日本を代表するスニーカーショップのキーマンが1年間を振り返る「スニーカートップセラーに聞く」。2020年の第2回は、ミタスニーカーズ(mita sneakers)のクリエイティブディレクター国井栄之さんに今年のベストスニーカー3足と今年と来年のスニーカー市場について語ってもらいました。
■【スニーカートップセラーに聞く-2020- 】
?atmos 小島奉文
?mita sneakers?国井栄之
■【スニーカートップセラーに聞く-2019- 】
前編:atmos 小島奉文とmita sneakers 国井栄之が選ぶ今年のベストスニーカー5選
後編:atmos 小島奉文とmita sneakers 国井栄之が語る2020年のスニーカー市場
■【スニーカートップセラーに聞く-2018- 】今年のベスト&最多着用は?これからのシューズ事情も
?mita sneakers 国井栄之
■mita sneakers
東京の下町、上野から世界へ向けて独自のスニーカースタイルを提案する「mita sneakers」。下駄や草履を売る日本古来の履物屋「三田商店」としてスタート。創立者「三田耕三郎」の英断で40年以上前から本格的にスニーカーを取り扱い始め、アメ横の老舗スニーカーショップ「スニーカーの三田」として再出発する。現クリエイティブディレクター「国井栄之」の加入後、ショップ名を現在の「mita sneakers」に改名し、当時の日本市場では未知だったコラボレーションや別注を手掛けるようになる。現在ではスポーツブランドからラグジュアリーブランドに至るまで、様々なスニーカーのグローバルプロジェクトに参画し、コラボレーションモデルや別注モデルは勿論、インラインモデルのディレクションまで多岐に渡ってスニーカープロジェクトに携わり、世界のスニーカーヘッズに支持されている。2020年6月に1階をリニューアルし、増床オープンした。
■国井栄之
「mita sneakers」のクリエイティブディレクター。数多くのブランドとのコラボレートモデルや別注モデルのデザインを手掛けるだけでは無く、世界プロジェクトから国内インラインのディレクションまで多岐に渡りスニーカープロジェクトに携わる。
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国井栄之が選ぶ今年のベストスニーカーTOP3
1-アシックス×ミタスニーカーズ GEL-LYTE III
FASHIONSNAP.COM(以下、F):早速ですが、国井さんの今年のベストスニーカーをランキング順に見ていきましょう。1位は今年1月に発売されたミタスニーカーズとアシックスのコラボです。
国井栄之(以下、国井):本来だと今年はオリンピックイヤーでしたが、ちょうどアシックスのゲルライトスリーが30周年を迎えた年でもあったんです。
F:ゲルライトスリーは今年、周年を記念して多くのショップやブランドとコラボしていましたね。
国井:その中でもグローバルのトップレンジのコラボは、ゲルライトスリーを手掛けた三ツ井さん(三ツ井滋之)と一緒にシューズを作っていくというものでした。当初は3人を予定していたらしんですが、結局は僕と「キス(Kith)」のロニー?ファイグ(Ronnie Fieg)の2人が選ばれて三ツ井さんとコラボモデルを製作させていただきました。三ツ井さんとは面識があったんですが、実際にオリジナルのデザイナーと直接意見を交わしてスニーカーを作るということは、僕自身初めてだったので貴重な体験になりました。
F:実際にどのような形で話が進んでいったんでしょうか?
国井:ゲルライトスリーが25周年の時にトリコロールカラーのコラボモデルを製作したので、お客さんの中には「トリコロール」のイメージが根付いている人もいて。なので、カラーパレットは変えずに履き心地など見た目には出ないところで、他のゲルライトスリーとは圧倒的に違う物を作りたい、という想いがまずありました。カラーリングに意味を込めすぎるとスニーカーとして注目するポイントが「カラー」になってしまって、所謂「よくあるコラボ物」みたいな見られ方をしてしまう。カラーパレットは5年前と同じ3色でという話をしたところ、三ツ井さんから「こういうトリコロールもありなんじゃない?」と返ってきたのが、シューズのつま先から順番に赤色、白色、青色と三分割にされたデザインだったんです。
F:今年発売したモデルの踵周辺を青色にしたようなイメージですね。
国井:そうですね。三ツ井さんから提案されたトリコロールカラーを見た瞬間、爪先の赤が凄く印象的だなと思ったんです。スニーカーが日の丸の旗に包まれているようにも見えてきて。ちょうどオリンピックイヤーということと、アシックスはスポンサーということもあり上手くマッチすると思ってこのデザインに辿り着きました。
F:オリンピックが予定通り開催されていたら、更に注目を集めていたかもしれませんね。
国井:実は関係者が数人履いてくれそうな流れもあったんですよ。実現していたら最高だったんですけどね。
F:履き心地の良さも追求したとのことですが、ディテールに変化は?
国井:まず、わかりやすいところで言うとゲルライトスリーはスプリットタンと言って、本来タンが2分割されているんですが、ジップで繋げることでシューレースなしでもスリッポンのように履ける仕様にアップデートしました。あとは靴の中の構造ですね。素材の切れ目をシームレスにしたり、縫製の仕方を変えたり。30年前のデザインの靴であっても、現代のスポーツシューズと遜色ないぐらいの履き心地レベルにまで持っていきたかったんです。内部構造はメディアなどに話してなかったのでほとんどの人が知らないと思うんですが、SNSで調べてみると「ゲルライトスリー史上一番履き心地が良い」といった投稿を見かけたりして嬉しかったですね。僕としてもそこは拘った部分だったので、履いた人だけがわかるサプライズのような形で伝わってよかったです。
F:国井さんは他ブランドでもコラボや別注、インラインのフィードバックとスニーカー製作に携わることが多いですが、OGデザイナーとの物作りで感じたことは?
国井:今のデザイナーさんは良くも悪くも利己的に考えられる人が多い印象です。機能とデザインの意味をしっかりと説明できる。でも、三ツ井さんはDIYとまでは言いませんが、手探りで抽象的な物を探し当てている感じで。どうすれば機能性を上げられるのかをパソコンの画面じゃなく、実際に作りながら試していくんですよね。久しぶりにアナログな物作りが体験できて新鮮でした。
2-ニューバランス?ML2002R?GRAY
F:アトモス(atmos)の小島さんも同じスニーカーを2位に選んでいました。
国井:これは実際にフィードバックとしても関わっているんですけど、元々このベースとなった「2002」に凄く思い入れがあって。2010年のOG当時、それまでの1000番台とあまりにもかけ離れすぎていたので正直ファーストインプレッションでは響かなかったんです。そしたら今回の「ML2002R」の企画も担当しているプロダクト担当者の方から「絶対にハマるから履いてみて」と渡されて。結果、足を入れてみたら履き潰すまでどハマりしたんです。正直、僕は靴を大量に持っているので、履き潰すことなんてほとんどなくて。「ML2002R」は数年前のパリファッションウィークに集まる人たちの中で注目を浴びていた「ML860 V2」のツーリングをハイブリッドしているので完全復刻ではないんですが、当時を知る同世代をはじめ、近年のスニーカートレンドを経過してきたスニーカーヘッズに刺さるんじゃないかなと直感的に感じれたんです。
F:即完売する人気ぶりでしたね。
国井:発売前に予約を受け付けたらすぐに埋まっちゃいましたね。店頭分を残していたんですが、発売日は店前に列ができるほど人気でした。色々な知り合いから欲しいと連絡が来たんですが、印象的だったのはデザイナーやモノ作りをしている人たちがいち早く反応していた点。かなり細かいディテールまで見る人たちが、ツーリングが違うと説明しても「それでもいいから欲しい」と言っていて、根強いファンがいるモデルだなと。
F:では、発売日の行列は比較的に年齢層が高めだったんですか?
国井:いや、若い人も多かったですよ。なので、ウンチク抜きにしても市場にハマったスニーカーだったんでしょうね。本当に一瞬で完売して売り場から消えたので、発売されたことに気がついていない人も多いと思います(笑)。「なんだよ、買えない靴ばっかり発売しやがって」って思われている方もいるかもしれませんが、数シーズンはスポットアイテムとして出てくるので安心してください。
F:若年層はどういった点に反応したんでしょう。
国井:韓国のオンラインサイトで先行販売したんですが、15分で完売したんです。そのことをシンガポールのカスタマイズ集団「サボタージュ(SBTG)」のマークがSNSに投稿したんですよ。おそらくその投稿が若い子たちのアンテナに引っかかったのかなと。今年は「992」の初復刻でWTAPSとのコラボなど何かとニューバランスが話題になっていたので、992を調べているうちに「ML2002R」の情報に触れて広がっていったんだと思います。おじさんたちにとっては懐かしいので、本当に全世代に刺さった感じがします。
F:国井さんはこの企画でよくコート系のスニーカーを出していたので、ランニング系は少し新鮮な気がします。
国井:ランニング系も結構履いていますよ。今年1番履いた靴で言うと、ブーツとアウトドアサンダル、室内サンダルの3Wayの「スノーピーク(Snow Peak)」と「東京デザインスタジオ ニューバランス(TOKYO DESIGN STUDIO New Balance)」のコラボモデルですし。ほとんど家で仕事していましたし、外出しても車で移動しているので、脱ぎ履きが楽なモデルが多かったですね。なので、「ML2002R」もよく履きました。
3-アディダス CAMPUS 80S SH MITA “RECOUTURE x mita sneakers” “CONSORTIUM”
F:去年のインタビューでは、リペア職人の広瀬瞬さんがアレンジした「キャンパス 80s」をベストスニーカーとして紹介されてましたね。こちらはそのアップデート版です。
国井:去年のインタビューが前振りみたいになってしまいましたね(笑)。瞬くんが作った物をベースに、2011年に僕らがやっていた別注シリーズのカラーを組み合わせたモデルです。別注シリーズではツーリングにエイジング加工を施していたので見た目はクラシックだけど、シュータンの裏に鹿革を貼って足当たりを変えたり、インソールはコルクを使ったりと外から見えない中のディテールで実験的なことをやっていたんです。なので、別注シリーズを踏襲してインソールはコルクを使っています。コルクはサステナブルな素材として再注目されているので、今の時代にもマッチするところもありますし。
F:ベースとなった広瀬さんの「キャンパス 80s」が発売されたタイミングでトークショーが開かれましたが、そのトークショーに国井さんも登壇していましたね。
国井:トークショーの延長線上で、コラボアイテムを発売することになったんです。彼のカスタムシューズは他のスポーツブランドにも影響を与えていて、凄く才能がある。今後、彼のカスタムからインスピレーションを得たような靴も増えてきそうなので、キャンパスを一度だけで終わらせるのは勿体ないと言う話になったんです。去年のモデルがオークション形式で販売されて、正式な販売がこのミタスニーカーズとのコラボ。その後にコンソーシアム(Consortium)から数色発売されました。
F:ゲルライトスリーOGデザイナーの三ツ井さんとリペアでアレンジする広瀬さんは対照的なデザイナーですね。
国井:そうですね。年齢的に見ても三ツ井さんは年上で、瞬くんは年下で。どちらのコラボも刺激的な体験でした。モノ作りのプロセスを大切にしているので、今年のベストスニーカーはニューバランス以外自分が手掛けたモデルになりました。
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