とんだ林蘭
Image by: FASHIONSNAP
今年で活動11年目を迎えるアーティスト とんだ林蘭。25歳で漫画家を志したところからキャリアをスタートさせ、現在はイラストやコラージュ作品を中心に、あいみょんや木村カエラといったミュージシャンのMVやヴィジュアルのディレクション、ファッションブランドとの協業まで、活動範囲は多岐にわたる。今回、新たにJTとタッグを組んでデザインした「プルーム X(Ploom X)」の製作背景とともに、とんだ林のルーツとデザインの哲学を紐解く。
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ありふれたもので表現する違和感
──さまざまなアーティストやブランドから引っ張りだこのとんだ林さんですが、どんな幼少期だったのでしょうか?
とにかく、絵を描くのが好きな子どもでした。家族や友人から絵を褒められたり、賞をいただいたこともありましたね。
──絵を本格的に学ぼうと思ったことは?
絵画教室に通っていた時期はありましたが、それ以降は独学です。茨城県の田舎育ちで、競争の世界ではなく、好きなことをのびのびとできる環境だったことが、今に繋がっていると感じます。美大にも行っていないんですが、もし行っていたら「こんなにすごい人がたくさんいるんだ」と萎縮して、アーティストの道を諦めていたかもしれません(笑)。
──今の活動に影響を与えたものは?
今に繋がっていると感じるのは、漫画ですね。特にさくらももこ先生の作品からは多大な影響を受けたと思います。「ちびまる子ちゃん」や「コジコジ」は、子ども向けなのに大人も楽しめるシュールな世界観で、いわゆるギャグ漫画とも王道の少女漫画とも違う面白さが大好きです。
──その後、実際に漫画家を目指したんですよね?
はい。25歳の時に漫画を描いて編集部に持ち込んだことがあります。でも採用されず、漫画家への道は諦めてしまいました。漫画家を志した理由の一つにさくらももこ先生の存在があるわけですが、先生は自身の絵を「『私にも書けそう』とよく言われる」とおっしゃっていて。簡単に書けそうに一見みえるけど、誰も真似できないって最高にかっこいいなって思ったんですよね。
──とんだ林さんの作風は「シュール」や「毒」と形容されることが多いですが、それもさくら先生が持つシュールな世界観から影響を受けている?
そうですね。シュールな世界観は常に意識していて、アートディレクションを担当するときにはスタッフさんに「シュールな雰囲気にしたい」と伝えることもあります。ただ、毒っぽい雰囲気については、自覚がなくて。毒を入れようと思って作っているわけではなく、視覚的にビビっとくるものを使って出来上がった物が、結果的にそう言われている感じです。正統派の可愛さではないことは自分でもわかっているので、その違和感を「毒」と表現されているのだと思います。
──正統派ではない可愛さを表現する中で、ファッションとの結びつきは意識しますか?
ファッションブランドからの依頼の場合には考えますが、普段はそこまで意識していません。していないというより、できないんですよね。
──できない、というと?
私は、自分が作れるものには限界があるという考えがあって。たとえば、アーティストのCDジャケットでは、フォントやデザインの入れ方にトレンドなどの時代性が反映されますが、私はデザイナーではないので、それはできないんです。今、どんなものが流行っているのかを知っていたとしても、それを自分の作風に落とし込めない。クライアントワークでは、時代性よりも私らしい作風を求められていると思うので、基本的には自分らしさの軸からブレないことを重要視しています。
──作品のインスピレーション源は?
普段、目にするものです。特別なインスピレーションを得るために何かをしたり、どこか新しい場所に行くことはせず、日常の身の回りにあるものから着想して、作品に落とし込むことが多いです。たとえば、スーパーに並んでいる食材だったり、ネジや安全ピンだったり。安価で、すぐに手に入るものをいつもと違う見え方にするのが好きです。
──ありふれたものに新しい視点を持たせるということでしょうか。
「見慣れているものなはずなのに、違うものに見える違和感」が好きなんです。幼い頃、お気に入りでよく着ていた洋服の色違いを街中で見かけた時に「自分にとってこの服は青だけど、赤もあったんだ!」と知った時の、不思議な感覚がずっと印象に残っていて。そういう感覚に近いですね。
──その感覚は常に意識している?
意識して作品に落とし込む感覚はなかったんですが、これまでに作ってきたものを振り返った時に「私が目指している感覚って、これだな」と気づくことができました。“日常の延長線上で生まれるちょっと不思議な物”を通して世界が広がる瞬間を表現したい、というのが自分の中の大きなテーマですね。
──とんだ林さんはさまざまな手法で制作を行っていますが、1番自分らしさを感じるものは?
コラージュ作品で知ってもらう機会が多いので、「私=コラージュ」となんとなく思っています。最近はアートディレクションを任せてもらうことが増えたんですが、今回、JTさんからプルームのお話をいただいて。久しぶりにコラージュ作品を作ることができて楽しかったです。
“かっこいい”イメージが少なかった加熱式たばこ
──プルームのデザインを手掛けるに至った経緯を教えてください。
今回、Ploom Design Houseのコラボレーション企画としてJTさんからお話をいただいたのがきっかけです。私は普段、たばこを吸わないので、プルームのフロントパネルが着せ替えられるということも知らなかったのですが、周りの喫煙者が加熱式たばこを手に持っている姿を思い返したときに「そういえば印象に残るかっこいいデザインがあまりなかったな」と気づいて。無駄がなくてシンプルな形のプルームに有機的でポップなデザインを乗せて、自然と目に留まるようなものが作れたら良いな、と二つ返事で引き受けることを決めました。
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──どういうところからデザインをスタートさせましたか?
常に持ち歩く手鏡やリップと同じように、バッグに入っていたり、手に持つだけでテンションが上がる可愛さをイメージしてデザインしました。フロントパネルの色をパネル全体が鏡のように見えるシルバーにしようと決めて、そこにカラフルなアートを乗せよう、と。
──色々なモチーフを使われていますよね。
今回は、普段コラージュ作品でもよく使っているモチーフを使いました。ネジや安全ピン、リボン、口紅など、どれも先ほど話した「ありふれたもの」ですね。今回、全部で5種類が展開されたんですが、実は最初は2種類だけの予定だったんです。
Ploom Shop 銀座店の店内。Ploom Shop名古屋店となんば店を加えた3店舗限定でとんだ林さんが手がけた特別なインスタレーションを展開。
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──かなり増えましたね(笑)。
当初、JTさんに4種類のデザインを提案して、その中から選んでいただこうと思ったら「全て販売しましょう!」と言っていただいて。さらにもう1種類、会員制ウェブサイト限定のデザインを追加で作ることになり、最終的に5種類の展開になりました。今回はワードローブから服を選ぶ時のような「選ぶ楽しさ」をテーマに掲げているので、5つ全体のデザインで見せることでテーマが伝わりやすくなったと思います。
──デザインをする上で気をつけた点は?
電源を入れたときに光る、フロントパネル中央のライトを生かしてデザインを考えたことですね。中央のライトはプルームの特徴的な部分なので、そこには被らないように、バランスを取ってどうデザインするかが難しかったんですが、リップのコラージュは、あえてライトを利用して、ちょうどリップの芯に光が当たるようデザインしました。
──とんだ林さんは近年、個人での制作活動よりもクライアントワークを中心に活動をしていますが、その理由は?
個展は何年もやっていなくて、最近は、今回のように依頼をいただいて作品作りをすることが中心になってきていますが、どちらかと言うと、クライアントワークの方が性に合っていると感じるからです。自分1人で作品を作るよりも、お題をもらって、フォーマットに合わせて作っていく方が自分らしいモノづくりができる感覚があります。アーティストによっては、自分の作品だけを作りたい人もいると思うんですけど、私は誰かと一緒に一つのものを作り上げることに楽しさを感じるタイプで、今回のように、作品が商品になって実際に販売されて、色々な方に手に取っていただけることに喜びを感じます。まっさらな状態から自由に作れるわけではないので、試行錯誤の連続ですが、そこに不自由さは感じません。
──今年で作家活動を始めて11年を迎えますが、今後の目標は?
私は元々、販売員やOLをやっていて、アーティストを志したのは25歳の時。当時は、「この年齢で新たにアートの道に進むのは遅いんじゃないか」と焦っていました。今、振り返ると全くそんなことはないんですけどね(笑)。この活動を始めた時から、自分のやりたいことで仕事がもらえる喜びをずっと感じながら、ここまできましたので、これからもジャンルの枠にとらわれず、挑戦を続けていきたいです。
■とんだ林蘭
1987年生まれ。文化服装学院スタイリスト科を卒業後、販売員やOLを経て、アーティスト活動を開始。自身の作家活動に加え、あいみょんや木村カエラといったミュージシャンのアートディレクション、ファッションブランドとの協業も話題を集める。
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