「文化が交差する服」。デビューコレクションで日本と中国の文化を融合させたアイテムを発表したのは、「コム デ ギャルソン(COMME des GAR?ONS)」出身のデザイナー本吉真人手掛ける「マヒト モトヨシ(MAHITO MOTOYOSHI)」だ。かつて日本文化に傾倒していた彼が、海外の文化に目を向ける理由とは?コレクション製作を「自分のルーツを探る旅」と形容する本吉に話を聞いた。
本吉真人
1994年千葉県生まれ。高校時代にファッションの道に進むことを志し、文化服装学院入学。卒業後はアパレルメーカーやデザイナーズブランドなどでパターン技術を磨いた後、2019年にコム デ ギャルソンに入社し、3年間パタンナーとして活動した。2022年に独立し、自身のブランド「マヒトモトヨシ」を設立。「文化が交差する服」をブランドコンセプトに掲げ、海外の文化を着想源にコレクション製作を行っている。
コム デ ギャルソンとの出会いから独立まで
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ーファッションに興味を持ったきっかけは?
小学生くらいの頃から身の回りのものを自分で選ぶようになって、その中で一番心を惹きつけられたのがファッションでした。出身が千葉県の木更津市なんですが、何もない場所だったので、中学?高校生になってからは毎月のように東京に服を見に行っていましたね。バイトをしてお金を貯めて、足繁く通っていました。
ー具体的にファッションの道に進もうと思ったのはいつ頃だったのでしょうか。
はっきり「ここだ!」というのはないんですが、直接的な契機となったのはコム デ ギャルソンを知ったことですね。高校時代のバイト先の後輩がすごくファッションが好きで、コム デ ギャルソンや「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」を紹介してもらったんです。その時にコム デ ギャルソンを目にした時の衝撃が未だに自分の中に残っていて。全体的に白いコレクションの時で、2012年春夏コレクションだったと思います。それから次第に「自分も人の心を動かせる服を作りたい」と思うようになって、本気でファッションの道に進むことを決めました。
ーやはりコム デ ギャルソンで働くことが目標でしたか?
そうですね、働くのはコム デ ギャルソンしかないと思っていました。ただ新卒で入社できたわけではなくて、企業のブランドを転々としながらパターン技術を磨いて、ようやく入ることができました。コム デ ギャルソンでの3年間は、今思うと修行僧のような日々でしたが、かなり鍛えられましたね。
Image by: FASHIONSNAP
ー目標だったコム デ ギャルソンは今年退社し、独立しました。
元来独立心がすごく強くて、いつかはファッションブランドを持ちたいという思いがありました。コム デ ギャルソンでパタンナーとして服の構造を突き詰めていくうちにデザインの方にも興味が湧くようになって、自分のブランドをやってみたいという気持ちが更に強くなったので決断しました。
ーコム デ ギャルソンでの経験を経て、今も息づいていることは?
一見派手に見えるデザインを手掛ける時でもベースを丁寧に作り込む、というのがコム デ ギャルソンでの教訓です。複雑なアレンジは、基礎がしっかりしていてこそ映えるものだと思うので、その点は今でも心に留めています。デザインやパターンの技術はもちろんですが、なによりも川久保さん(川久保玲)がクリエイションに対して常に新しいことを追求する姿勢を肌で感じることができたのは大きかったですね。
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コレクション製作は自分のルーツを知る旅
ーマヒト モトヨシのデビューコレクションでは日本と中国の文化を着想源にしたそうですね。
今でこそ海外の文化を取り入れた服を作っていますが、僕は元々日本文化に傾倒していたんです。自分たちが育ってきた環境って、大体西洋文化に影響を受けているじゃないですか。通っていた専門学校でも西洋服装史は勉強しても日本服装史は勉強しなかったので、自主的に日本美術を勉強していたら、狩野永徳の作品「檜図屏風」を見つけました。それまでは日本文化の「静」の部分にばかり目がいっていたのですが、この作品の力強く豪快なタッチに圧倒され、色々と文献を読み漁りました。でも日本文化の原流を調べてみると、大体中国の方に起源があるんです。中国から更に遡ってみると本当は別の国が起源だったり。そんな感じで調べていくうちに徐々に日本から海外、特に東洋に興味関心が移っていきました。
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ー2023年春夏コレクションの中で、正倉院に収められている生地の柄を起こしたアイテムがありましたよね。
この柄は唐花紋といって、仏教で多く使われてる柄なんですが、実は名前や形を変えて、世界各地で見られるものなんです。日本では唐花紋として伝わっているけど、源流を辿るとエジプトに起源があったり。 この柄に限った話ではなく、世界の文化は全て繋がっていて、見た目は全然違うように見えても根っこの部分にあるものは同じだと僕は思っています。だから、ブランドコンセプトである「文化が交差する服」を作ることで国と国との文化的な分断を少しでもなくしていけたらと考えています。
正倉院に納められている生地の「唐花紋」を採用したシャツ
Image by: FASHIONSNAP
ーファッションだからこそ表現できることですね。
この考えに至ったきっかけとしてはロシアのウクライナ侵攻があって、自分たちの民族だけが優れているという考えはすごく恐ろしいなと思ったんです。同時期に日本と中国の交わりを描いた歴史小説「天平の甍」を読んでいたこともあり、1つの文化だけではなくて、他国の文化を知る重要性に気付かされました。もちろん愛国心は素晴らしいものだと思いますが、一歩間違えると恐ろしい凶器に変わることもある。日本文化に傾倒していた時期がある僕だからこそ、服を通して伝えられるメッセージがあると思っています。
ー今後のクリエイションに取り入れたいものは?
今興味があるのは、チベットの宗教観ですね。死生観や信仰心などが独特で興味深いです。宗教は間違った方向に作用すると危険だと思いますが、純粋な信仰心であれば、すごく強くて美しいものだと常々感じていて。2023年秋冬コレクションでは、チベットの文化をテーマにしたアイテムを作るつもりでいます。
ー西洋への憧れは?
今のところ西洋の方には、 自分の興味は向いていないです。ウィーンにオペラを観に行った時、クリムトをはじめとする世紀末ウィーンの美術を見たんですが、その時の僕にはなぜかあまり心に響いてこなかったんですよね。その後出会った狩野永徳の作品が持つ日本美術特有の力強さに感動して「ああ、やっぱり自分は日本人なんだな」と感じました。今は海外、特に東洋に目を向けてコレクション製作を行っていますが、日本人である自分にとっては「ルーツを探る旅」という感じですね。
モード復権のチャンスと捉える
ーデビューシーズンの手応えは?
発表前はもしかしたら一つもオーダーされないんじゃないかという怖さもあったんですが、ありがたいことに多方面からお声がけをいただいて、手応えはありました。セレクトショップからは別注もいただけたりして、自分がやってきたことが認められた嬉しさ、ほっとした感覚がありましたね。今は卸がメインですが、今後は直営でECでも展開していきたいと思っています。
Image by: FASHIONSNAP
ー今後の目標は?
いずれはランウェイショーを開催したいと思ってるんですが、まずは地盤を固めるのが最優先だと思っています。お世話になっている生地屋や工場の皆さん、デビューシーズンにも関わらず取り扱いを決めてくれたお店など、日頃サポートしてくれる方々にどんな形であれ恩返しできるブランドに成長させたいっていう気持ちが大きいですね。
ーファッションを取り巻く状況は変化しています。最近のファッション市場をどのように見ていますか?
僕がファッションに興味を持ったきっかけがコム デ ギャルソンやヨウジヤマモトのクリエイションだったのですが、最近はいわゆるモード系のカテゴリーが少しだけ元気がないように感じています。僕が高校生くらいの頃にストリート?カジュアルブームのはしりとも言えそうな「シュプリーム(Supreme)」やカニエ?ウェスト(Kanye West/現在はYe)のトレンドがきて、そろそろ10年くらい経ちます。最近は徐々にストリートやカジュアルの人気が落ち着いてきた印象があるので、モード復権のチャンスだと考えていますが、まだまだこれからといった感じですね。
Image by: FASHIONSNAP
ートレンドに合わせて「売れるデザイン」を意識することもありますか?
それはないですね。変に売れ筋を意識して自分が納得のいかないものを作るよりは、自分が作りたいものを作って失敗した方がいいです。そうでないと自分のブランドをやる意味はないと思うので。まだまだデビューしたばかりですが、これからのモード復権の一助になればと思ってブランドを続けていきます。
ー最近はロゴを打ち出した記号消費的なモノづくりが目立つように感じます。
それに関しては本当に否定的です。品質やデザインではなく、ブランドロゴで服が選ばれるとしたら寂しいことですよね。実は、記号消費へのアンチテーゼの意味合いも込めてロゴを真っ白にしたんですよ。ロゴやブランド名を大きく打ち出すのではなく、あくまで主役は服。ネームは控えめで良いと思って、このロゴにしています。
マヒトモトヨシのロゴ
Image by: FASHIONSNAP
ー最後に、本吉さんにとってファッションとはどんな存在ですか?
その質問の答えは結構考えたんですけど、まだ自分が答えるのは早いと思っています。答えが分からないからこそ、服作りを続けられてるというのもあると思いますね。今のところ言えるのは、憂鬱な気分の時に、自分が気に入った服を着て、少しだけ頑張ろうと思える。本当に些細なことなんですけど、そういったことがファッションの素晴らしさだと思います。本当の答えはこれからの人生で見つけていきたいですね。
(聞き手:村田太一)
■MAHITO MOTOYOSHI:公式サイト
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