
Image by: FASHIONSNAP
近年、ファッションとアウトドアの結びつきがますます強まっている。「ゴープコア」トレンドに代表されるように、アウトドアウェアが日常着として当たり前の選択肢として浸透しつつあるが、こうしたアウトドア需要の高まりの背景に、大手アウトドアブランドとは異なる視点で商品展開を行う「ガレージブランド」の存在がある。
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小規模ながら独自性の高いアイテムを提案し、ファッション感度の高い層から熱い支持を集めているが、なぜ今、存在感を増しているのか? トレンドの背景とガレージブランドの魅力について、中目黒のアウトドアセレクトショップ「バンブーシュート(BAMBOO SHOOTS)」のディレクターを務める甲斐一彦氏に話を聞いた。
ガレージブランドってなに?
ガレージブランドとは、その名の通り「家のガレージで作っているようなハンドメイドアイテムを展開する小規模なブランド」を指す。アウトドアを楽しむ人々がアクティビティを通して感じた「こういうものが欲しい」「(既存の商品に対して)もっとこうだったら」という欲望やアイデアをそのまま反映したものづくりで、細かなこだわりが詰まっているのが最大の特徴だ。




バンブーシュートの取り扱いブランドの中でも、ガレージブランドの代表的存在である「ULA(Ultralight Adventure)Epuipment」のアイテム。2001年にアメリカで誕生し、アウトドアハイクを楽しむムーブメント「ウルトラライトハイキング」明瞭期から第一線であり続けるブランドの一つだという。アイテムは全てメイド?イン?USA製。
長年、アウトドアショップのバイイングを行う甲斐氏が初めてガレージブランドの存在を知ったのは2000年頃。「小さなブランドが手掛けるクラフトマンシップを感じるようなハンドメイドアイテムが元々好きで、当時からアメリカに存在していたガレージブランドを買い付けていました。今や大手ブランドとなっている1950?1960年代創業のブランドも、元を辿ればガレージブランドです。特にアメリカは国土が広く、多様な価値観が存在するため、個人の思いから始まる小規模なものづくりを得意とするブランドが生まれること自体は珍しくありません」(甲斐氏)。
コロナ禍を経てトレンドに、日本人の特性ともマッチ
アメリカのアウトドア業界で親しまれてきたガレージブランドだが、近年、日本でも急速に広がりを見せている。背景には、コロナ禍を経てキャンプが一大ブームとなったことがある。コロナ禍による外出制限でブランド服を着る機会が減る一方、屋外活動としてのキャンプは推奨され、キャンプ用品の自作や既製品にない便利なアイテムへのニーズが高まったと考えられる。




2018年にアメリカで創業した「LiteAF」のバックパック。創業者が、市場に満足のいくUL(ウルトラライト)ギアアイテムを見つけられなかったことから、独学でザックの縫製を学び、自らが「欲しい」と思うギアを展開。一部アイテムを除き、アメリカ国内でハンドメイドで制作している。鮮やかなプリントがアイコンとなっている。
「当時は家にいる時間が増えて『新しいことを始めよう』という機運が高まっていましたし、オンラインショップで誰でも手軽にお店を開ける時代背景も後押ししました。キャンプ道具においては、『既製品にはないけど、こんなものがあったら便利なのに』という発想が生まれた側面もありました。そういった意味では、キャンプ業界にもガレージブランドは存在しています」。コロナ禍を経て、登山道具を自作する「MYOG(Make Your Own Gear)」というカルチャーも広がった。「自分でギアを作り、その作り方を共有し合うムーブメントで、ギアの魅力が一層、広がったのも一因と言えますね」(甲斐氏)。
同氏曰く、ものづくりへのこだわりの強さや、物の生産背景や文化について知ろうとする日本人ならではの性質も、ガレージブランドと相性が良いという。「日本人、特に男性はこだわりが強く、物事の背景やディテールを分析するのが好きですよね。古着のステッチの種類や製造年代を気にしたり。そうした気質が、作り手のこだわりが詰まったガレージブランドと相性が良いのかもしれません。メイドインジャパンの製品が評価されるように、手作りのものに価値を見出す文化的な背景もあると思います」と指摘する。



ロングトレイルハイカーのジョリー(Jolly)氏によって立ち上げられた「ジョリーギア(JOLLY GEAR)」のアイコンアイテム「トリプルクラウンボタンダウン」。速乾性のある素材にフードを付けたボタンダウンシャツで、フードにはポニーテールヘア用のベントホールが付いているなど、作り手のこだわりが詰まったアイテム。
高感度なデザイン性で女性客を獲得
ガレージブランドのトレンドは、店頭の客層にも変化をもたらしている。バンブーシュートでは、女性客の増加が顕著だという。コロナ禍を経て健康やウェルネスへの意識が高まり、ヨガやピラティスをライフスタイルに取り入れる女性が多い中、登山やアウトドアが新たな選択肢として浸透し、ファッション感度の高いガレージブランドのアイテムが増え、参入障壁が下がったことが要因として考えられる。





バンブーシュートの店内
「人と違うものを持ちたい」というファッション的視点も大きい。「誰もが知っているような大手ブランドは、いわばコンビニのように当たり前の存在になってきています。だからこそ、大手にはないもの、人と違うものを探す人が増える。希少性や手の込んだものを好む人々がガレージブランドに惹かれ、それを入り口としてアクティビティの楽しさに触れるきっかけになっているように感じますし、そうした流れに『ガレージブランド』という言葉がうまくハマったのだと思います」。
「ミュウミュウ(MIU MIU)」と「ニューバランス(New Balance)」をはじめ、「エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela)」と「サロモン(SALOMON)」、「ロエベ(LOEWE)」と「オン(On)」といったラグジュアリーブランドとアウトドア/アスレチックブランドの協業により、ファッション好きがアウトドアのスタイルに興味を持つ土壌ができていたことも一因だ。近年は、トレイルランニングで用いられるランニングベストがファッションアイテムとして浮上。夏のロックフェスでは、フェスファッションにランニングベストを取り入れるスタイルが新たなスタンダードとなりつつある。
こうした動きの中で、アウトドアだけではなく、ランニングにおいてもガレージブランドの存在感が高まっている。東京を拠点に活動するランニングクルー「080TOKYO」の代表?ユナ氏は、ガレージブランドが打ち出す独自性の高い高感度なランニングウェアがランニング人気を押し上げていると分析。ランニングにおいては、フランス?パリ発の「サティスファイ(Satisfy)」をはじめ、韓国発のランニングブランド「ARC」、アメリカ発の「トラックスミス(Tracksmith)」など、多様な国や地域でブランドが生まれているという。
業界が見据える未来
さまざまな背景をもとに、広がりを見せるガレージブランド。改めて長年、この業界に身を置く甲斐氏は、この流れをどう見ているのか。「純粋に、みんなが物を実際に使って楽しむようになったと感じています。新しい発想の製品が次々と出てきて、業界全体が面白くなってきました」と同氏は前向きな表情を見せる。「僕が2000年頃にこの言葉を聞いたときは『新しい言葉だな』と思いましたが、よくよく考えてみれば、どんな大きなブランドも始まりはみんなそうだったんじゃないかな、と」。
日本発祥の「モンベル(montbell)」や「スノーピーク(Snow Peak)」に代表されるように、小規模なガレージブランドからスタートし、大手ブランドへと成長していく例も少なからず存在する。歴史あるアウトドアブランドの多くが、誰か一人の情熱から始まったガレージブランドであることを踏まえても、その未来は明るい。デザイナーが代替わりしていくデザイナーズブランドのように、アウトドアの世界でも作り手の顔が見え、その変遷を楽しめるようになってきた。こうした面白さを通して、今後もガレージブランドがアウトドア業界、ひいてはファッション業界全体を盛り上げる存在となり得るかもしれない。
バンブーシュート ディレクター
甲斐一彦
Kazuhiko Kai

1973年生まれ。10代で古着と出会い、今はなきヴィンテージショップの名店「METRO GOLD」のスタッフに。1998年にアウトドアショップ「バンブーシュート(BAMBOO SHOOTS)」を中目黒にオープン。国内外のアウトドアブランドをセレクトし、古着の知識に裏付けられたデイリーユースもできるオリジナルのアウトドアウェアも展開する。
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