Image by: MAATEE&SONS
フレッシュなファッションに触れていたい一心で立ち上げられた連載「ネクストブランド発掘」。とはいえ世にある幾千万ものブランドを独自調査して発信するのもなんだか一方的な気が(単に骨の折れる作業を避けただけ)。そんなこんなでこの連載では、ショップディレクター/バイヤーなどに協力を仰いで注目ブランドをピックしてもらうことに。今回登場するのは、隠れスポットが多いことで知られる奥渋エリアにショップを構える「ワガママトウキョウ(WAGAMAMA TOKYO)」のオーナー中村勇貴。ここでしか得られないモノにとにかくこだわり、あらゆるブランドとの別注アイテムばかりを取り揃える風変わりなショップで聞く、知っておいて損はナシ、目利きによる推しの話。
「何だこれは?」と、驚かずにはいられない、ひと癖もふた癖もある別注アイテムを手掛けるワガママトウキョウ恒例の「我儘別注」。中村勇貴のピュアなファッション欲をかたどった偏愛品はもはや別注という枠を飛び越え、ひとつのブランドのようにすら感じられる。またそんな中村の「我儘」に対して、感度をともにする顧客たちは夢中になる。
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全3章のうち第1章では、我儘別注の中でも他とは少し異なったストーリーを持つ「マーティー アンド サンズ(MAATEE&SONS)」との取り組みに着目。売れ線でいることだけを善しとしない中村ならではのエクスクルーシブの捉え方を、自身のスタイル、また言葉を以て表す。
WAGAMAMA TOKYO
大手セレクトショップでのバイヤー経験を経た中村勇貴が独立後に開始した完全予約制ショップ。2018年12月OPEN。我儘別注と称した、流行や価格帯などにとらわれない自由な発想を基にしたアイテムを多数展開。
住所:東京都渋谷区神山町7-15 イムーブル渋谷神山町1階
公式インスタグラム:@wagamama_tokyo
Youtubeチャンネル
売れるかどうかは後回し。まずはこの素材で何を作れば面白いか
「ショップの別注企画というのは、洋服がすでにある状態からスタートすることが多いです。ですが今回紹介しているマーティー&サンズとの別注3型は、デザイナー松村大基さんと素材段階からセッションを行い完成に至ったという、お取り引きがあるブランドの中でも珍しいプロセスを経ています」
「バイヤーさん含め、多くの方がマーティー&サンズの服を見ているので印象はさまざまだと思いますが、僕にとっては非常に挑戦的なブランドで、ものづくりの姿勢にも共感しています。流行に沿う、売れる商品、という意識に無頓着な僕とどこか似たようなところがあるように感じられるからです」
「いつからか松村さんに『面白い素材があるから見に来ない?』と展示会以外でもお誘いをいただくようになりました。実は、僕の元へ話がくる素材を使用した商品はブランド側では展開されず、ワガママトウキョウにしか存在しないことがほとんどです」
「今回の場合は、松村さんが素晴らしい出来栄えの生地に出会ったものの、単価が高すぎるあまりブランドのプライスレンジから大きくかけ離れてしまうためインラインで扱うのは難しい、という内容でした。もしかしたら僕はマーティー&サンズにとって爆弾処理班のような立ち位置なのかもしれません(笑)。ですが僕にとってそれは、本来なら生地のままで終わるところを洋服として世に生み出せる面白さを感じる瞬間でもあります」
ただの商品説明ではなく、ストーリーとして楽しんでほしい
Image by: WAGAMAMA
「このダッフルコートはカシミヤの三重パイル織という素材を使っていますが、これは業界内で"カシミヤおじさん"の愛称で知られる、30年間カシミヤを作り続けてきた職人が作った生地になります。ちなみに日本でパイル織のカシミヤを作れるのはそこしかないとも聞いています」
「そんなベテラン職人であるカシミヤおじさんから松村さんに『この生地どうですか』と提案があったそうなのですが、松村さんは『素晴らしいけど値段がとんでもないから一回考えさせてほしい』と答えたそうです。ですがカシミヤおじさんはなぜか松村さんの返事を待たず、先に生地を作ってしまったそうなんです(笑)。しかもこの生地を最後にカシミヤおじさんは引退されたため、今後もう手に入らないものとなってしまいました」
「カシミヤにせよシルクにせよ、世の中には素晴らしい素材がたくさんあります。ただ、洋服の本質は感情に働きかける何かがあることだと思っています。カシミヤおじさんの話はその一例になりますが、事実として45万円のダッフルコートが3日ほどで完売しました。今はあらゆる情報をたやすく手にすることのできる時代ですが、それでも僕はこのお店でしか聞けないストーリーを持つ商品作りにこだわり続けたいと思っています」
無制限だからこそ面白い
マーティー アンド サンズ × ワガママトウキョウのカシミヤアンダーウェア
Image by: FASHIONSNAP
「別注アイテムのソースとなるアイデア自体は、シンプルでいてバカげたような発想が大半を占めています。余談ですが僕はあまり肌が強くないので化学繊維のアンダーウェアが苦手です。なので、松村さんから洗えるカシミヤ100%の生地を見せてもらった際に、この生地を使って僕が思う最強のアンダーウェアを作ろうと考えました。その結果、人の目には触れない10万円の肌着が生まれました」
「僕がなによりも大切にすることは僕自身が楽しくて、同時にお客様も楽しくなれる洋服を作ることです。それを実現することが最優先で、上代はまったく気にしていないと言えます。お店で販売しているほぼ全ての洋服は基本的に入荷時まで上代が決まっていません」
「僕にとって洋服は自分の人生を豊かにしてくれるもの。これと同じように、誰にでも大切にしている存在があると思います。物質的な意味だけではなく、例えば結婚相手やお付き合いしているパートナーと過ごす大切な時間を思い浮かべてもらうのも良いかもしれません。人は大切にしていることほど金額の多寡は問わない。僕はそう考えていますし、今までそうやって洋服に接してきました」
自分にもお客様にも特別であること
マーティー アンド サンズ × ワガママトウキョウのシャツ
Image by: FASHIONSNAP
「マーティー&サンズはお取り引きがあるブランドの中でも特に素材に関する裏話が多いブランドだと思います。このシャツに関しても、とあるコレクションブランドで使われた生地の残布だと聞いていて、詳細についてはご来店いただいたお客様にしか明かしていません」
「そもそも僕が独立後、実店舗を構えた理由に、ここでしか買えない?見れない?聞けないことがやりたいという気持ちがありました。自分のブログやSNS、Youtubeなどでは一切触れず、ご来店いただくお客様だけが味わうことができる楽しみを用意することは、情報過多な現代におけるひとつのあり方のように感じています」
「4年間お店を続けてきて、芸能人でもインフルエンサーでもない、ただのファッション好きが提案するものでも楽しんでくれる人がいることを実感できました。またそれ以上に、洋服に対して思考を停止しがちな風潮の中でも、ファッションを楽しみたいという純粋な感情に触れられた嬉しさがあります」
「僕よりファッションの知識が豊富な人はたくさんいますし、今の形態にしてもいつまで続けられるのかわかりません。ですが、たとえ他では売れないようなものでも僕のお店だから売れる、というものをこれからも突き詰めていきたいと思っています」
MAATEE&SONS
2019年設立。良質な素材を仕込み、伝統的なテーラリングを大切にしながら、ドレスとカジュアル、強さとしなやかさなど表裏への意識を往来。縫製、パターンを追求し続けることで普通なようで普通でない真に愛着が持てる日常着を提案する。
公式サイト
公式インスタグラム:@maatee_and_sons
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