コム デ ギャルソン 2023年秋冬コレクション
Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)
パリコレの期間中、地下鉄のホームに貼られた展覧会「1997年 ファッション?ビッグバン」のポスターに採用されたのは、通称"こぶドレス"。その異形のシルエットは1997年当時、評価を二分したことで「コム デ ギャルソン(COMME des GAR?ONS)」の名を大きく広め、象徴的なスタイルとしてファッション界に衝撃を与えた。誰も見たことのない新しいものは驚きとともに批判を浴びることもあれば、時代を経て新たな価値観を冷静に与えてくれる。あれから25年以上が経った今なおデザイナー川久保玲は挑戦を続けていると、今回の2023年秋冬コレクションで感じられた。
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ゼロに戻ることで、新しいものが生まれる
会場はパリ8区のアメリカン?カテドラル(大聖堂)。コレクションは11のグループに分かれており、ショーは1つのパートごとに2から4体が同時に登場し、ランウェイをゆっくりと歩いて去っていく。音楽も異なるジャンルの11曲を起用。ひとつのパートが終わるごとに、突然プツリと曲が途切れる演出によって、観客の意識を何度もリセットさせた。
1グループ目の4体はミニマルな印象のブラックとブルーのドレス。デフォルメされたネックとスリーブは平面パターンで、スカート部分には立体的な装飾が無数に付けられている。第2グループはブラックのボディから白いシフォンやキルティングが溢れ出すようなエモーショナルな2体。いずれもピエロのハットのように尖ったウィッグが違和感を与える。
第3グループはガラリと雰囲気を変え、ピンクとレッドのサテンを使ったドレス2体。それぞれ全身を花やフリルの装飾が覆う。横に伸びる形状のヘッドピースはカラフルなモールが絡み合って作られていた。足元は川久保も愛用しているという「サロモン(SALOMON)」とのコラボレーションスニーカー。新作は靴紐を廃したミニマルなデザインに仕上げた。
箱のようなフォルムで禁欲的な雰囲気の第4グループ、フェイクファーと綿を使ったガーリーなシルエットの第6グループ、無数の赤いボウタイをランダムに縛って全身を飾った印象的なドレスの第9グループ???見るものを惑わせるように、それぞれのパートによってデザインのアプローチがガラリと変わる。
ラストの第11グループは、赤の布帛、黒のファー、青のベルベットの3体。クリノリンドレスをベースとしながらボディを枠で囲うような構造で、L7のパンクミュージック「Bad Things」(1997年)が大聖堂の神聖なムードを打ち壊すように鳴り響いた。
コレクションを通して、ギャバジンやサテンなど既存のオーソドックスな素材を使いながら、全く新しいのはパターンと形。「ゼロに戻ることで、新しいものが生まれる」ということを試みたという。ゼロとは何もない無の状態であり、原点とも捉えられる。
1969年の創立以来、半世紀以上にわたるブランドの歴史を辿れば、1982年にパリコレにデビューした時の「黒の衝撃」、そして前述した1997年の「Body Meets Dress Dress Meets Body(通称こぶドレス)」をはじめ、幾度となく既存の常識やタブーを覆してきた。1つのコレクションで11もの新しいものを生み出した今回、蓄積してきたアイデアや培ってきた技術を武器にするのではなく、「ゼロから始まる」という強大な精神力と創造力がコム デ ギャルソンの真髄にあることがわかる。その信念を曲げることなく、常にビッグバンを起こしうる存在だということを印象付けた。
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