国内で活躍するブランドの最新?最鋭アイテムを紹介する連載第6弾は、小塚信哉が手掛ける「シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)」。ロンドンの名門校セントラル?セント?マーチンズ出身の小塚によるユニセックスブランドで、デビューコレクションから渋谷?神南のセレクトショップ吾亦紅で展開し、2018年にはTokyo新人デザイナーファッション大賞に選出されました。その後、2019年秋冬シーズンの東京ファッションウィークに初参加するなど着実にステップアップしている実力派です。そんなシンヤコヅカの新作から、シーズンを先取りして"今決めたい"最新で最鋭のアイテムを紹介します。
SHINYAKOZUKA
2013年「Central?Saint?Martins?College?of?Art?and?Design」ファッション学部メンズウェア学科を卒業。日本に帰国後、2015年に「SHINYA?KOZUKA」を開始した。ロンドン在住時に出会った古着や風景、生活に影響を受け、クリエイションに反映。「全ての物事は明瞭である必要は無い」という思いから「BLUR(ぼかす)」「VAGUE(曖昧な)」「UNCLEAR(不明瞭な)」「HIDDEN(隠れた)」をキーワードに、新たな価値観を追い求めたファッションを提案している。
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SHINYAKOZUKAを知る
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シンヤコヅカで特徴的なのは、ワークウェアから着想しユーティリティを備えたアイテム。ジャケットはマチのある大容量のポケットがポイントですが、全体のバランスを取ることでシルエットは洗練されています。シグネチャーである極太のバギー(パンツ)は、セレクトショップから別注の依頼が絶えないそう。ちなみに、一般的には「バギーパンツ」ですが、ブランドではあえて「バギー」と呼んでおり、取扱店舗やファンの間で呼び方が定着しています。
小塚氏は今シーズンの制作時期と新型コロナウイルスの感染拡大時期が重なり、従来よりもファッションでアプローチすべきものやファッションが必要とされる要素などが大きく変わったと考えるようになったそうです。通常はひとつのコンセプトを踏襲しコレクションに反映させていますが、今回は「もっと軽快な気持ちでシンヤコヅカの服を楽しんでもらいたい」という心境に変化。本コレクションに加えて、新ラインやコラボレーションラインなど計6ラインを展開し、オムニバス形式のコレクションを制作しました。その中から、代表的なアイテムをピックアップし紐解いていきます。
#1 AS IT WAS ジャケット&パンツ
AS IT WAS (JK) ?27,900(税込)
FASHIONSNAP(以下、F):今シーズンから展開する新ラインのひとつ「AS IT WAS」はどんなラインですか?
小塚:「あのままで」を意味しています。ファッションの歴史上で多くの人に着られるようになった"あの"デザイン、"あの"アイテムを僕の曖昧な記憶を辿ってデザインしたもの。リサーチはせずに記憶だけを頼りにしているので、本来のデザインとは違うところがあったりもするんですが、その不確かさをそのままアウトプットしたラインです。
F:デビューコレクションでは「リーバイス?(LEVI'S)」の代表モデルがベースだそうですね。
小塚:元々ワークウェア?やユニフォームが好きなので、その文脈の代表格ということでリーバイスに目をつけました。1950年代に発売されたジャケットのファーストモデルや、1970年代のフレアパンツ、1980年代のストレートパンツ、1990年代のバギーパンツといった各年代の代表モデルを参考にしています。と言ってもそのまま使うのではなく、僕が記憶しているディテールを取り入れたので、忘れてしまっていたり、間違ったデザインが加わっているのが面白い部分かもしれません。
F:リーバイスといえば金茶のステッチのイメージですが、ジャケットもパンツも生成り色になっています。
小塚:AS IT WASの意味と関係があるのですが、僕の色褪せた記憶から生まるアイテムということで、色褪せたような色を採用しました。
F:小塚さんは、アイテムの紹介であまり特定の着方を提案しないそうですね。
小塚:僕の考えですが、服とデザイナーは身に纏ってみたいなという気持ちを作るまでの関係で、物が出来上がったらあとは着る人がその服と新しい関係を築いていくもの。ルックブックは「まずはこのスタイリング」という入り口を提案していますが、あくまでも自由に楽しんでもらいたいというスタンスです。なので展示会や店頭で自分が思いもよらない着方をしている人をみると、僕自身も刺激をもらえるんですよね。
AS IT WAS(PT)70S/フレアタイプ ¥24,200税込)
F:パンツはバギーなど極太のシルエットが特徴ですが、タックやセンタープレスが入っています。
小塚:太いだけのパンツだと、どうしてもワーク寄りのデザインになってしまって面白くないなと。このフレアパンツはセンタープレスを入れることで、スラックスのような上品さを出しました。僕自身が年齢を重ねるごとにワークだけではなく、整っている物に惹かれるようになってきたので、それも影響しています。ブランドのファンと一緒に、エイジングによる服の好みの変化を楽しんでいきたいと思っているので。
F:では、反対に変わらない部分はありますか?
小塚:ちょっとしたシルエットの遊びなどですね。このパンツで言うと、後ろ側の膝下に切り替えを入れて、キックバックするようなシルエットにしています。これはブランドの定番で、センタープレスで上品な雰囲気に仕上げました。
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#2 HIS シャツ
HIS SHIRT ¥31,900(税込)
F:まず名前が面白いですね。「ボーイフレンドシャツ」はよく聞きますが、なぜ「HIS?シャツ」という名前に?
小塚:いつもデザインしながらアイテムのタイトルも同時に考えるんですが、これは最初に仮でつけていた呼び名がそのままアイテム名になりました。「ボーイフレンドシャツ」だと「彼氏に借りたようなシャツ」という意味があからさま過ぎると感じて。文字通り「彼(彼氏)のシャツ」とも取れますが、「彼(自身)のシャツ」という意味にもなりますよね。つまり誰が着ても良い、定義しすぎないということをより伝えたかったといいますか。
F:カフスや襟に芯がしっかり入っているので、オーバーサイズですが上品な印象です。
小塚:ただ大きいだけのシャツにはしたくなかったので。カフスをしっかり作ると、腕まくりした時のシルエットも綺麗なんですよ。ポケットはフェイクスエードにして、アクセントにしています。
F:ポケットの位置は胸元よりも少し下にありますね。
小塚:サンプルができたらトルソーではなく人に着せて微調整するのですが、その段階でポケットやシルエットのバランスを取るようにしています。人が服を着た時、真正面から見ることって家で全身鏡の前に立つ時くらいじゃないですか。デザインする時は正面よりも少し斜めや横、後ろから見た時の佇まいが格好良くなるように意識しています。
F:このシャツも、背中のタックが効いていて立体的です。
小塚:タックを大きめにとって、バサっと広がるように仕上げました。"360度格好良い服"をデザインするためのポイントを、前面にも背面にも散りばめています。
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#3 LADDER STITCH ジャケット&ショーツ
LADDER STITCH ジャケット(JK)¥39,600(税込)
F:ゆったりしたシルエットにブランドらしさを感じますが、生地の落ち感などリラックスした雰囲気が新鮮です。
小塚:今シーズンは世の中が混沌としていて大変な時期だったからこそ、自分の中で"シンヤコヅカが作る優しい服"について考えました。リネンやコットンとか、いわゆる天然素材のナチュラルな優しさとは違うものができないかと。今シーズンは僕が勝手に「1.5部屋着」と呼んでいるアイテムがいくつかあって、このジャケットとパンツもそうですね。
F:「1.5部屋着」とはどういう意味ですか?
小塚:部屋着と外着の中間になるような服です。自宅で着てもある程度楽な格好で、外出にも着ることができるという意味ではワンマイルウェアに近い。ただ、シンヤコヅカで作る意義がないといけないとも思ったので、単純に外にも出られる部屋着の提案ではなく、あくまでもメインコレクションとしてのデザインを意識しました。
F:ステッチが目を引きますが、セットアップで着るとジャケットとパンツのステッチのラインが繋がって、統一感が生まれますね。
小塚:これはラダーステッチといって存在感がありますよね。刺繍のラインを繋げて、より縦のデザインが印象的になるようにしました。
LADDER STITCH(ショーツ)¥35,200(税込)
F:パンツは太めのシルエットですが、七?八分丈くらいの絶妙な丈感です。
小塚:実はショーツのカテゴリーで作ったのですが、デザインしていくうちにショーツ丈をギリギリまで伸ばしていき、最終的にこの丈感になりました。
F:サイドにさりげないタックが入っているデザインはブランドのシグネチャーを踏襲していますね。
小塚:お陰様で、サイドのタック使いは卸先のバイヤーさんやファンの方から「着るとクセになる」と言っていただくことが増えました。このセットアップのような優しいデザインは今シーズン特有なので、ブランドの代名詞を組み合わせることで、今までのファンの方と初めて僕の服を着る人の両方にシンヤコヅカの服を楽しんでもらえたらと。
F:「優しさ」は今シーズンの裏テーマと聞きました。
小塚:今シーズンはデザインをする上で色々なことを考えさせられたものの、実は散歩している時にふと「優しくなりたいなぁ」と思ったことが大きく影響しています。ブルーグレーや生成りなど、普段と比較すると落ち着いた色を使いたいと感じて。ブランドと長い付き合いの人には新鮮に映るかもしれませんね。オーガニックやドレスっぽさとは異なる、あくまでもシンヤコヅカが考える上品さや優しさの提案です。
F:ブランド的にも、今シーズンはターニングポイントになりそうですね。
小塚:確かに、今回は新しい視点や考えを取り入れたシーズンでした。でもその反動で、次回のコレクションはまた今までのダークな雰囲気を盛り込んだデザインになるかもしれません(笑)。今回は良い意味で手に取りやすいライトなコレクションに仕上げたので、たくさんの人に興味を持ってもらえたら嬉しいです。
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