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【トップに聞く 2026】TSIホールディングス 下地毅社長 痛みを伴う改革で従業員に生まれた当事者意識

 大規模な組織改革を進めているTSIホールディングス(以下、TSI HD)。2024年4月に発表した中期経営計画では、最終年である2027年2月期の売上目標を1650億円に設定し、強化ブランドへの集中投資や収益構造改革によるキャッシュ創出力の向上に取り組んでいる。2024年10月には本社人員のスリム化を発表。2025年2月にはブランド別で運営していたオンラインストアを「ミックスドットトウキョウ(mix.tokyo)」に集約、同年7月には「フリークスストア(FREAK’S STORE)」を運営するデイトナ?インターナショナルを子会社化するなど、大きな施策を次々と打ち出している。国内アパレル売上第7位の同社を、今後どのように舵取りするのか。下地毅 代表取締役社長CEOに話を聞いた。

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下地毅/TSIホールディングス社長CEO

下地毅 TSIホール ディングス代表取締役社長CEO

(しもじ つよし)1964年生まれ。1985年に文化服装学院マーチャンダイジング科卒業。1990年に上野商会に入社し、オリジナルブランド「ドッグファイト(DOG FIGHT)」のデザインを担当、1992年から「アヴィレックス(AVIREX)」のチーフデザイナーを務め、2018年に取締役社長兼商品本部長に就任。同年、TSIホールディングスが上野商会を子会社化したため、同社 第4事業カンパニー長に就任。2021年から現職。2024年から日本ファッション?ウィーク推進機構の理事長も務める。

■TSIホールディングスとは
2011年6月に、東京スタイルとサンエー?インターナショナルの共同持株会社として発足。2021年に子会社9社を統合し、中核事業会社となるTSIを設立。2022年に上野商会を吸収合併。傘下ブランドは、「パーリーゲイツ(PEARLY GATES)」、「マーガレット?ハウエル(MARGARET HOWELL)」、「ナノ?ユニバース(NANO universe)」、「ナチュラルビューティーベーシック(NATURAL BEAUTY BASIC)」、アヴィレックスなど。2025年2月期通期業績は、売上高が前期比0.8%増の1566億円、営業利益が同7.1%減の16億円、純利益は同214%増の152億円。

TSIホールディングス業績推移

会社が変わったことで生まれた社員の当事者意識

──2021年の社長就任から4年が経ちました。特に印象深いトピックは?

 就任後にまず行ったのが、たくさんあった子会社をひとつに統合すること。極めて低かった収益性を改善するために、各社が保有していたインフラを整理しました。もうひとつの大きな改革が、16あったECサイトのうち11を、ひとつのオンラインストアに統合したことです。

ミックスドットトウキョウ

ミックスドットトウキョウ

Image by: TSIホールディングス

──2025年はM&Aやグループ再編など、引き続き動きの多い1年でした。

 会社全体が常に工事中のような状態でしたが、2025年はこれまでの施策が実を結び始め、改革の最終形がようやく射程に入ってきた1年だったと総括しています。

下地毅 代表取締役社長CEO

──カロリー消費が高いタスクが続き、大変だったのでは?

 おかげさまで、ずいぶん痩せましたよ(笑)。

──2025年2月末を目処に、本社人員をスリム化するというニュースには大きな衝撃が走りました。「希望退職の募集は行わない」とのことでしたが、その後の対応は。

 我々が目指したのは、変わりゆく新しい時代へ適応するために、環境を再設計することです。痛みを伴うものですが、避けては通れない改革でした。

──従業員の士気に変化はありましたか?

 「会社が変わり始めた」という空気が浸透し、社員一人ひとりが仕事に対してより真摯に、そして前向きに向き合い始めていると感じています。自分の仕事や担当ブランドをどう研磨していくかという当事者意識が強くなりましたね

──以前はそうした意識が足りなかったのでしょうか。

 正直に申し上げれば、不足していたと言わざるを得ません。2020年までは「各子会社がそれぞれの領分を守る」という思想が残っていました。私が社長に就任して以来行ってきた改革は、例えるなら明治維新の「廃藩置県」のようなもの。時代の変化に対応していくために、組織の統合と整理は不可避であると判断しました。

売上減は「跳躍に向けた前向きな助走」

──2026年2月期上期(2025年3?8月)の売上高は前年同期実績を下回りましたが、今月発表された第3四半期(2025年9?11月)は同0.5%増の微増で着地しました。

 我々は2年前から「一度深くしゃがみ、次に大きく跳ねるための準備をする」と明言してきました。そのための体質改善は着実に進んでいます。低収益店舗の整理や、不採算事業の精査を徹底し、組織はかなり筋肉質な体質に変貌した手応えがあります。上期は減収の結果でしたが、それは決してネガティブな後退ではなく、跳躍に向けた前向きな助走だったと捉えています。

──足元の第3四半期決算では、百貨店での売上が前期比10.4減と苦戦しましたが、これはインバウンド需要の減少が影響しているのでしょうか。

 当社の百貨店売上比率は全体の10%程度。会社全体を揺るがす規模ではありません。そもそも、当社はインバウンド需要に過度に依存した構造ではないのです。また、前期に一部事業の撤退や譲渡もありました。一方で、上野商会が運営する「ロイヤルフラッシュ(ROYAL FLASH)」や「LHP」の原宿?明治通りの路面店などは、インバウンドの伸びが凄まじい。百貨店が特筆して難しかったというよりは、ビジネスの潮目の問題でしょう。我々は多様なチャネルを持っているため、リスクを分散できるという強みがあります。

──オンライン戦略ではサイトを統合し、ゼロベースからのリスタートとなりました。

 他社のプラットフォームに依存せず、我々自身で判断し、構築していく。そのための基盤をようやく手に入れることができました。立ち上げ当初は、ブランドが統合されたサイトに対してお客様から「使いにくい」という声が上がっていましたが、さまざまな改善を施しています。また、イベント施策や、直営店スタッフによる丁寧な誘導が功を奏し、メンバーズ会員数は徐々に増えてきております。統合からまだ1年も経過していませんが、11月に開催した初のポップアップや新キービジュアルによる広告施策には一定の手ごたえがありましたので、中長期的にはここから確実に成長軌道に乗せられると確信しています。

アヴィレックス好調の背景にあるチームの活気

──傘下ブランドについて。アヴィレックスの2026年2月期第3四半期の売上が前年同期比28.9%増と好調です。その背景を教えてください。

 若手が目覚ましい活躍を見せています。彼ら自身が楽しんで取り組んでおり、そうしたチームの活気が如実に数字に反映されているのでしょう。ブランドとのコラボレーションなど、様々な仕掛けが的中していますね。店頭に女性のお客様が列をなしている光景には、私も驚きを隠せませんでした。2022年公開の映画「トップガン マーヴェリック」による再注目(※)という追い風を、見事に成長の燃料に変換できたと感じています。「ショット(Schott)」も同様ですが、ブランドの矜持やアイデンティティを守りながら、時代の空気を鋭敏に捉えている。この2ブランドのサバイバル術は、理想的と言えるでしょう。

※「トップガン マーヴェリック」の前作である1986年公開の映画「トップガン」で、主人公を務めるトム?クルーズが着用したことがきっかけとなり、アヴィレックスの主力商品であるフライトジャケットが世界的なブームとなった。

下地毅 代表取締役社長CEO

下地CEOはアヴィレックスのチーフデザイナーを1992年から2019年まで務めていた

──一方、主力ブランドのひとつであるパーリーゲイツ同8.7%減。ゴルフブームの沈静化が要因でしょうか。

 2022年のゴルフ市場は、コロナ禍前の2018年比で約1.5倍に膨れ上がるほどの異常な熱狂でした。若い女性をはじめとする新規層が急増し、供給が追いつかない状況が続いていたのです。その需要に応えるべく増産に踏み切ったタイミングで、ブームが沈静化してしまった。「一気に去ってしまった」というのが、偽らざる実感です。ただ、ゴルフの需要そのものが霧散したわけではありません。今でもゴルフ場の予約は困難な状況にあります。つまり、市場がようやく健全で安定的な水準に回帰したと捉えています。

 主力ブランドのパーリーゲイツの利益貢献度は非常に高いままですし、「ピン(PING)」や「ニューバランス ゴルフ(New Balance Golf)」は、計画を上回る勢いで伸長しています。この2ブランドは卸売に強く、また世界で戦うトッププロが着用しているという背景も大きい。やはり、スタープレイヤーの存在感は計り知れないものがありますね。

パーリーゲイツブランドイメージ

Image by: TSIホールディングス

──ナノ?ユニバースは売上が同8.2減と苦戦しているようです。

 ナノ?ユニバースはもともと、非常にエッジの効いた尖ったセレクトショップでした。それが、コロナ禍前に取った拡大路線の中で、マスを意識した構成に寄っていった経緯がありました。今は改めて「自分たちのアイデンティティとは何か」を再確認するフェーズにあります。先ほど申し上げた「企業のダイエット」と同じで、単なる縮小ではなく、あるべき適正な姿へと回帰しつつあります。かつてのような規模の販売量はないかもしれませんが、質は格段に向上しており、収益性も回復しています。

ナノ?ユニバース「2025 AW STYLING LOOKBOOK」

Image by: TSIホールディングス

──1913年創業のショットや1970年創業のマーガレット?ハウエルなど、長い歴史を持つブランドを数多く傘下に擁しています。

 ファッションブランドは、いくら人気があっても30年くらいで駄目になってしまうところが多く、当社にはその瀬戸際にあるブランドも少なくありません。そんななか、時代の波に揉まれながら生き残ってきたブランドは、我々の財産と言えます。

──1980年創業の「ステューシー(ST?SSY)」は、今も変わらずクールなストリートブランドとしてのイメージを維持しています。その秘訣は。

 ステューシーがこれまで生き抜いてきた理由は、時代性を読み解き、ブランド戦略を柔軟かつ大胆に変化させてきた点に尽きるでしょう。一時期は日本国内に50店舗以上を構えていましたが、そこからブランド価値を守るために10店舗まで集約させたことが、功を奏したと分析しています。顧客層も若年層から往年のファンまで幅広く、理想的なピラミッドを形成しており、この徹底したブランディングの美学には、学ぶべき点が多々あります。一方で、同じ米国発のストリートブランド「ハフ(HUF)」はまだこれからのブランド。じっくりと顧客を育成し、ブランドを研磨していくことで、着実な成長を目指していきます。

ブランド数の多さを「弱点」から「強み」に昇華

──フリークスストアを運営するデイトナ?インターナショナルの買収は大きなニュースでした。

 当社が擁する約50のブランド群と化学反応を起こせるリテーラーを求めていました。デイトナが誇る屈指のリテール力や、売上の半分を占めるECのノウハウを吸収することで、グループ全体のシナジーを最大化できると期待を寄せています。

──フリークス ストアの店舗に、TSI HDのブランド商品が並ぶ日も近いのでしょうか。

 それはぜひ実現させたいですね。卸の取り組みは以前から進めていたのですが、より深度のある連携が可能だと考えています。

──「アルファ インダストリーズ(ALPHA INDUSTRIES)」とは独占販売契約も結びました

 実は2年ほど前から水面下で交渉を重ねていた案件なのですが、ポップアップなどの攻めの施策が功を奏し、極めて順調な滑り出しです。アルファは世界的に認知されたフライトジャケットの至宝。アヴィレックスやショットに加え、アルファというアメリカを象徴するブランドがTSIHDに揃うことは、我々のブランディングにおいて極めて重要な意味を持ちます。

 アルファ側は、ブランドをよりファッショナブルで高付加価値を持つポジションへ引き上げたいという思いを持っていました。そのパートナーとして、日本国内でアヴィレックスを成功させた実績や、多種多様なウィメンズブランドを運営する我々の能力を高く評価してくれたのです。ライセンス展開は、彼らのグローバルコレクションを補完する形で進めており、密なコミュニケーションを通じて共に成長を加速させていきたいと考えています。

Tempalay × Alpha Industries × FREAK'S STORE EXCLUSIVE IMEGE VISUAL

Image by: デイトナ?インターナショナル

──一方で、米国でスポーツ用品を販売するエフューゴの株式を売却しました

 ゴルフと同じように、コロナ禍でオンラインを軸に爆発的な成長を遂げた米国のストリートカジュアル市場が、平常時の水準へと戻った。特にこのカテゴリーのEC事業は、全米的に厳しい局面が続いています。エフューゴも一時期は莫大な利益をあげていましたが、市場の変調に対応して事業を立て直すには相当な時間を要すると判断し、売却という決断に至りました。社内のリソースをどこに集中すべきか、議論を尽くした結果による選択です。

──子会社の売却なども含め、この数年でポートフォリオをかなり整理されてきましたね。

 TSI HDは外部から見れば多種多様なブランドの集合体に見えるでしょう。正直なところ、当初はその多様さを「弱点」だと捉えていました。しかし、現場のスタッフに自社の魅力を問うと、「たくさんのブランドがあること」という答えが返ってきたんです。この多様性をいかにして「強み」へと昇華させるか。たとえ年商1億円の小さなブランドであっても、そこには1億円分の熱量を持ったお客様がいらっしゃいます。お一人おひとりを大切にしながら、各ブランドが自立して利益を出し、次なる投資へと繋げる。そして、互いの知見を共有しながら高め合う。そんな「個が主役となる会社」を構築したい。それが実現した時、我々はこれまでにないほど面白い企業グループになるはずです。

サステナビリティは「やらない選択肢はない」

──2026年の展望は。

 まずは目の前の課題解決に全力を注ぐ、それに尽きます。統合したECサイトをさらに磨き上げ、より洗練された顧客体験を構築していきたい。ものづくり、店舗運営、EC、情報発信。自分たちにできることは泥臭く何でもやっていきます。そして、次世代を担う人材教育にこれまで以上に投資していきます。学ぶことの喜びを共有し、共に成長を分かち合える仲間が増えていくこと、それが私の描く理想の風景です。

下地毅 代表取締役社長CEO

──2026年2月期下期は「売る力の回復」を業績達成のキーワードに挙げています。具体的な施策は?

 組織改編を行い、「販売部」を新設しました。これにより、販売員が特定のブランドに固定されるのではなく、TSI HDが擁するブランドを横断できる体制を整えました。もし、今働いているブランドとは合わないと感じるようになっても、まだ他に49もの選択肢があるので、その人のライフスタイルやキャリアプランに合わせた柔軟な働き方が選べます。この横串の機能によって、スタッフの知見やネットワークは飛躍的に広がっています。構造改革を断行したからこそ実現できた、極めてポジティブな成果だと自負しています。

──M&Aや新規ブランド開発の今後の予定は。

 M&Aについては、常にアンテナを高く張り巡らせています。我々のパーパスが共有でき、共に歩めるパートナーであれば、国内外を問わず門戸を広げています。また、新規ブランドの開発も止めるつもりはありません。ファッションには波があります。新しい命が芽吹き、役割を終えたものが去っていくのは、生命の営みと同じく必然なのです。

──今後、新ブランドを立ち上げるとしたら、そのキーワードは。

 間違いなく「サステナブル」です。時代性や地球環境を鑑みれば避けては通れない企業の社会的責務だと考えています。「サステナブルという言葉は聞き飽きた」という向きもあるかもしれませんが、我々はこれを経営の重要課題として愚直に守り抜きたい。既存ブランドも、段階を追ってサステナブルな構造へと転換していきます。「やらない選択肢はない」という強い危機感を持って取り組むべき課題です。

──下地社長は日本ファッション?ウィーク推進機構(JFWO)の理事長も務めています。日本のファッションウィークについて、どのようにお考えですか。

 JFWOの使命は、若手デザイナーを育成し世界へ橋渡しすること、そして日本のプレゼンスを世界に認めさせることにあります。産地とデザイナーを繋ぎ、グローバルに通用する才能を輩出する。その責任の重さを痛感しています。ただ、欧州のように国からの潤沢な支援があるわけではなく、自立した運営が求められる過酷な環境です。その中で歩みを止めていないことは、賞賛に値すると考えています。

──率直に、今の日本のファッションウィークは面白いと思いますか。

 今のままでは、まだ物足りませんね。もちろん、優れた才能や心躍るファッションは存在します。しかし、社会課題の解決と自らのクリエイションを融合させ、凄まじい熱量で世に問おうとする、そんな表現者が少なくなっている気がしてなりません。また、彼らを支える土壌やバックアップ体制も不十分です。その熱を再び呼び覚ますために、我々は全力で応援していきたい。TSI HDもJFWOも、挑戦する人々の背中を力強く押し続ける存在でありたいと切に願っています。

FASHIONSNAP 記者

山田耕史

Koji Yamada

1980年神戸市生まれ。関西学院大学社会学部、エスモードインターナショナルパリ校卒。ファッション企画会社、ファッション系ITベンチャーを経て、フリーランスとして活動した後、FASHIONSNAPに参加。ファッションを歴史、文化、経済、世界情勢などの視点から分析し、知的好奇心を刺激する記事を執筆することが目標。3児の父。

最終更新日:

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