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なぜ"シモキタ"は若者の街として再び注目を集めたのか 「再開発」という言葉を使わないまちづくりを目指した立役者の存在

なぜ"シモキタ"は若者の街として再び注目を集めたのか 「再開発」という言葉を使わないまちづくりを目指した立役者の存在

 都市開発が著しく、近年若者を中心に再び賑わいを見せている下北沢こと"シモキタ"。下北沢の再注目に一役買っていた小田急電鉄が事業主である「下北線路街」が5月28日に全面開業を迎え、下北沢への眼差しはより一層熱を帯びている。

 一般的に鉄道会社における都市開発と聞くと、連想するのは大型のオフィスビルやマンションなどの収益性が高い物件の乱立を想像するが、下北沢の都市開発で建設されたのは、商業施設はもちろん、ホテル、保育園、温泉旅館、学生寮など他の街とは一線を画すものも多い。本事業に深く携わった小田急電鉄のまちづくり事業本部エリア事業創造部 立山仁章氏は「この計画を進めていく中で、壊して作るイメージのある『再開発』という言葉は一度も使わなかった」と説明。スクラップ&ビルドのように今までの街のイメージを壊して再構築していく方法ではなく「サーバント?デベロップメント(支援型開発)」をキーワードに据え、都市開発を進めたという。

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 下北線路街は、世田谷代田駅?下北沢駅?東北沢駅までの全長約1.7km間に全13施設が集う開発エリア。下北線路街のはじまりは、地下化工事を開始した2004年9月に遡る。きっかけは、混雑率を緩和することを目的に上下線の輸送本数を増やす「複々線化事業」と"開かずの踏切"と称されていた踏切道と線路を地下化することで人流を遮らない街を目指す「連続立体交差事業」の同時進行だ。当初、駅や線路の高架化の計画もあったが様々な制約を加味し地下化することに至り、推進から15年後の2019年3月にどちらの事業も完遂した。

 線路が地下化したことで、物理的にできた土地の有効活用として下北線路街の工事を同年から開始。下北線路街のコンセプトを体現する場所として、下北沢駅と東北沢駅の間に位置する「下北線路街 空き地」が同年9月にオープンしたことを皮切りに、順次施設を開業してきた。立山氏は「現在の下北沢周辺は、最初から都市開発を目的にしていたわけではないというのも他の街の開発とは異なる点なのではないか」と話し、下北沢で生まれ育ったという下北沢商店連合会の柏雅康会長は「1分しか開かない線路は下北沢周辺の東西を断絶するきっかけにもなっていたが、地下化したことで地域住民同士の交流が円滑になった」と事業と都市開発の成果を評価する。

 下北線路街の本格的な着工開始から約3年の時を経て、下北沢駅南西口の開発エリア「ナンセイプラス(NANSEI PLUS)」内にアートギャラリー「SRR Project Space」がオープン。晴れて1.7km間にある全13施設が完成、全面開業に至った。

 立山氏は「"シモキタ"と聞いて連想するイメージは多く一括にすることは難しい」とし、下北線路街の区画を13エリアに分けた上で、それぞれのエリアの地域特徴を加味した開発を行ったと説明する。世田谷代田駅周辺は、輸入食品店「カルディ(KALDI)」の創業地でもあることや、戸建住宅が多いことから、既存住民をターゲットに生活が充実するような食物販を中心に出店。同時に子育て世代などが新たに転居しやすいようにと、認可保育園「仁慈保幼園」を配置した。"現代版の長屋"をコンセプトに世田谷代田駅と下北沢駅の間にオープンした「ボーナストラック」は、駅周辺の不動産高騰から個人商店が出店できない状況を加味して開業。住宅地と近い場所でありながらも、シモキタエリア全体の価値を高める施設として運営している。

Image by: FASHIONSNAP

 同じく、世田谷代田駅と下北沢駅の間に位置する居住型教育施設「シモキタ カレッジ(SHIMOKITA COLLEGE)」は、高校生から社会人までの幅広い年齢層が入居。地元民ではない人々が入居し、教育プログラムの一環として地域の人達に取材を行い記事化したり、地元住民と共に盆踊り大会を運営するなど、少しずつではあるが地域住民との活動の幅を広げているという。最後に開業したナンセイプラスでは、シモキタらしい個性的な施設が入居することを意識。ミニシアターやアートギャラリーなどを誘致し、シモキタに訪れたことのない人たちが来てみたくなるような施設を目指したという。東側に目を向けると、店主の顔が見える"個店街"「リロード(reload)」がある。東北沢駅が代々木上原駅からも近いことから、高感度層が代々木上原から訪れやすいような導線を描いたそうだ。また東北沢駅からほど近い「下北線路街 空き地」は地域イベントも多く開催され、地元住民と地元外の人々のタッチポイントとして機能している。

Image by: FASHIONSNAP

 小田急電鉄取締役社長 星野晃司氏は、下北線路街全面開業を記念する報道機関向けお披露目会で同事業の投資額が約90億円であることを明かし、定期券外の輸送人員は昨年比で11%、下北沢駅で17%上昇したと話した。また、星野社長は「完全開業はスタートライン、完成したら終わりということではなく、更に魅力的な街に発展させていきたい」とさらなる支援型開発に意気込みを見せた。

 支援型開発をキーワードに据えた理由について、立山氏は地域住民との意見交換の中で駅前の不動産が高騰し、顔が見えづらい大手チェーン店が多く入居する現状を挙げる。大手チェーン店は街の人との交流が希薄で、街の個性が生まれにくいことから、作るだけではなく"継続"というワードも盛り込んだ支援型開発というスキーム選んだ。

 「地域住民の方たちとの会話の中で、"再開発"することで生まれる収益面でのメリットは長期的な視点でいうとないんじゃないかという結論に至った。どんなに支援型開発を意識していても、街の人から見たら異物に感じる可能性は拭いきれない。であれば、『なにかやったほうがいいですかね?』ではなく、地域の人たちも同じ立ち位置で一緒にまちづくりに取り組んだほうが個性豊かなこの街の発展に繋がると考えた。徹底的に街の人がやりたいということを支援する。そのためのプラットフォームを小田急電鉄が作る」(立山仁章)。

 継続的な地域住民とのコミュニケーションのために小田急電鉄は、昨年4月に組織を再編。計画の段階から地域住民とコミュニケーションを取っていた担当者が部署異動等で変わらない組織づくりを行った。実際組織再編により、企画、運営、管理まで小田急電鉄の担当が変わることなく開発を進めることができたという。また立山氏は「下北線路街を閉ざし、事業主と地域住民という関係性にするつもりはない」と話し、下北線路街にある宿泊施設「マスタードホテル 下北沢(MUSTARD? HOTEL SHIMOKITAZAWA)」の一階をカフェとして開放。元々、宿泊者と地域住民という関係性が生まれやすく閉じやすい性質を持つホテルだが、カフェの効果もあり地域住民からの認知度も高く、県外住民はもちろん、コロナ禍では近隣住民が宿泊するケースも多かったという。

 小田急電鉄は今後、乗降車人数約15万人を誇る海老名駅や本厚木駅の開発にも前向きで、星野社長は「下北沢での経験を基に、企業群や神奈川県とも連帯しながら、面的な開発を目指していきたい」と今後の展望を語った。

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