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カリスマディレクター不在の「メゾン マルタン マルジェラ」の隠れた名品、トロンプルイユグローブ【連載:sushiのB面コラム】

手袋のイラスト
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カリスマディレクター不在の「メゾン マルタン マルジェラ」の隠れた名品、トロンプルイユグローブ【連載:sushiのB面コラム】

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ファッションライターsushiが独自の視点で、定番アイテムの裏に隠れた“B面的名品”について語るコラム連載「sushiのB面コラム」。ラストとなる第32回を飾るのは、sushi自身が支持する「メゾン マルタン マルジェラ(Maison Martin Margiela)」のトロンプルイユグローブ。カリスマディレクターではなくデザインチームが手掛けたアイテムの魅力を解説する。

 服のスタイリングというのは難しいものだと感じる。インパクトのあるデザインが効いたアイテムをメインにした“一点主義”で勝負をすると、どうしてもその一点にアテンションのほとんどを持っていかれ、「服に着られている感」や「着る側のキャラ負け」みたいなものを引き起こす原因になる。

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 そんな場合に使えるのが小物だ。小物を差し込むことで見る側の意識や視線を程よく散らすことができるし、主役級の服のアイコン性に負けないように着用者のキャラクター自体を補強することもできる。特にスタイリング上の布面積が増える冬場においては、こういったテクニックはスタイリングの完成度を底上げする為の有効打の一つになりやすい。ファッションでは「こなれ感」や「抜け感」など、曖昧な共通認識によって存在が許されている用語が色々あるが、その代表格の一つである「格上げ」という用語を言語化するとこういうことになるのではないだろうか。知らんけど。

 さて、偉そうな導入になったが、僕がこのテクニックを使いこなせているのかというと、間違ってもそんなことは全くなく、そもそもまだ小物を買い集めているような状態な訳だが、中でも取り入れやすく、また案外いいキャラ付けの役割をしてくれる小物が「手袋」である。

 スマホが普及したり、そもそも繊細な動きが求められる部位ということもあって昨今は寒くても素手でいる人がほとんどのように思うが、個人的には分厚いコートの先端から寒そうな素肌がのぞいていると、チグハグした「ズレ」の印象を受ける。これは冬場に生の足首が出ていることに対する違和感に近いものだと思うので、それでいけば少しファッションを気にしている人であれば当たり前にケアをしそうな部分ではあるが、案外ここの「ズレ」を解消するという発想になりにくいことに最近気付いたのだ。裏を返せば、手袋というアイテムを取り入れることによって、スタイリングを「格上げ」するのみならず、現代においてはちょっとした差別化にもなる。そういう意味で手袋はオシャレが好きなみんなに今冬改めて勧めたいアイテムなので、今回は手袋のカテゴリーから「メゾン マルタン マルジェラ(Maison Martin Margiela)」2014年秋冬コレクションのトロンプルイユグローブを紹介したい。

* * *

 マルジェラは当コラム以前のコラム連載「あがりの服と、あがる服」でも散々紹介しているし、別に当コラムでなくても熱く語られているものは世の中に沢山ある。が、そのほとんどがマルタン本人が在籍していた時期か、ジョン?ガリアーノがディレクターに就任しブランドイメージを刷新してからについてのものであり、2008年にマルタンがデザイナーを退任し、2014年にガリアーノが着任するまでの期間、つまりマルジェラに残った当時のデザインチームがデザインを担当していたと言われる“デザインチーム期”のアイテムに焦点を当てたものは少ない。今回紹介する手袋はガリアーノが着任する直前、ディレクター不在のデザインチームが手掛けたメゾン マルタン マルジェラとして最後のシーズンのものである。

 マルジェラから出ているアーカイヴで高い評価をされているもののほとんどがマルタン本人によるもので、本人が直接手掛けているということ自体が希少性の高さに直結するのも納得だ。ただ一方で、マルタンがメゾンを去った後の作品にマルタンの遺伝子を感じないかと言えば、そんなことは全くない。ONLY THE BRAVEグループ(OTBグループ)社の資本が流入した2002年以降、特にアーティザナルに関してはこれまでのチープでありふれた素材をメインに、アイデアを凝らし新規性を追求したモノづくりから、潤沢な資金をもとに素材クオリティを向上させる方向に転換した。販売価格も100万円を超えるアイテムの展開などもあったが、個人的にはマルタン不在のデザインチームが何とかメゾンを守ろうと趣向を凝らした2008年以降のシーズンの方が、むしろマルタンのDNAを感じることがある。

 マルタンは在籍当時もメゾンを去った後も、メゾン マルタン マルジェラを自ら語る際の一人称は頑なに“We(私たち)”という一人称複数の形をとった。インタビューの節々やドキュメンタリー映像からもわかる通り、マルタンは「当時のマルジェラにおけるクリエイションはチームによるものである」と繰り返し主張している。これはマルジェラというブランドを特徴づける「匿名性」の演出の一つでもあったかもしれないが、マルタンの周辺人物がマルタンの事を語る様子を見ても、マルタン本人はその優れた才能と情熱で周囲の人間を魅了していたことが伝わってくるし、マルタンが抜けた後もメゾンが成立するように、チームであることにこだわったのではないかと思う。そういう意味で、デザインチーム期は唯一無二の存在であるマルタンのクリエイティビティを後継することのできる一つの可能性があった形として、もっと注目を集めていいのではないかと感じたりもする。

手袋のイラスト

 この手袋もシーズン自体はデザインチーム期が手掛けた最後のコレクションではあるものの、手法自体は至極シンプルでありながらもシュールで目を引くデザインが魅力である。粗野で温かみのあるウールはそれ単体では軍手と言っていいほどに質素なベースだが、そこにレザーの手形が手をつなぐようにパッチされている。これはマルジェラのアーカイヴ作品でもとりわけ好んで取り入れられていたトロンプルイユ(だまし絵)的な発想だと思うが、マルジェラらしいややキッチュなデザインアプローチと、かわいらしいユーモアのバランスがとてもいい。

 そして前段の通り、手袋というアイテムはスタイリングにおいて非常に有用である。しかも今回紹介したマルジェラの手袋のいいところはレザーとウールの2トーンなところで、レザーアイテムにもウール系のアイテムにも調和することができる。別にグローブは手にはめなくたっていい。ポケットに突っ込んでもいいし、グローブチェーンに括り付けて腰から垂らしてあくまでアクセサリー扱いしてしまうのもアリだと思う。首元や帽子、靴下などの配色や小物使いに気を遣う人は多いけれど、段々とその引き出しにも物足りなくなってきたというそこのファッショニスタ、是非今年の冬は手袋を取り入れてみてはいかがだろうか。

* * *

 2021年9月に始まった当コラムだが、早いもので今回で既に3年が経過し、32本目の記事になった。王道の陰に隠れた名品にスポットライトを、というコンセプトを貫いた本コラムであるが、よくもまあ手持ちの服でこんなに王道を外したものが紹介できたなとも思う。素直に王道とされるものに食指を動かすことのできない天邪鬼なだけかもしれない。とある事情で本連載は今回を以って一区切りとなるが、そろそろネタもつきそうでヒヤヒヤしていたところだったので内容的に苦しい記事を出さずに済んだことに胸をなでおろしつつ結びとしたい。読者の皆さんも「自分だけがその魅力に気づいている、自分一人にだけ響くようなオンリーワンのB面的名作」にたくさん出会える機会に恵まれますように。

15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。

FASHIONSNAP 過去連載「あがりの服と、あがる服」記事一覧

■「sushiのB面コラム」バックナンバー
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