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歴史的な背景を持つ、ヴィンテージ古着。製造された年代が古いものや希少性が高いものが一般的に珍重されていますが、ヴィンテージの楽しみ方はそれだけではありません。この連載では、さまざまな視点でヴィンテージ古着の楽しみ方が味わえるアイテムを、国内最大規模のヴィンテージの祭典を主催するVCM代表 十倍直昭が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に紹介。第64回は「レノマ(renoma)」マルチポケットジャケット編。
2008年よりヴィンテージショップを運営。その後2021年には、ヴィンテージ総合プラットフォーム VCM(@vcm_vintagecollectionmall)を立ち上げ、来場者を1万人以上を動員する、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。
また渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」、エルメスジュエリーを専門に取り扱う予約制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLERY」を運営。
2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、全国のヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。
一流のクリエイターたちに愛されたデザイナーズブランド
今回ピックアップしたポケット満載のジャケット。アメリカのアウトドアブランドのアイテムと思われるかもしれませんが、実はフランスのブランド、レノマのものなんです。

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レノマというと、紳士服などのお硬いイメージをお持ちの方もおられるかもしれませんが、実は60年以上の歴史を持つデザイナーズブランドです。デザイナーのモーリス?レノマ(Maurice Renoma)が1963年にフランス?パリで創設し、細身のシルエットと軽快な仕立てを軸に、ロック音楽や映画、写真など当時の若者に人気だったサブカルチャーの感性を巧みに取り入れ、伝統的なメンズウェアをパリ左岸の洒脱な雰囲気を持つエレガントなスタイルへと更新。その斬新ながら洗練されたファッションは、一流のクリエイターたちに強く支持されました。例えば、ジョン?レノン(John Lennon)が1971年に発表した世紀の名曲「イマジン(Imagine)」のプロモーションビデオで着用したジャケットは、レノマのもの。そのほか画家のパブロ?ピカソ(Pablo Picasso)やサルバドール?ダリ(Salvador Dalí)、ミュージシャンのボブ?ディラン(Bob Dylan)、ファッションデザイナーのイヴ?サンローラン(Yves Saint-Laurent)といった各界を代表するクリエイターたちが、レノマのアイテムを着用してきました。

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ポップアートの旗手が旅のお供に選んだジャケット
そして、今回ピックアップしたレノマのマルチポケットジャケットは、あのアンディ?ウォーホル(Andy Warhol)が着用したことで知られる銘品。ポップアートの巨匠であるウォーホルですが、実はファッション業界と非常に深い関わりがあります。1928年にアメリカ?ペンシルバニアで生まれた彼は、大学で広告芸術を学んだ後、1950年代に「ヴォーグ(VOGUE)」や「ハーパース?バザー(Harper's BAZAAR)」などのファッション雑誌の広告やイラストの制作を生業とするようになります。権威ある広告デザインの賞を獲得するなど、商業デザイナーとして確固たる地位を築き、1960年代にアーティストに転向したんです。
1960年代は、ウォーホルとロイ?リキテンシュタイン(Roy Lichtenstein)を中心に、アメリカでポップアートが人気となりましたが、その背景には当時のアメリカ社会の変容がありました。第二次世界大戦で戦勝国となったアメリカは戦後大きく経済成長を遂げて中産階級が拡大、テレビや雑誌などのマスメディアが普及します。これにより生活用品の広告や映画スター、コミックなどの大衆文化が人々の生活に浸透し、それを素材とした新しい芸術表現として生まれたのが、ポップアートだったのです。それまでのアメリカでは、ジャクソン?ポロック(Jackson Pollock)に代表される抽象的なアートが主流でしたが、その難解さや高尚さに対する反動として、キャッチーで誰にでもわかりやすいポップアートが注目されました。

袖はデタッチャブルでベストとしても着用可能
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ウォーホルの人気は世界に拡大。彼は1982年に香港の実業家から、ナイトクラブにチャールズ皇太子とダイアナ妃(当時)の肖像画を描いてほしいとの依頼を受け、香港や万里の長城、天安門広場などを訪れました。そのときに、このレノマのマルチポケットジャケットを着用したのです。このジャケットの元ネタはおそらくハンティングジャケットでしょう。ですが、レノマらしい遊びが随所に散りばめられています。例えば、左胸のポケットはゴーグルのようなフォルムになっています。これは、一般的なハンティングジャケットではまず見ないデザインです。

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それ以外にも、随所に多数のフラップポケットやジップポケットがあしらわれています。やはりこういったギミックが豊富な服は男心をくすぐりますね(笑)。ジッパーは、ヴィンテージのフランス軍ジャケットや、「アディダス(adidas)」のトラックジャケットなどにも用いられているフランスの老舗企業エクレア(ECLAIR)社のもの。ドットボタンはレノマオリジナル。内タグにはフランス語で「100% COTON」と記されています。





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このジャケットで謎なのが、リバーシブルの仕様です。袖口のボタンが両面仕様で、裏側にはハンドウォーマーポケットも設けられているので、リバーシブルでも着用できるのかと思いきや、ライナー用ジップが付いているうえに、首元にはブランドタグも付いているので、裏返しで着るとかなり違和感が生まれるんです。果たしてこれはリバーシブルとして着用することを想定したアイテムなのか。それともデザイナーの遊び心なのか。こんな思いを巡らすことも、古着の楽しみ方のひとつでしょう。



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このレノマのマルチポケットジャケットの相場はだいたい7?10万円くらいですが、価格はお店によってマチマチ。ウォーホルが着用していたということを知らない人も多いので、お手頃価格で見つかることもあると思います。ポケットのデザインや、袖デタッチャブルの有無、カラーの濃淡など、バリエーションも多数存在しており、そのなかでもレザー素材のアイテムはかなり希少です。とはいえ、このマルチポケットジャケット以外のレノマのアイテムはヴィンテージ市場ではまだそれほど注目されていないので、ぜひ掘り出し物を見つけてみてください。
編集:山田耕史 語り:十倍直昭
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