本木雅弘とダンヒル 英国を代表するブランドと表現者に共通する「美」とは

本木雅弘

Image by: FASHIONSNAP

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本木雅弘とダンヒル 英国を代表するブランドと表現者に共通する「美」とは

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 俳優、本木雅弘が、イタリア?ミラノで開催された「ダンヒル(dunhill)」の2026春夏コレクションのショーに出席。同コレクションは、英国貴族の洗練されたドレスコードと、それが英国のロックアイコンたちに与えた、退廃的な反骨精神という二面性からインスピレーションを得て作られた。そんなダンヒルの世界観と、表現者?本木に通じる美とは何か?

ショーにおけるデザイナーは映画監督のようなもの

──ショーが行われたのは、貴族の邸宅を改築した美術館の庭園。伝統的なサロンスタイルで、クリエイティブ?ディレクターのサイモン?ホロウェイが提案するダンヒルの世界観を堪能できたと思います。

 貴族の邸宅を使った、サロンスタイルということで、とても優雅な気持ちになりました。ロケーションもサイモンさんのこだわりだそうですね。

 コレクションは全体的に上品で洗練されているんですけど、そこに貴族の享楽的な遊びのエッセンスが加えられていて、ブランドらしさを留めつつも、攻めて進化していると感じました。紳士の日常の演出なのか、ガウンを羽織って大きな犬を連れていたり、よく見ると豪華なダンヒル製の自転車を押して歩いていたり。詩的かつ気楽さも垣間見られたような気がしましたね。

 今は、当たり前に、SNSなどで瞬時に情報や映像が届きますけど、やっぱりライブの力というのは強い。その場の空気と動きが発するナマの色やメッセージ、心の叫び、醸し出している全てを、察知してしまうというか。生身の人間からの影響をたくさん受け取りました。

Image by: dunhill

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──サイモンならではの美学が、凝縮されていましたね。

 クリエイティブ?ディレクターというのは、映画でいえば監督ですよね。サイモンさんが、一着一着にキャラクターをつけて演出し、イメージを広げています。各ルックごとに映画のワンシーンが思い浮かぶような、そういうコレクションだったと思います。何より、ご本人が往年のスターのような顔立ちですし、自らが楽しんでその世界観にどっぷり浸っている。役者もそうですが、まずは自分が楽しむことがファッションの世界でも大事なんだと思いましたね。サイモンさんは、ダンヒルの館の主人という風格で、ブランドの持つさまざまな表情を見せてくれていると感じました。

──「英国貴族」と「反骨精神」の二面性をどう受け止めましたか?

 英国紳士や貴族のスタイルには、洗練されたマスキュリンはもちろん、贅沢な嗜好品など享楽的な遊びがある。いわゆる男性の憧れが全て入っていますよね。サイモンさんは、伝統をよりオルタナティブに深掘りし、反骨精神を持って、新しいインスピレーションを散りばめているということが伝わってきました。彼が歴史を紐解き、着想して、それを現代に置き換える。一見「不動」なスタイルに見えるけれども、生地は最新の軽いものに変わり、例えばボウタイのサイズ感や見せ方など、いい塩梅に落とし込む。その丁寧さとセンスの良さに感心しました。

着こなしに大切なのは自分らしい「味わい」

ジャケット:39万3800円、ニット:14万3000円、パンツ:9万1300円、スカーフ:参考商品、シューズ:12万5400円

──今回のコレクションをご自身で着こなすとしたら?

 ショーでは、整ったモデルが着こなしのお手本を示すわけですけど、骨格も肌の色も違ったりするので、なかなか難しいところはありますよね。でも、男性は、つまるところ体型云々ではなく、自分自身の「味わい」で着こなせないといけないような気がするんです。気構えとして、最後の仕上げは自分の「味」なのかなと。

 それはつまり自分の年齢であったり、目指す人物像や内面をある種見つめ直すということだと思うんですよね。理想を交えつつしばらく着てみれば、なんとなく自分らしさが見つかってくるんですよ、きっと。

 コレ、それが出来ていない自分を棚に上げて理想を言っているんですよ(笑)。自分的には、丁寧に着こなしつつ、ちょっとずらしていたり、或いは愛嬌があるところに着地させたい。例えば、ショーに登場したショールカラーのイブニングガウンを、ただ紳士的に羽織るのではなく、エスニックなコートに見立てて少しカジュアルに取り入れてみるというのもアリなのかな、なんて思ったりしましたね。

「タイムレス」な英国流エレガンスへの憧れ

──ダンヒルの「英国貴族のエレガンス」は本木さんにとってどんなイメージですか?

 ダンヒルが体現する、英国紳士らしいストイックなスタイルは、1つの憧れです。特に素敵だなと思うのは、「タイムレス」というフレーズを大事にして「伝統と革新」をバランスよく進化させているところ。歴史ある老舗ブランドの多くは、革新の比重が大きく、近年ではよりスポーティーでストリートな方向へ舵を切り、過剰に変貌している例が多いように思います。しかし、ダンヒルは、あえて、その変化を上手く制御している印象があって、「頑なに守り続けている」ものがある。「立ち止まれる」という潔さは、逆に今、強い個性になっていると思うんです。

──それが、ご自身の美意識と重なる瞬間はありますか?

 自分と重なる、という部分でいえば、私は40代の頃に「坂の上の雲」というドラマで、3年間かけて1つの役を演じたことがあります。私は不器用なので、役というか、作品の掛け持ちをあまりしないんです。そうなると、3年間それしかやらないって事になるので、ある種、40代という働き盛りの時期に「立ち止まる」選択をした訳です。役者って、時流に合わせないといけない部分もあるし、スピーディーな世に逆行していることに最初は不安でしたが、結果的に焦っていない自分がいた。各自のペースで良いのだと。振り返ってみれば、その時期、自分なりに「タイムレス」を見つけようとしたのかもしれません。自分のスタイルや好みを、一歩踏み込んで模索し始めた時期で、ロンドンのサヴィル?ロウでビスポークスーツを作ったりもしましたね。

シャツ:参考商品、パンツ:12万9800円、バッグ:495,000円(発売日詳細未定)、チャーム:49,500円(2025年12月発売予定)、スカーフ:参考商品、シューズ:12万5400円

──「タイムレス」というのは、時間をかけて自分と向き合い続けること。

 改めて「タイムレス」ということについて考えてみると、ただそこに同じ形で存在しているわけではなく、よくよく目を凝らしてみると、輪郭はほぼ変わらないけれど、さりげなく変化している。大枠の印象は変わらないけど、実は小さな革命がたくさん起こっていて、ちゃんと新しい細胞を増やしているみたいな。常に微妙なところで、時代に合わせてチューニングできているという、そういう懐の深さを持っているのが「タイムレス」ではないかと思います。

役者として服をまとうこと、服で表現できること

──本木さんは、表現者としてさまざまな役を演じられます。その役柄ごとの衣装をまとうことで、自身に影響はありますか。

 演じるというのは、他人になりすますことです。自分自身を打ち出すというよりも、基本70~80%は与えられたキャラクターを、きちんと演じるというのが役目。その意味でまず「衣装をまとう」というのはキャラクターを説明するための重要な要素となります。それは、演じる上での「武器」や「鎧」みたいなもの。「鎧」といっても、あまり自分が出すぎないよう、プロテクトするという意味合いで。

 そして残りの30%で、そのキャラクターと実際の自分を共鳴させていく。何らかの親和性を自分の中で見出して、仕草や、声に乗せて、その人物を体現していくわけです。あとは、同じ衣装でも、着こなしや気崩し方が、役の個性を語るうえで重要な部分だと思っていて。ボタンを止めるか、開けるかなど、小さなことでニュアンスを創るのも、すごく大切だと思いますね。

──プライベートでも「服を選び、着る」ことは、表現のひとつだと思います。ご自身のファッションの哲学やルールはありますか?

 40代になれば、自分のスタイルって自ずと見えてくると思っていたんですけれども、やっぱり職業病なのでしょうか......。1つの仕事が終わると直ぐに「自分」をまっさらに戻して、また次の役に着替えて、という事を常に繰り返していたので、本当の自分の姿や、似合うテイストというのが、自分自身で把握できてないところがあるんですよ。正直言うと15歳から「演じる」という仕事を始めてしまっているので、逆にその軸が定まらなかったのかもしれないですね。もう、還暦を迎えるんですけどね(笑)。

原点は80年代のパンクと「反骨精神」

──本木さんのファッションの原点は?

 10代後半のときに、ロンドンに1人で行った時に見た世界が大きいかもしれないです。イギリスもキングスロードがまだファッションのメインだった時代で、そういう意味では自分のファッションの原点はパンク。そこから、コム デ ギャルソンとか、ヨウジヤマモトとか80年代にムーブメントを起こした日本独自の「反骨精神」を持つブランドに惹かれました。やっぱり、その辺は普遍的に好きなものとして存在していて、幾度も戻ってきたりと。アプローチは違っても、「反骨精神」はダンヒルも掲げているので、そういう部分でも共感できています。頑ななその人らしさというか。

──英国パンクや80年代の「反骨精神」のあるファッションが、素の自分に近い?

 若い頃、自分がファッションに対して感じたものが、今も肌感として残っているので、ついそこを拠り所にしてしまうというのはありますね。ファッションの正当な歴史においてはギャルソンやヨウジの「黒の衝撃」なんて、元々タブーだったわけじゃないですか。そういう、どこか破壊的なものというのに惹かれるんだと思います。と同時にスーツもそれなりに着てきたので、拘りのある美しいジャケットにも興味が尽きませんし、両極、二面を行き来しているのが好きだったりします。

──表現者として、個人として、今後どうありたいと思いますか。

 未だにこの考え方が正しいのかわからないんですけど、正直、自分はいくつになっても「形なきもの」でありたいと思うんです。揺るがないものを見つけたいんじゃなくて、揺らぎ続けていたいんですよね。

 もちろん確固たる自分なりのテイストとか、レールみたいなものは必要。ただ、それがあれば、ちゃんと脱線することもできるじゃないですか。そのスタイルがいつか自分の「タイムレス」になるんだと思います。だから、「ダンヒル」と同じように、少しずつ自己の輪郭を変えながら進化していきたい。そんな風に揺らぎながら、これからも年齢を重ねていって、振り返ってみたら案外進化していたかもね、と思えるようにありたいと考えています。

クリエイティブ?ディレクターのサイモン?ホロウェイと本木雅弘

本木雅弘
1965年、埼玉県生まれ。81年 TVドラマでデビュー。歌手活動を経て、89年 映画「226」より役者に専念。2008年、主演映画『おくりびと』が日本映画史上初となる米アカデミー賞外国語映画賞を受賞。以後、俳優として数々の作品で活躍。CM界でも独自の存在感を放ち、名実ともに活躍を続ける実力派。主演を務めるNHK戦後80年ドラマ『八月の声を運ぶ男』が8月13日22時~放送。

dunhill 2026年春夏

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video director / photographer: Keisuke Ogawa, DP: Gabriele Tiddi, photo assistant: Shiori Ota, gaffer: Manfredi Prestigiacomo, studio assistant: Eleonora Bianchini, hair & makeup: Hiroki Kojima, editor: Mami Okamoto, coordinator: Nina Yuzawa | project manager: Tomoya Sasaki(FASHIONSNAP)casting coordinator: Takashi Sasai(FASHIONSNAP), director: Fumiya Yoshinouchi, Mizuki Okuhata(FASHIONSNAP)