東京の街を舞台に、どこか既視感がある日常ながらも物憂げで時には思わずクスッと笑ってしまうスナップ写真を撮るオカダキサラ。そんなオカダによる新連載「歳時キサラ」がスタート。独自の観察眼で切り取られたその季節ならではの4枚の写真を、それぞれに付随するタイトル&テキストと共にお届け。オカダがついついシャッターを切りたくなったのはどんな瞬間?
さいじ‐き【歳時記】
1,一年12ヵ月、または季節に分かち折々の自然?人事などを記した書物。
2,俳句の季語を集めて分類?整理し、解説や例句を載せた書物。
1988年東京生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒業。大学在学中に東京をテーマにストリートスナップを撮り始める。忘れられてしまうばかりの瞬間には、毎日の見方を変える不思議な仕掛けが隠されているのではないか。そんな思いで街にレンズを向け続けている。第4回1_WALLファイナリスト、2015年度ユーナ21入選、2016年度コニカミノルタフォトプレミオ入選。
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『勝手にプリンセス?カグヤ』
海の日が過ぎると夕方に子どもたちの帰宅を促す音楽が街に流れるようになった。優しくも切ない曲調に、在宅勤務をしているにもかかわらず「帰りたい」という気持ちにさせられる。竹取物語のかぐや姫は大切に育てられながらも、この星が自分の居場所でないことを知っていた。私は他に帰る家を知らないのに、別の帰る場所を探してしまう。
夏の夕暮れ、私の帰巣本能は迷子になる。
『ランニングスタイル』
オジサンは走っていた。
ラフなスーツ姿だけど、革靴を履いてネクタイもきっちりしめていた。
常連ランナーに次々に追い抜かされながらも、オジサンはマイペースだ。
走りやすそうなランニングコースが側にあっても知らんぷり。
早歩きのようなビミョーなフォームで速度を一定に保ちながら、オジサンの背中は公園をぬけて街並みに溶けていった。
『アイスレバーストーリー』
夏に怖い話は定番だが、普段のちょっとした出来事にも肝が冷えることがある。
真昼の裏通り。暗かった窓に人影がぼんやり浮かび上がった。
目の端だけで捉えた残像に驚き、思わず悲鳴を上げてしまった。
たまたま横を通り掛かった人がビックリしてこちらを振り向く。
正体が分かれば何のことはなかったのだが、暑さからだけではない汗が背中を伝わった。
『夏のオキテ』
ひまわりが綺麗に咲いているということは、夏も元気ということだ。
私は逆で、暑いと体から芯が抜けてしまったようになる。
お盆の後の風に涼しさが交じるようになると、ひまわりはうなだれ始め、私は段々と背筋を伸ばし始める。私が夏バテから回復したころには、ひまわりは既に花びらを落として茶色く萎んでいる。
互いに1番いい状態で会いたいのに夏がそれを許さない。
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