Image by: FASHIONSNAP
※会場ではヘルメットをご着用いただきます——。「リュウノスケオカザキ(RYUNOSUKEOKAZAKI)」2度目となるフィジカルショーのインビテーションにはそう記載されていた。フィジカルショーに赴く観客にとって、会場がどのような場所や空間で発表されるのかは重要である。会場に向かう道がいつもと違うことでショーへの期待感が高まるのも仕方がない。LVMHプライズ2022年のファイナリストにもノミネートされたリュウノスケオカザキによる2度目のファッションショーの会場は、建築中の巨大ビルの工事現場だった。
会場となった工事現場は、再開発が進んでいる渋谷区桜丘町某所。インビテーションの予告通りヘルメットが手渡され、ショーが始まるとともに目がくらむほどのフロントライトが点灯。リュウノスケオカザキの新作ドレスをまとった23人のモデルが、煌々と光を放つ壮大な照明に向かってまっすぐ歩き始めた。
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今回発表されたアイテムは前回のドレスよりも全体的に"軽さ"を帯びた。伸縮性のある薄いポリエステルやポリウレタンを軽量チューブでかたどったもの、ハードチュール素材を湾曲にカットしたものなど、使用されている生地に変化がみられたためだ。デザイナーの岡﨑龍之祐は生地について「色々研究している最中」とし「今回は生地で冒険してみたいという欲求の中で作った」と話した。また前回のショーで発表されたドレスは、どちらかといえば身体全体を覆う鎧のような印象を受けたのに対して、今回発表されたドレスはモデルの肌が露出しているものも多く、岡崎が「身体とファブリックのあいだにある間(ま)」に着目していることが伺えた。ファブリックの軽さと肌の露出も相まって、ドレスが人間の体に寄生しているようにも見えてくる。
ドレスを観たあなたは、なんらかに喩えたくなるかもしれません。あなたが過去に見た景色や物体を思い浮かべ、影も形もない個人的なエモーションを掻き立てるかも知れません——。
会場で配布されたコレクションノートにはそう綴られていた。たしかに、同ブランドのドレスは一度みたら忘れられない造形であるにも関わらず観客によってその感想は千差万別で、崇高なものに見えたり、あるいは恐怖の念を抱いたりもするかもしれない。たしかなのは、その造形物をみた人々は想像力を掻き立てられ、感情を突き動かされるということである。「デザイナーがアイテムを形づくろうとした意思や過程こそが、人の心に作用する。祈りとは、造形の過程で生み出される作り手の熱量が、観客にまで伝播することを指す」。彼が東京藝術大学で学んでいたことを考えれば、それこそがデザイナー岡﨑龍之祐のクリエイションに通底する「祈り」の意味なのだろう。
その上で「祈り」をテーマにした作品と工事現場という「場(会場)」の相性はどこまで考慮されていたのだろうか。ファッションは服がイメージをまとってはじめて成立するものだとすれば、器(会場)というのは重要な役割を果たす。今回、岡崎は「どのような空間でショーが行われるのか」という観客の期待までをもデザインし、実際に観客は「あのドレスが、ヘルメットを着用するような場所で発表される」と期待に胸を膨らませただろう。人によっては「新たに製作されたドレスにはショー会場との関連性を説明付けるようなヴィジュアルの変化があるのか」と期待したかも知れない。残念ながら今回のショーでは、ドレス作品のヴィジュアルから「工事現場」である必然性や影響を受けた兆候は見て取れなかったが、岡崎は会場の選定理由について興味深いコメントをした。
「人の営みの延長線上にあるこの場所からはエネルギー=作られている過程/未完成である力強さを感じた。力強い骨組みが圧倒的なパワーを発する空間に、祈り、平和、人の営みについて思考し続けられながら手を動かしたドレスが現れることを想像した」(岡﨑龍之祐)。
元来、縄文土器など呪術的とも言える自然信仰をテーマに製作を始めたリュウノスケオカザキが、むき出しの鉄骨やコンクリートなどの人工的なものから"人の営み"やエネルギーを感じ取ったことは興味深い。そしてその感性こそが、自然と対峙する人々の営みテーマにしながらも、土臭さや古臭さを感じさせない洗練されたデザインや、素材選択、表現手法などの軽やかさにも繋がっているのだろう。
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