今年のスニーカー市場を振り返って
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F:今年のスニーカー市場を振り返るとどんな1年でしたか?
国井:ダッドスニーカーの流れはもうないですが、チャンキーなシルエットデザインは女性のシーンに根強く残っていますね。足が長く見えるから特にアジアでは人気。ただ、それもスニーカーというよりサンダルで顕著に表れたと思います。
F:モデルで言うと?
国井:ナイキの「エア マックス ココ サンダル」だったり、エアリフトのアップデート版のアクアリフトとか。ティーンの子たちにはうちで扱っていないエアマックスの派生のサンダルが人気だったらしいですが。20代以上でミタスニーカーズに買いに来てくれる女性は今年の夏はサンダルに流れていましたね。秋冬に入るとチェルシーブーツ風だったり、ベージュを基調としたスニーカーが人気だった印象です。
F:メンズはどういったモデルが人気でしたか?
国井:メンズでは、夏にリフトがもちろん売れていたんですが、「アグ(UGG)」のようなカジュアルブランドだったり、「キーン(KEEN)」などのアウトドアブランドも人気でしたね。スニーカーはもう少し1970年代のランニングシューズのような薄底なモデルが話題になるかと思っていましたが、ナイキと「サカイ(sacai)」をはじめ、モダナイズドされたコラボの影響もあり、ロープロファイルなアッパーとチャンキーなソールユニットの組み合わせが話題になったり。ただ、全体的に言えるのがコート系の復権ですね。「エア ジョーダン 1」は昨年よりも盛り上がりましたし、よく発売された「ダンク」も注目されていて、「エア フォース 1」は定番の白黒が完売して再入荷待ちの人が多い。アディダスでも「キャンパス」に動きがあったし、「スタンスミス」は安定して売れています。
F:国井さんは2018年からコート系に注目していると言っていましたが、実際にここまで流行したきっかけは何だと分析していますか?
国井:ファッショントレンドの変化が大きいと思います。数年前にアスレジャーや、スポーツとモードのクロスオーバーなどスポーティーな要素が様々な分野で着目されたこともあり、ハイテクスニーカーが多くの層にフィットしたと思うのですが、現在はその反動でそれぞれの分野に回帰した印象も強く、1980年代コートシューズの多様性に再び注目が集まっていますよね。
F:今年はコート系の他に、ニューバランスが目立っていましたね。
国井:992からの流れはやはり大きいです。あと、1995年にハイテクスニーカーのブームがきて、それから少し落ち着いたときにアディダスのキャンパスやプーマのスエードが評価されて、その中でニューバランスのUK製がフォーカスされたことがあって。大きなムーブメントが起きるとその反動で、程よいボリューム感で色々なシルエットのパンツにも対応できるニューバランスが支持されることが多いんです。ここ数年続いていたストリートとラグジュアリーがクロスオーバーするトレンドが落ち着き始めた感じがあるので、今の気分に合ってるんだと思います。
F:今のニューバランス人気は一過性のものだと思いますか?
国井:ジェネレーションZは、欲しいものだったらプレ値でも構わず買うけど、購買欲が湧かないものは安くても買わないという特徴があると思っているんです。だからアウトレットだと売れ残ってしまうものが、とんでもない破格で売られていることもあるんですよ。その中でもニューバランスは値崩れしていなくて、需要と供給のバランスがしっかりと取れているので期待値はかなり高いです。
F:ブランディングを高く保てている?
国井:そうですね。今年、オリンピックを想定してインバウンドの新規顧客向けにカタカナが書かれてる日本限定モデルが色々なブランドから発売されたんですけど、ニューバランスは「日本モデル」の捉え方が少し違って、ブランドのファンに向けて日本限定モデルを作っていたんですよね。だから単発で話題を呼ぶようなことをせずに、コンシューマーが求めている新作を発売して全部売り切った、という感じです。もともと矯正靴の会社がインソールを作ったところからブランドが始まっているので、例えばナイキはイノベーションでアスリートとモノ作りを促進させてシーンに進化を齎せていますが、ニューバランスは市民ランナーからプロまで、ファンを置き去りにしないというブランドのアイデンティティをプロダクトから感じることが多いです。
F:今年はコロナの影響がありましたが、自粛前後で売れるものに変化はありましたか?
国井:特に変わらずですね。強いて言うなら脱ぎ履きが面倒臭い靴は需要が減りそうですが。ただ、男性はオンシーズンになって、本当に必要になったときに物を買い始める傾向があるなと思いました。例えばサンダルだと、女性は春先ぐらいから先物買いで買い始めるので自粛前から期間中、自粛明けもコンスタントに売れるんですけど、男性は暑くなってきて明日にでも履きたいというタイミングで買う人が多かったので自粛明けに急に売れ始めるという感じでしたね。あと、6月に1階の路面店をリニューアルオープンしたことでミタスニーカーズと知らずに入店する人も増えて、動く商品が変わったというのはあります。
今後のスニーカー市場はどうなるか?
F:来年、注目のスニーカートピックはありますか?
国井:スニーカーの開発は1年から2年程度前から進んでいることが多いので、コロナの影響でシュリンクしたり、新しい物が生み出しにくい状況であることは間違いないと思います。なので、作られたトレンドというよりは自然発生的に生まれるムーブメントが増えていくのかなと。あとは、サステナブルだったりここ数年のキーワードになっているものがもっと一般的に広がってムーブメントとして消化されるのか、定着するのかが白黒はっきりする一年になると思います。
F:ここ数年、拡大しているリセール市場はどうなると思いますか?
国井:リセール市場を必要悪と捉えている人もいますが、その見方は変わるかもしれませんね。例えばリークサイトが立ち上がったときには、雑誌の画像が勝手に使われるなど当初は悪とみなされていましたが、ここ数年で定着した。リセール市場にも同じような流れがあると思っていて、来年が分岐点になるのではないかなと。お店としてはスニーカーを「アタリ」「ハズレ」のくじのように見ることが加速していると感じるので、来年はもっとフラットな目でスニーカーを見れるようになって欲しいですし、提案をしないといけないな、と思っています。
F:では、ミタスニーカーズとしての2021年の目標は?
国井:10代のお客さんにインスパイアを与えられることを微力でもやりたいなと考えています。ビジネス的に見るとお金が回る20代以上をターゲットにしたほうがいいんですけど、僕もそうなんですが10代の頃に見た物から受ける影響は大きいと思うんです。10代に向けてカルチャー的な側面だったり、スニーカー本来の魅力を発信していければなと考えています。今は全てを商売に直結させすぎている気がするんです。外出しにくい状況なので、わざわざ足を運んでくれた人とコミュニケーションをしっかりと取っていきたいです。
F:効率は気にしない?
国井:コロナ禍で色々と考える中で、非効率な物を好む人がミタスニーカーズのターゲットなのでは、と改めて思ったんですよね。昔、一晩かけて並んでスニーカーを買ったことを懐かしむ声をお客さんから聞きますし、効率だけを考えて無駄を省きすぎると健全じゃない気がして。買えたか買えなかったかのゲームを提供するのは僕らじゃなくてもできるので、足繁くミタスニーカーズに通ってくれて、他人から見たら無駄なことを楽しめる人たちにお店が支えられているなと再認識しました。なので、ミタスニーカーズに来ればスニーカー好きの誰かと会えて話せる、というようなコミュニティが作れればいいなと思っています。
(聞き手:林慎哉)
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