワンのプリーツドレスの首元にバインダーネックをドッキング。また終盤に登場した総クリスタルのドレスもTシャツのパターンを応用しており、デムナらしいリアリティを随所に感じさせる。
courtesy of Balenciaga
男性モデルが着用したコルセットや、終盤に登場したパンツとスカートをドッキングしたボトムも今シーズンのキーアイテム。ベビーキャメルで仕立てた究極に贅沢なフーディをカジュアルルックで提案するなど、デムナらしい固定観念や概念を揺るがすアイテムが目を引いた。
courtesy of Balenciaga
男性が身に着けるコルセット
パンツとスカートをドッキングしたボトム
ベビーキャメルで作られたフーディー
アップサイクルのアプローチ
赤いキャミソールドレスをよく見ると、ビキニタイプの水着をつなげて作られているのがわかる。また、ショーのラストで視線を集めたレザーのマキシドレスは、バレンシアガのアイコンバッグ「シティ」を解体して再構築したデザイン。ロンググローブは「ル カゴール」バッグを再構築して作られている。実際にデットストック品が用いられたかは不明だが、アップサイクルのアプローチが強く印象に残った。
なお、ランウェイに積まれた泥をはじめショーに使われた資材は全て再利用されるという。
courtesy of Balenciaga
ワーク?イン?プログレスの手法でしつけ糸を残したジャケットやドレス、肩をセーフティーピンで止めたドレスは、未完成の美を宿す。今年バレンシアガがクチュールサロンを復活させたこともあり、アトリエの存在をいつも以上に意識させた。
courtesy of Balenciaga
赤ん坊を抱いてどこへ行くのか
会場が一瞬ドキリとしたのが、中盤の赤ん坊を抱いた男性たち。赤ん坊はショーの後、特別に製作された人形だと判明するが、本物と見紛う出来。ボンバージャケットのポケットに哺乳瓶を入れ、デューティフリーバッグの中にはベビーグッズを詰めるなど、リアリティを追求するデムナの真髄が感じられた。なお、バレンシアガのロゴ入りベビーキャリア(抱っこ紐)の商品化は未定だという。
courtesy of Balenciaga
Courtesy of Balenciaga
ユニークな腕付きバッグやポテチバッグ
バッグは新型が豊富で、ランウェイで目を引いたのはトートバッグから腕が突き出たような形状の「グローブトート」。グローブ部分に右腕をすっぽりと入れて肩に掛ける仕様で、ピンクやブラックなどのカラーで登場した。アームウォーマーを巨大化した「パファーバッグ」も存在感大。そしてチェーンショルダーの「レイバーバッグ」は、実用的なナイロン素材で新たなアイコンバッグとなりそうだ。
courtesy of Balenciaga
Courtesy of Balenciaga
ランウェイでスナック菓子を持って歩いているように見えたのは、ポテトチップスブランド「Lay's」とのパートナーシップにより、ラムレザーでパッケージを忠実に再現した「L.O.L. クラッチ」。
また、テディーベアカンパニーの協力により製作された5体の「マスコッターバッグ」は、三つ目やモヒカンなどそれぞれ異なる個性を持つパンクなベアたちで、背中のポケットにスマートフォンを入れることができる。ランウェイでは薄く汚した状態で使用されていた。
courtesy of Balenciaga
Courtesy of Balenciaga
多くのモデルが履いていたスニーカーは新作の「3XLスニーカー」。ヒール部分が外側に大きく張り出したフォルムと、アッパーに靴紐を巻き付けるデザインが特徴。男性用のバレエシューズも提案された。
courtesy of Balenciaga
Courtesy of Balenciaga
本当の自分に向かって歩き続けること
客席に置かれていたデムナのショーノートには、「自分らしくいようとすればするほど、顔を殴られます。しかし、お互いに違うということは、なんて素晴らしいことでしょう」といった自身の思いが記されていた。男女のモデルたちの表情はみな険しく怪我をしたようなメイクのモデルもいたが、「課題は、殴られたり倒されたりした後、立ち上がって本当の自分に向かって歩き続けることです」とし、自身のアイデンティティを守るための勇気や粘り強さの表現だったことを明かしている。
Courtesy of Balenciaga
また「洗練され高級で視覚的に高価なボックスに入れることは、乏しくとても時代遅れ」と綴り、ハイファッション特有の"ラベリング"に対する非難も込められていた。煌びやかな世界とは正反対の泥にまみれたランウェイが固定の認識を打ち砕くことで、ラグジュアリーとは何かを考えさせられる。
ショーノートは、最後にデムナのメッセージで結ばれていた。
「誰もが誰にでもなれることを認め、戦争をするのではなく愛し合いましょう」
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