繊細で柔らかいタッチのイラストで人気を集めるタトゥーシールブランド「オプナー(opnner)」。タトゥーシールをはじめ、イラストをもとにした絵文字からアパレルアイテム、ジュエリー、ステーショナリー、アーティストのグッズ制作に至るまで、その活動は多岐にわたる。ブランドスタートから8年、タトゥーへのネガティブなイメージが残る日本でタトゥーシールを作り続ける理由とは?大学の授業中にスタートし、今でも1人でブランドを運営するデザイナーのKaho Iwayaに、ものづくりの原点からタトゥー文化への思い、今後の展望までを聞いた。
■Kaho Iwaya
2015年、大学在学中にタトゥーシールブランド「オプナー(opnner)」をスタート。タトゥーシールや図案のほか、アパレルやインテリアアイテムのデザインを手がけている。
インスタグラム/opnner?公式サイト
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授業中にブランドをスタート 全力で駆け抜けた大学時代
─オプナーを始めたきっかけは?
高校生の頃から、タトゥー好きが高じて、自分の腕にボールペンでイラストを描いていたのがきっかけです。大学生になっても変わらず続けていたんですが、「洋服が汚れるから」という理由でタトゥーシール作りにシフトしたら、友人に「売ってみたら?」とアドバイスをもらえ、オンラインでの販売を始めました。当時は大学3年生で、良くないことですが授業中に作っていました。先生には申し訳ない...(笑)。
─絵を描くのが好きだったんですか?
絵を描くというよりは、タトゥーが好きで。4足歩行の動物を描けなかったり、リアルな絵を描くのは苦手だと思っていました。オプナーを始めた当初も、「何かに見える」みたいな抽象的なイラストが多かったです。「これは犬か?うさぎか?」みたいな(笑)。ブランドを続けるうちに、練習して少しずつ描けるものが増えていきました。
─タトゥーを好きになったのはいつですか?
中学生くらいですかね。子どもの頃から洋楽を聴くことが多かったんですけど、その影響から海外アーティストのタトゥーをよく雑誌で見ていました。そういう小さなきっかけからタトゥーへの純粋な興味が湧いて、日本ではタブー視されている刺青も、歴史や文化を学んでいくと、世界に賞賛される高度な技術が必要なことを知りました。文化を知ることで「なんとなく怖い」という表面的な要素だけではない、色々なレイヤーを知れるのが魅力だと思います。
─好きなタトゥーアーティストはいますか?
沢山います。私がタトゥーを好きになるきっかけをくれたのは海外バンドの人だったので、海外のアーティストの作品を見ることが多いですね。最初に好きになったアーティストは、ウクライナ出身のStanislava Pinchukという方です。
今年の7月には、台湾のギャラリー「fruit hotel taipei」で、私の図案を台湾で活動するUpaさんに彫っていただくというコラボイベントを開催したんですが、すごく忠実に再現してくださって。そのイベントでは、大学時代からオプナーを手伝ってくれていた友達が日本から来てくれて、感慨深かったです。
─ものづくりにおけるルーツは?
昔から、誕生日プレゼントや、学校での演し物でここぞとばかりに力を入れて、ものづくりへの欲を爆発させていました。そういうことの延長ですね。母もコツコツ小さいものを作るのが好きだったので、幼い頃から自然と「物を作るのって楽しい」という感情が染みついていたのかもしれません。
本格的なものづくりを始めたのは、大学1年生の頃です。大学時代は、とにかく「何かを作りたい」という感覚で、当時住んでいた滋賀から都内のZINEスクールに通ったり、フリーペーパーのサークルにも所属していたので、常に何かの締め切りに追われていました。駅で大きいカッターボードを広げて、ホテルで製本して、「気づいたら朝6時」みたいなことが日常でしたね(笑)。漠然と「デザインやアートに携わりたい」という気持ちで挑戦を続けていたら、ZINEスクールで出会った人に、ポートランドの芸術大学でのアートキャンプのプログラムを勧められたんです。その後、お金を貯めて、大学3年生の8月にポートランドに行ったんですが、その時の経験が今の活動の起点になっていると感じますね。
─アートキャンプではどんなことを学んだんですか?
街に出て、モチーフを見つけて模写をし、小さな版画を作ったりといった課外授業のような制作活動を1週間体験しました。初めての海外だったので、アートキャンプで学ぶことの他にも、小さな文化の違いも全部刺激になりましたね。街中でタトゥーを入れている人が沢山いて、憧れのタトゥーを間近で見て、驚きと喜びと同時に「日本ではなんで(タトゥーが)タブー視されているんだろう」と疑問に思いましたね。
─日本のタトゥー文化に疑問を抱くきっかけになったのが、ポートランドだったんですね。
当時は、「就活は黒髪でなければいけない」とか、日本にある「当たり前」みたいなレールに乗るのが、どこか腑に落ちないと思っていました。それでも「何かを作りたい」という思いから、デザイン会社にコンタクトをとったりしていたんですが、同時に違和感もあったんです。
帰国後は、「オプナーをもっと頑張りたい!」という気持ちでがむしゃらだったんですが、ちょうどそのタイミングに母が亡くなって。それでもまともに落ち込む時間がないほど全力でオプナーを続けていたら、大学4年生になる前に倒れて、右耳が聞こえなくなりました。そこで初めて「レールに乗る云々の前に、そもそも真っすぐ歩けていない」ということに気がついて。元々違和感に感じていた就活をやめて「自分が作りたいものは、オプナーとして模索していこう」と決意を固めました。
万年眼精疲労で腱鞘炎、それでも1人でブランドを続ける理由
─今でも、制作から発送まで、全ての工程を1人でやられているんですか?
あまりにも手が回らない時は家族が助けてくれますが、基本的には全部1人でやっています。オプナーは手紙のようなテンションでやっているので、発送の際に必ず小さいメッセージカードを同封しているんです。こういう作業をなくして機械的に量産することもできるんですが、正直「それなら私じゃなくても良くない?」と思ってしまうので。何回も買ってくれているお客様の名前は覚えますし、「ありがとう」だけじゃ物足りなくて、裏面に長文の手紙を書いたりしています。「お元気ですか?」みたいに。
─1人でブランドを続けるのは大変じゃないですか?
めちゃくちゃ大変で、万年眼精疲労で腱鞘炎(笑)。でも、これが今の自分には一番合っているような気がします。父がワイナリーをやっていて、畑でブドウを育てて、そのブドウでワインを作って、エチケットのデザインをして、最後の流通まで、全て自分で手掛けているんですけど、先日、畑に手伝いに行った時、猛暑の中で60歳近い父が作業している姿を見て、「きっと父はどれだけしんどくてもこの仕事を選びそうだな」と漠然と感じた時に「自分もそうかもしれない」と思いました。私には、こういう泥臭いやり方が合っているんだと思います。
タトゥーシールの原画
─デザインをする上でのインスピレーション源は?
毎回違いますね。例えば、これは「『風車』って好きな言葉だな」と突然頭に浮かんで、それから半年以上ずっと頭に残っていたんですが、ふと「今かな」と思ったタイミングがあったので、それをテーマに作りました。丘の上にある風車が回っている様子をイメージして、野を走るウサギや、風で飛んでくる手紙の柄を入れています。手紙は、春からの便りをイメージしています。
これは、北海道など、旅先で見た綺麗な景色をイメージして作りました。川のゆらめきだったり、見たままの模様をどこまで表現できるのか挑戦した作品です。思い出を映したものですね。自分自身に入っているタトゥーと同じで、「覚えておきたいこと」をテーマに作り始めることが多いです。
─最近ではアパレルやインテリアなど、タトゥーシール以外のものづくりもしていますよね。
アイデアによって、「これはTシャツにした方がいい」「本で出した方がいい」など、伝えたいイメージによってアウトプットを変えています。でもやっぱりタトゥーが好きだし、できる限りタトゥーで表現したいと思っています。
─そもそもですが、Iwayaさん自身が彫り師になるという選択肢はなかったんでしょうか?
いつかは、彫りもできるようになりたいと考えています。シールにはシールの良さがあって、その時のテーマに沿った1つの作品としてシートを構成できるのが好きで続けているんですが、図案を担当するとどうしても「最後(彫り)までやってあげたかったな」という気持ちが出てくるんですよね。線一つでも個性が出ると思うので、できれば自分の手の癖で彫りたいなと思っています。
「ネガティブなイメージを持つ理由も知るべき」オプナーが目指すタトゥーの“提案”
─8年間ブランドを続ける中で、タトゥーに対する世間の反応の変化を感じることはありますか?
オプナーをきっかけに、「タトゥーに対する怖いイメージがなくなって入れた」という声をいただくことはあります。「タトゥーのイメージが180度変わった」という人もいれば、「無関心だったけど、タトゥーについてもっと知りたくなった」とか、色々な声をいただいて、それがやりがいに繋がっていますね。
─タトゥーへのネガティブなイメージが残る日本で、オプナーを続ける意義をどう考えていますか?
タトゥーって、1つの提案で見え方の幅が広がるものだと思うんです。それが面白いところだし、オプナーをタトゥーの一種として提案した時に、シールだとしても、これまで無関心だった人や、ネガティブなイメージがあった人でも、自分事として考えるきっかけになれたらいいなと思います。でも、だからと言って「イメージを変えたい」とは思っていません。ネガティブなイメージを持つ人たちにも理由があるので、その理由もちゃんと知るべきだと考えています。その中で「こういう見方もできるよ」という、あくまで提案として楽しんでもらえたら嬉しいです。
(聞き手:張替美希)
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