FASHIONSNAPの新春恒例企画、経営展望を聞く「トップに聞く 2023」。本年は、アフターコロナにシフトする中で各企業に求められる「イノベーション」をテーマに送る。
第13回はボタニカルライフスタイルブランド「ボタニスト(BOTANIST)」やミニマル美容家電「サロニア(SALONIA)」などを展開するI-ne代表取締役社長 大西洋平氏。2022年は、2021年に立ち上げた、睡眠に着目したナイトケアビューティブランド「ヨル(YOLU)」のヘアケアアイテムが大ヒットし、ボタニストを含めたシャンプー?リンスカテゴリーの合計販売金額でドラッグストア市場におけるメーカーシェア国内2位にまで駆け上がった。コロナ禍でも急成長を続けるI-neが起こすイノベーションとは?大西社長に聞いた。
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目次
■大西洋平(おおにし ようへい)
2005年立命館大学在学中に 個人事業主として Y.B.Oを設立。当時のモバイル通販市場場の拡大に着目し、アパレルモバイル通販事業で起業。その後、次々に新規事業を考案するなかで、「デジタルでトライアルと認知を獲得し、リアルに流通する”ビューティ領域のOMOモデル”」を確立。2007年3月、株式会社I-neとして法人を設立。デジタルを中心とするマーケティング戦略が奏功し、ボタニカルライフスタイルブランド「ボタニスト(BOTANIST)」ミニマル美容家電ブランド「サロニア(SALONIA)」が大ヒット。2020年9月25 日に、東証マザーズ市場(現?グロース市場 )へ上場。従業員約300名、売上高352億円(2022年12月期)の企業へと成長させた。2022年2月10日現在、グループ会社2社で19 ブランドを展開。
ー2022年を振り返って一言で表すと?
「飛躍の年」です。
ー好調な業績以外で何が飛躍したのでしょうか?
これまでボタニストとサロニアの2大ブランドの成長が会社の業績を支えてきましたが、ここ数年でこれら以外の強いブランドを育てたいと、数々のブランドを立ち上げてきました。その中で、一昨年に立ち上げたヨルが、昨年大きく成長しました。
社内的なことを言えば、業績が好調なときは特に、中長期を見据え時間を使うことができます。経営理念の浸透や人財育成といった、緊急度は低いけれど、重要度が高いことに時間を使えました。これは会社の未来に大きく寄与したと思います。
ーコロナ禍が続いた2022年、化粧品業界は回復基調にあります。ヘアケア業界についてはどのように捉えていますか?
インテージ社のデータをベースにした自社調査によると、われわれのヘアケア単価1000円以上の市場は年率約15%の伸びを続けており、2022年も同様の成長が見込まれていますし、ヘアケア全体でも前年比103%と堅調で、成長市場と言えます。スキンケアカテゴリーでもわれわれが得意とする通信販売市場はコロナ禍でも伸び続けていますね。
ーそういった市場の中で、2022年はどういった戦略を取ったのでしょうか?
流通戦略では、「EC」「ドラッグストア」「家電量販店」の3つのチャネルを軸としていますが、これら3つのチャネルはほぼコロナの影響を受けておらず、われわれも戦略的に拡大させました。I-neの現在のEC化率は30%。リアルが重要視される日本市場において、この数字は適切なバランスだと思います。
ー2022年の具体的な業績を教えてください。
2022年12月期連結決算
?売上高352億6000万円(前期比27.2%増)
?営業利益32億3000万円(同38.5%増)
2023年12月期連結決算予想
?売上高400億円(同13.4%増)
?営業利益40億円(同23.6%増)
上場来3期連続過去最高の売上高を実現しました。ボタニストとサロニアの主力ブランド事業は前年比11.2%増の239億4000万円、「ニコレス(NICOLESS)」、「ドロアス(DROAS)」、「ヨル(YOLU)」の育成ブランドが同98.6%増の94.5億円と大幅に伸長。さらに2022年6月に買収したスキンケアブランド「リンクフェード(WrinkFade)」も好調な滑り出しとなりました。伸びるブランドへの機動的なフォーカスを実現したことに加え、再現性のあるブランドマネジメントシステム「IPTOS」がしっかりとワークした結果だと思います。2022年の需要予測精度は92.8%(ヘアケア主要ブランド、ボタニスト、ヨル、ドロアスの全SKUの実績値÷需要予測値の平均値)を達成し、ヘアケア系カテゴリー新ブランド過去3年間ヒット率75%(2020?2022年に発売したブランド数のうち、発売1年間で累計10億円以上、もしくは2年間で累計20億以上を達成したブランド数の比率)となりました。
営業利益率においても、前期比0.8ptプラスの9.2%と過去最高益を達成しました。その要因は、売上高増に伴う増収効果や、物流費の改善です。中でも物流拠点の集約化、北海道エリアでの共同配送をスタートしたことで物流費が改善し、営業利益率向上に寄与したと思います。
一方で広告費?販促費は、前期より16億円増額し戦略的かつ、積極的なマーケティング投資を行いました。これによりトップライン成?も実現できており、今後も費用対効果を鑑みながら、継続したマーケティング投資を行い、持続的なトップライン成?とさらなる利益率の向上を目指します。
補足:ブランドマネジメントシステム「IPTOS」とは
I-neが生み出した、Idea(アイデア)、Plan(企画)、Test(検証/需要予測)、Online/Offline(テスト販売)、Scale(ECスケール/小売拡大)の各フェーズの頭文字を取った、商品開発におけるフレームワーク。このフレームワークに沿って開発を進めた上で、テストのフェーズをクリアしたものは、実際にある程度売れる見込みが立ちやすく、かつフレームワーク自体の再現性が高いという特徴があるという。
牙城を崩し、ドラックストア市場ヘアケアメーカーシェア2位に
ー2022年9月?2023年1月のドラッグストア市場におけるシャンプー?リンスカテゴリー販売金額で、メーカーシェア国内2位となりました。大手メーカーの牙城を崩したと思います。
大変光栄なことだと思います。社員のモチベーションもさらに上がりましたし、同じ方向を向いて進めていると感じます。
ー何が奏功したのでしょうか?
ヘアケアの戦略は2つ。1つ目は、お客さまのニーズが多様化する中で、そのニーズに応えられる尖ったブランドを発信すること。2つ目に、ドラッグストアにおいて、中価格帯で勝負することです。
たとえばスキンケアで言えば、市場には数百円から数万円以上の価格帯の製品が幅広く存在しますが、ヘアケアを見ると実は数百円から高くても5000円ぐらいまでと、まだまだ伸び代のある市場だと感じています。そういった中で、ヘアケア商材が、消耗品から嗜好品としてもニーズが高まった今、われわれが発信した尖ったコンセプトの製品が受け入れられたことが好調の要因ではないでしょうか。
ー1000円以上の中価格帯のヘアケア製品は、10年前は全く存在しない“市場”だったと思います。
手前味噌ではありますが、ボタニストはまちがいなく日本のヘアケアの中価格帯の市場を作ったと思います。品質とともにお客さまに寄り添うサロンクオリティをドラッグストアで購入できる、そういったコンセプトが奏功しました。
需要予測制度向上でヨルが大ヒット
ー睡眠に着目したナイトケアビューティブランドのヨルが、2022年10月?2023年1月でドラッグストアにおけるシャンプー?リンスカテゴリーのシリーズ別売上国内シェア1位を獲得、大ヒットしました。そもそもヨルは企画段階では次点の製品だったと聞きましたが。
開発段階で、“シルクシャンプー”、“ビタミンシャンプー”、“ナイトシャンプー”が挙がり、調査結果からシルクシャンプーが1番注目が高かったのですが、ナイトシャンプーにしたのは、われわれの培ってきた戦略からです。われわれは、SNSやウェブ上で美容の最新情報を探し、新商品を積極的に試してトレンドを産む「美容開拓層」に刺さるブランドを創出し、 デジタルマーケティングの力で美容フォロワー層まで拡げ、 オフラインの配荷力を駆使し、美容マス層までスケールさせることができます。また、トレンドを産む美容開拓層に刺さって、マスにも広げるには尖り過ぎていてもダメで、双方に受け入れられる絶妙な設計、「一歩先ではなく半歩先」の独自コンセプトが必要となります。
<解説>
美容開拓層:SNSなどを駆使して美容のトレンドを産む層
美容フォロワー層:美容開拓層が産んだ美容トレンドを掴み拡げる層
美容マス層:美容フォロワー層が拡げた美容トレンドに乗る層
その上で重要な視点は、アートとサイエンスのバランスです。その感覚で作ったモノは、トレンドを意識する層にも、マスにも受け入れられることが分かっています。そういった観点で言えば、ナイトシャンプーが最適だと判断しました。
ーヨルが急成長しました。具体的な判断基準と、またヒットへの道筋があったのでしょうか?
夜間美容をうたう化粧品はたくさんありましたが、ヘアケアはほとんどなくこれから注目になるだろうと予想できました。また企画段階でもバイヤーさんの反応がとても良かったことも挙げられます。
さらにバズです。調査段階で需要予測を立てますが、ヨルは大幅に上振れました。SNS上で有名な美容系アカウントでの「プロフェッショナル商材よりもヨルが使い心地が良い」といった声からポストがどんどん上がっていった。こういった要素を抑えてプロモーションを展開することでさらなるバズを起こすことができました。
Image by: I-ne
ーヨルの次の戦略は?
ヨルはナイトケアビューティブランドですので、ヘアケアにこだわりすぎず成長させていきます。スキンケアやバスケア、就寝アイテム、インナーケアなどアイデアはたくさんありますね。
社員のエシカル講座受講でリテラシー向上
ー2022年のサステナビリティ活動について教えてください。
サステナビリティの知見も実践も海外と日本では大きく乖離し、その浸透には理解のボトムアップが必要だと感じています。そこで社員教育に力を入れ、エシカルコンシェルジュ講座に参加し学んでいます。社内の65%が受講済で、全従業員を対象に順次受講者を拡大しています。その成果として、社員から新たな製品開発において、サステナブルな容器や原料の使用が提案されるなど、リテラシーや意識が深まっていると感じます。加えてボランティア休暇制度を導入し、社員の60?70%に当たる約190人が、ゴミ拾いや植林活動などに参加しました。確実に社員の意識は変化していますね。
ーサステナビリティとビジネスの両立は難しいと言われますが。
社員に伝えているのは、「サステナビリティだけでは物は売れない。圧倒的な物作りがあってこそ、サステナビリティがあり物が売れる」と。
一方で、現状、業績が好調なこともあり、ありがたいことに多くの企業さんがわれわれに注目してくれています。だからこそ、われわれがサステナブルでおもしろい物を作れば、それを周りもおもしろがってくれて、物作りのヒントにしてくれるのではと伝えています。そういう波及効果をもたらしたいですね。
ー10月に移転した東京支店もサステナブルを意識したオフィスです。
100%再生エネルギーを使用しているオフィスビルに入居し、廃棄衣料のアップサイクルで作られたテーブルや、家具の一部へ間伐材の使用するなど、サステナブルなオフィス環境づくりに努めています。
2022年のそのほかのサステナビリティ活動
?4月にボタニストで、植物と共存する微生物の活動で発生する電力を利用した、植物発電体感スポット「CHARGING SPOT BOTANIST」を期間限定オープン(詳しく読む)
?6月発売「ボタニカルリフレッシュシリーズ」に一部パッケージに環境に配慮したバイオマスPETを採用するとともに、自然落下した茶の“実”をアップサイクルした国産茶の実オイルを配合
?12月11日の国際山岳デーに合わせ、多様性の森づくりに北海道美幌町立旭小学校での「BOTANISTの森」森林環境教育を開始
?2023年1月発売 ボタニスト桜の香り「ボタニカルスプリングシリーズ」サクラを未来に残す保全活動へ売り上げの一部を寄付
?I-neの新オフィスの再生可能エネルギー由来の電力への切替えとトラッキング付きFIT非化石証書により温室効果ガス(GHG)排出量のうち、自社の電気使用に伴うScope2の、2022年排出量の実質オフセットを実現。
?社内経費精算書?領収書申請時のペーパーレス化で、3万9831枚/年の資源削減。
ー今後のサステナビリティ活動については?
ESGの取り組みにおいて、E環境①カーボンニュートラルの推進、②サーキュラーエコノミーの実現、③持続可能な森と水資源への貢献、④責任ある原料調達と透明性のある情報開示、S社会⑤心身の健康(ウェルビーイング)インクルーシブな社会の実現、⑥貧困や格差への対応、Gガバナンス⑦企業価値向上のため、透明性の高い効率的な経営実現を目指すーーにコミットします。また、ボタニストにおいて、ブランドパーパスである「植物とともに生きる」の体現を目指し、より長期的?安定的に活動するため、売上の一部を寄付することにより運営する「ボタニスト財団」を設立します。
2030年までに売上高1000億円へ
ーこの度、初めて中長期経営計画を発表しました。その意図は?
2020年に上場したときから、投資家の方々からも未来の話を聞かせてほしいと言われていましたし、これまで上方修正を達成してきて、業績を見込む精度も上がってきたことから、このタイミングでの発表に至りました。
ー発表した中計について教えてください。
注力領域であるヘアケア系?美容家電の継続成長を基盤に、スキンケアを加えた3つの柱を主戦力に、拡大とグローバル展開で成長を加速させます。2028年12月期?2030年12月期で連結売上高1000億円、営業利益率15%を目指します。
まずは中期事業戦略として、連結売上高550億円、営業利益率13%を目指し、注力の3つのブランドでそれぞれに拡大していきます。ヘアケアカテゴリーでは、既存ブランドに加えてヒット率75%の再現性を生かして複数の新ブランドを展開し2025年度に売上高355億円を、美容家電カテゴリーでは商品ラインナップを拡充し、2025年度に売上高140億円を目標とします。
スキンケアは課題です。昨年買収した、リンクフェードが順調に拡大していますが、これまでのノウハウが少ないと感じており、M&Aも視野に入れ、引き続きトライ&エラーを繰り返し成長させていきます。またグローバルの拡大も見据え、中国の連結子会社 艾恩伊(上海)化粧品有限公司に、中国で美容業界で高いスキルを持つDaniel Ye氏をCEOに迎えました。そのほか、好調の台湾の強化や、Amazonでテスト販売を行なっているアメリカ市場もターゲットに広げていきたいですね。
ーM&Aの基準はどうでしょうか?
これまでの話でも述べましたが、われわれは需要予測の精度が年々高くなってきており、主要ヘアケアにおいては92.8%です。M&Aの場合も同様に、ブランドを買収する場合にどれぐらいの売上が見込めるか、大体の予想を立てることができます。それを考えると、オンラインが苦手なスキンケアブランドや、オンラインでもわれわれのノウハウが生かせそうなスキンケアブランドは気になりますね。われわれはブランディングやデジタルマーケティングなどにも自信があるので、それらが活用できそうなブランドさんにも注目しています。
3年かけ、キャリアプランが描ける人事制度システムを構築
ーニーズが多様化する時代に、どういった人材を求めますか?
会社の価値観として、“リスペクト”、“コミット”、“イノベート”といった3つのバリューを定めています。リスペクトで言えば、われわれの仕事は、はじまるところからお客さまの手に届くまで全力で推進しなければなりませんが、そこにはプロジェクトに関わる全員が点ではなく線で協力することが大事です。そうなるとリスペクトする心を持っているかどうかはとても重要なことです。コミットは当たり前ですが、ベンチャー企業として、必ずやり切るところは必要ですね。イノベートは、競合と同じことをやっても勝つことはできないと考えると、新しい発想を打ち出せるか。ここがI-neらしいところで、たとえばサロニアでヘアアイロンが2万?3万円する時代に、発売当時2980円で同じクオリティで製品化したり、逆に1000円以下が主流のシャンプーを、1500円で価格以上のクオリティで出したり…。
採用ではこの3つの視点で面接していますが、もし優秀な人材でも3つのうち、1つでも違和感がある場合には、採用を見送らせていただくこともあります。
ー会社にとって人財はもっとも重要な財産だと思います。育成については?
冒頭に申しましたが、業績が好調な今こそ、人材教育には力を入れました。約3年の歳月をかけ、キャリアプランが描ける制度システムを構築しました。現在、市場として優秀な人材の確保は難しいとされておりますが、外から優秀な人材の採用を進めつつも、社内で育成していく。また、早期にマネージャーとして活躍できるように1on1や研修など、細かい段階を組み入れています。給料においても、他社に負けない金額を確保できるよう進めているところです。一方で、ミッション「We are Social Beauty Innovators?for Chain of Happiness.」を掲げ、地域社会地球環境に貢献していける会社として、ビューティ領域で新しいことに積極的に挑戦する。これらが“三位一体”で揃っている会社として、社員にも選ばれる企業でありたいと思います。
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