
2026年秋冬コレクション
Image by: doublet

2026年秋冬コレクション
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濃密なスモークが視界を遮る会場に、軽快なリズムと混じり合うように寝息のような音が響く。暗がりの霧の中で、井野将之による「ダブレット(doublet)」が発表した2026年秋冬コレクションは、目に見えない「空気(AIR)」を質量のある衣服へと落とし込んだだけでなく、同時に一人の愚直な人間の生き様への賛歌でもあった。
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「AIR is always there, yet invisible to the eye.(空気は常にそこに在るが、目には見えない)」として、今季のクリエイションの核となるのは、文字通り「空気から生まれた糸」。大阪の素材メーカー、プレジール(PLAISIR)が開発した、天然ガス由来のメタノールをベースにしつつ、大気中の二酸化炭素を水素と反応させて生成する「POM(ポリアセタール)」繊維の「ゼフィル(ZEPHYR)」だ。抗菌性や接触冷感、速乾性といった実用的な機能を備える反面、熱による収縮が激しく、加工条件によって予測不能な変化を見せる、極めて扱いにくい素材を、井野はあえて選び、デニムジャケットやテーラードジャケット、フリースやジャージー、Tシャツなどへと落とし込んだ。しかし、井野が真に感銘を受け、コレクションの原動力としたのは、「ゼフィル」の革新性だけではないという。それは、周囲から「変わり者」と揶揄されながらも、数多の失敗と試行錯誤を繰り返し、人生をかけてこの繊維を開発したプレジールの梅村俊和 代表取締役の姿だ。「次はうまくいく」と信じて積み重ねられた膨大な時間と挫折、そして決して折れなかった情熱。井野は、その研究者が吐いた溜め息や、未来を信じて吸い込んだ希望の息吹そのものを、衣服という形を通して可視化しようと試みたのである。




ダブレットの真骨頂であるウィットとユーモア、そして批評的な視点も、この「空気」というテーマを媒介に炸裂した。ギター柄のプリントシャツは、変形パターンを用いており、左腕をあげると「エアギター」ができるというエアとかけた洒落であり、赤いニットにあしらったバッグのモチーフは、「エアバッグ」のトロンプ?ルイユ。空気ということで、バルーンアートで作られる犬のモチーフが首元を飾り、ジャージーのロゴも、同様のモチーフが採用されている。また、「バッグは顔に見えると良いとされる」という定説から、既視感のあるバッグデザインをパーツ配置によって泣き顔や笑い顔で表現した。






物理的な「空気」の介在も見られた。「キッズ ラブ ゲイト(KIDS LOVE GAITE)」との協業によるシューズは、アッパーに空気の注入口を備え、実際に空気を入れてフォルムを膨張させることができる。同様のギミックはオールインワンにも搭載されており、服自体が生命体のように呼吸をしているかのようなデザインに仕上げた。

KIDS LOVE GAITEとのコラボシューズ

空気入れがソールに
スタイリングにおいては、目に見えない大気の流れそのものを凍結させたかのような表現が目を引く。暴風に晒されたかのように直角に曲がって固定されたネクタイ、重力に逆らって空中に浮遊するフーディーのドローストリング。あるいは、強風に吹かれて飛来したゴミが張り付いたような加工が施されたコーデュロイのセットアップ。それらは、モデルの周囲にだけ激しい風の乱流が渦巻いているかのような、不思議な錯覚を見る者に与えた。


今季は、テーマである「空気」や「環境」に呼応する多角的なコラボレーションがコレクションの強度を支えている。アクセサリーでは、カリフォルニアのバイオテク企業「Newlight Technologies」が開発した素材「Aircarbon?」を採用。温室効果ガスを食べる微生物から生成されたバイオ樹脂を用い、パールのネックレスを作り上げた。また、プリントやエアブラシ加工には、排気ガス由来の炭素を原料とするインク「AIR-INK」を使用し、煤けたようなリアルな汚れを表現。「レボマックス(REVOMAX)」とのコラボボトルは、プロパンガスボンベのような形状でユーモアを添える。さらに、「エーレザー(A LEATHER)」や「ベータ ポスト(beta post)」、「キジマタカユキ(KIJIMA TAKAYUKI)」、吉田カバンが展開する「ピー?オー?ティー?アール(POTR)」らとも協業し、それぞれの技術で不可視のテーマを具現化した。

「Aircarbon?」を用いたネックレス

「beta post」とのコラボバッグ


POTRとのコラボバッグ
ショーのラスト、会場のブラインダーは開き、スピーカーから流れていた重厚なサウンドは、爽やかな鳥のさえずりへと変わった。薄暗い実験室のような空間から、開放的な外の世界へ。それは、研究者の孤独な苦悩が遂に報われ、その成果が世の中へと解き放たれる瞬間を描写したようでもあり、また、現代社会に新しい風が吹き込む予感のようでもあった。目に見えない空気、目に見えない努力、目に見えない感情。井野将之はそれら全てをすくい上げ、ファッションという「目に見える形」へと変換してみせた。
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