IHNN 印致聖
Image by: FASHIONSNAP
韓国出身の印致聖(イン チソン)が手掛ける「イン(IHNN)」が、メンズラインを立ち上げた。ウィメンズと同じく、「Always modern」をコンセプトに掲げ、デザインを削ぎ落としたミニマルな服を2023年秋冬シーズンから展開していく。パリコレデビューを目論む印致聖に聞く、モダンであり続けるファッションデザインとは?
メンズライン始動、目指すは家具に合う服
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ーインはデビューして9年が経つんですね。振り返ってみていかがですか?
本当にあっという間でしたね。昔FASHIONSNAPに掲載してもらったインタビューを久しぶりに読み返したんですが、当時考えていたことで上手くいったこともあるし、上手くいかなかったこともある。その中で少しずつではありますが、服に袖を通してもらえる機会が増えてきたように思います。
ーそうした中で今回、インではメンズを新たにスタートさせました。
インとは別で、メンズブランド「アスファルトキント(A/2/8/T)」を韓国を中心に展開していますが、インでもメンズラインを作ることにしました。元々ウィメンズのバイヤーさんから「メンズはやらないんですか?」とよく聞かれていたんですが、まずはウィメンズをしっかりやっていこうという思いがありました。ただ、やはり自分も年を取り、考え方や好きなものが徐々に変わってきて。それである時、伊勢丹さんからお話を頂き、伊勢丹新宿店メンズ館でイン初のメンズのカプセルコレクションとして、タイプライターシャツとリバーシブルカーディガンの2型を販売しました。自分が着たいものをという思いで作ったアイテムになりますが、想像以上に反響があり、それでインのコンセプトである「Always modern」を踏襲しつつ、家具みたいに時間が経っても、使い続けられるものを継続的にデザインしていきたいなと考えるようになったんです。
IHNN 2023年秋冬コレクション
また、ブランド立ち上げ当初は、知り合いはアパレル関係者ばかりでしたが、今は本当に色々なジャンルの方がいて。「ロエベ クラフト プライズ 2019」のファイナリストで陶芸家の橋本知成さんとも親しくさせてもらっているんですが、それこそ伊勢丹新宿店 メンズ館で展開したメンズ服を最初に買ってもらったり。ネオンアーティストのWakuさんとも一緒に仕事をしたりと、年齢を重ねて、心境、交友関係に変化がありました。IHNNという名前には、繋がりという意味を込めているんですが、ブランド名のように繋がっていくことがファッションの本質なんだと改めて実感しました。
ーウィメンズよりミニマルで、素材にこだわったアイテムがメンズには多いですね。
メンズはルックなどの見せ方をはじめ、ディテールや素材選びもウィメンズとは違う形でアウトプットしていきたいと考えています。僕は今、家具の中でもリナ?ボ?バルディ(Lina bo bardi)のGiraffa chairなどブラジルのものが一番モダンだと思っているんですが、それに合わせる服という視点でファーストコレクションは作っていて。ルックも、その辺りを意識して撮影しました。
IHNN 2023年秋冬コレクション
ールックは誰が撮ったんですか?
Saram Hanさんという写真家です。前回ウィメンズのルック撮影をお願いして、良かったので引き続きお願いしました。最近だと、「ヴォーグ ジャパン(VOGUE JAPAN)」が2月号の表紙に俳優 ジュード?ロウ(Jude Law)の娘で、モデルのアイリス?ロウ(Iris Law)を初めて起用していましたが、その撮影もSaram Hanさんが撮ったものですね。ムービーも撮ったんですが、家具の中で服を見せたいと思い、群馬の館林の家具屋UNDERGROUNDさんを場所に選びました。とても家具に詳しいオーナーの細野さんが運営しているお店で、とても貴重な家具がある中で服をどうマッチさせるかということを考えて撮りました。
ーインのメンズは、ファッションデザインというよりプロダクトデザイン的なアプローチで作っている?
その間ですかね。常にモダンであって欲しいと思って作っています。ファーストコレクションでは15品番を作りましたが、素材違いもあって種類は多くありません。基本的に今回作ったものは定番として毎年展開していければと思っていて、回を重ねるごとにちょっとずつ新しいデザインのものを増やしていく予定です。
ーメンズでもインのコンセプト「Always modern」を踏襲するとのことですが、常にモダン性を担保し続けるデザインというのはかなり難しいのではないでしょうか。
椅子における一番大事な価値というのは、座れるという実用性ですよね。服も着られるということが何より大事で、その前提の上でデザインを可能な限り削ぎ落としていくことが自分の中での「Always modern」です。というとオリジナリティがなくなるのではと思われるかもしれませんが、人間が作るわけですから、服を作っていく過程で僕の所作や癖みたいなものが否が応でも入る。そこで差別化はできると考えています。
メンズの先に見据えるパリコレという舞台
ーでは実際に服を見させていただきます。このシャツは生地も上質で大人の男性に好まれそうですね。
最強のシャツを作りたくて、モンコ?ル産のホワイトカシミヤ100%の生地を使って仕立てました。ちゃんと見たらヘリンボーンになっているのもこだわりです。フォーマルすぎず、でもカジュアルすぎないバランスを狙って、裾脇のガジェットにレザー素材を使ったり、前立て裏に紐をつけたり、2重のステッチを入れたりとディテールにこだわってデザインしました。この紐は、中に入れてボタン閉めたら全然見えないので、シンプルにも着られるし、表に出して垂らしたり結んだりすることもできます。ただ生地にこだわりすぎた結果、生産数が限られてしまい限定10着なんですが???。
ー身幅がたっぷりあるパターンですね。
デザインとのバランスを見ながらパターンを引きましたが、 ステッチの幅とか、細かい縫い目との相性を考えて、自分の中では一番しっくりきたのがこの形でした。
ー今日着ているシャツは素材違いですか?
そうです。今着ているのはコットンシルク生地を使ったものです。こちらはしっかり量産できます(笑)。
ーこのブルゾンは裏が起毛しているんですね。
紡毛糸を二重織にした生地なんですけど、僕が昔日本に初めて来た時、ボンディング地のネオプレーン素材が流行っていたんですよね。形がとても綺麗で印象に残っていたので、今回良いウールを使って上品にしようと考えました。ポリウレタンも入っているので、柔らかさもあり着心地も良いんです。そのせいで工場さんには「縫いづらい」と言われてしまいましたが(笑)。
ー個人的にギャバジンのパンツをよく穿くので、こちらのスラックスはとても気になります。
改めてメンズってギャバ素材が多いなとデザインしていて思いました。フォーマルにもカジュアルにもいけるので、着やすいんですよね。
ーわかります。このギャバは張りが結構ありますね。
細かい番手の度詰めしたウール100%のギャバなんですけど、その上に「ハルト加工」というガラス加工を施しています。ガラスみたいにちょっと光沢が出る。プラス、ハリ感もすごく出る。だから形も綺麗に見せることができるんです。
ーこのパンツはカーキ1色の展開?
あと黒があります。シルエットは程よいワイドで、紐をぎゅっと絞ってシルエットに変化をつけることもできます。スニーカーにも革靴にも合うバランスを意識したのと、最近のパンツはアウトタックの方が多いと思うんですが、このスラックスはイタリア式でタックを中に入れて、綺麗に見えるようにしていたり。
ーポケットは両玉縁フラップ。メンズのクラシックな要素を取り入れながら、モダンを追求していった。
いいなと思うのが、こういった昔の紳士服のパンツのディテールで。最近はあんまりこういうポケットはないので、逆に新鮮に見えると考えたんですよね。
ーここまでディテールを詰めるというのは、逆にウィメンズではそこまでしてこなかった?
ウィメンズはやはりムード的ものを捉えてデザインすることが多いので、メンズほどディテールを詰め込むことはしていないですね。ブランド名は一緒ですが、ネームタグも元々は白ベースなんですけど、メンズは黒ベースにしていたりと、少しの差はつけています。
ーインではなく、別のブランドとしてメンズを出すという考えはなかった?
それはすごく悩みました。テイストも違いますし、新しいブランドとして世に出す方がいいんじゃないかとも考えましたが、 作る人間は一緒だし、「Always modern」というステートメントを体現することにウィメンズ、メンズで変わりはないからインとして展開していこうと決めました。
ー価格帯は?
4万2900?13万2000円です。
ー卸先はどのようなところを考えていますか?
インでは今約20社で卸売を行っていて、うち海外が2社あるんですが、取り扱いのある百貨店のバイヤーの方からメンズについても良い反応を頂いているので取引することになるんじゃないかなと。地方のオーナーショップにも取り扱ってほしいと思っているので、少しずつ販路を広げていけたらと考えています。
ーメンズラインの今後の展開について。
規模を大きくし過ぎることは考えていません。 コントロールできる規模をキープしつつ、商品にずっと愛着を持ってもらえるようなモノづくりを続けていければなと。今後の展開としては、今ホームページをリニューアルしていて、メンズのオンラインストアを開設することも視野に入れています。そして、ゆくゆくはウィメンズでパリコレに出たいなと考えています。
ーインは2020年にTOKYO FASHION AWARD受賞をきっかけにパリで展示会を行いました。
良い経験になりました。ただコロナの感染拡大もあり、今は出展をストップしている段階です。しばらくは日本で足元を固める予定ですが、タイミングがきたらパリでファッションショーができればと思っています。
ーそのためにはメンズをしっかり軌道に乗せる必要がありますね。
そうですね。メンズでは、自分が今見せたい方向性をちゃんとアウトプットしつつ、それをしっかり伝えられるようにしたい、というのが喫緊の課題です。以前は売上を伸ばしたいという思いが強い時もあったんですが、今って服を簡単に買う時代じゃないので、ちゃんと価値があるものじゃないと戦っていけない。だからこそ「Always modern」というコンセプトをしっかり伝えて、服の実力に納得してもらえれば購入して頂けるんじゃないかなと。そのための方法論が、ルックだったりムービーだったりのクリエイティブだと考えています。強さのあるヴィジュアル表現を今後も続けて、多くの方に僕の想いが伝わっていけばなと思います。
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