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「かましてやりたかった」ヨウヘイオオノが心削り探った本物のファッションショー

YOHEI OHNO 2024年春夏コレクション

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

YOHEI OHNO 2024年春夏コレクション

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「かましてやりたかった」ヨウヘイオオノが心削り探った本物のファッションショー

YOHEI OHNO 2024年春夏コレクション

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 KOL施策などマーケティングが重要視されるようになったファッションショーにおいて、「ヨウヘイオオノ(YOHEI OHNO)」の大野陽平はピュリスト(純粋主義者)に向けてどストレートクリエイションで”かまして”きた。服作りに向き合う潔さとその覚悟、今のSNS時代において古い考えと言われるかもしれないが、大野と同時代を生きてきた筆者にとってはヨウヘイオオノの2024年春夏コレクションショーに"本物"を見出し、感動せずにはいられなかった。

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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 先シーズンから脈絡と繋がる「単なる洗練されたラグジュアリーファッションを目指すのではなく、素朴でどこか愛おしいものやチープで馬鹿馬鹿しいもの、何か自分でも得体の知れないものなどが含まれているべき」という考えは、今年大野自身が地元愛知県に帰郷し、そこで初めて幼少期のアルバムを家族と共に見たことでさらに深みをみせる。「家族の中での私は口数が少なく、正直な気持ちや考えを話すことが今も難しい。居心地の良くない実家から離れたいというのが、東京に行くことを決めた理由の1つだった」と振り返るように、郊外に開発されたニュータウンで生まれ育った同氏は家庭環境の辛さから、これまであまり家族と向き合ってこなかったという。ただ2024年春夏コレクションは、これまで外的なものから着想を得てデザインしてきたのに対し、辛くても自身の内面に向き合うことで新しいもの、引いては未来や夢のある創作が生まれるのではないかと考え、心を抉る思いをしながら自身の過去に向き合った。以下はコレクションノートに書かれた大野自身の言葉である。

15年以上前に上京して以来、帰郷するたびに感じるのは、その後何かが発展するわけでもなく徐々に寂れていく故郷への喪失感や「ニュータウン」という名前への皮肉、家族をそこに残したまま1人自由に生きている自分自身への後ろめたさだった。ところが私自身の家族や故郷に対する印象とは裏腹に、初めて見た幼少期のアルバムに写っていたのは、幸福で、今までずっと忘れていたかのような希望に満ち溢れた家族写真だった。「失われた30年」に差し掛かる前の、初期の平成が思い描いた理想的な庶民の家族のように見えた。私はいつも「夢のある創作がしたい」と考えている。私にとっての夢とはそこに「漸進」することができるだけで、決して手の届かないものだと思っている。テスラのcybertruckを初めて見たときに、まさに何か、大きな人類の夢に向かって漸進していくようなデザインだと思った。YOHEI OHNOの創作にも勝手ながらどこか繫がりを感じた。アルバムの中で見た、もはや本当だったかも分からない、希望に満ちた家族との記憶の世界も同じように、二度とそこにたどり着けないある種の夢なのではないかと思えた。

 放蕩息子が、過去と対峙して責任ある大人になるという文学作品は数多あるが、大野は責任を覚悟としてクリエイションで発散する。アルバムの中で唯一見つけられなかった、思い出深いはずの父の車を「失われつつある希望」のメタファーとして捉え、思い出せないぼんやりとした輪郭のままでデザインに落とし込む。そして、テスラの「cybertruck」を「人類の夢」や「スタイリッシュな未来」を象徴するものとして解釈し、一見相反する2台の車を未来は過去で、到達できない夢は二度と取り戻せない美しい過去の象徴としてショーで表現した。

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

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 ボトムがラグビーボールのようになったワンピースはヨウヘイオオノの新しいアプローチ。これまで肩周りの構築的なシルエットとシャープなウエスト周りが特徴的なジャケットなど、実用性を備えた新しいフォルムを追求してきたが、打って変わって身体から距離をとった過剰なデザインで、既視感なきフォルムを完成させる。チープさを感じさせるドット柄やカーテン風のドレスなど、実家を連想させるモチーフは要所に散りばめられた。チープなものやよくわからないものが混在するにも関わらず、品性を担保できているこのバランス感覚は、大野の特筆すべき才能の一つだろう。

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

 平成を生きたものにとって馴染みのあるディテールや中谷美紀の「砂の果実」、中山美穂&WANDSの「世界中の誰よりきっと」の音楽がフックになり、地続きにヨウヘイオオノが生み出すファンタジーに繋がるという文脈は確かに緻密且つテクニカルで、「エモい」と感想を述べるに至るには確かに十分だが、2024年春夏コレクションショーをそう安易に片付けてしまいたくないのは、彼のアティテュードに感化されてだ。時折吐露するが、大野にとってファッションクリエイションは救いと同時に惨憺たるもので、傍目にも健全な暮らしをしているとは到底思えない。それでも、シャイでクールにも関わらず自身の過去に向き合い心をすり減らし、内面を大衆の前に曝け出そうとするその姿勢に、ビジネスは一旦端に置き、売れる売れない議論を彼岸に押しやるほどの作品としての強度に、作り手側に立ったことがあるものなら共感せずにはいられないのではないかと思う。そして、個人的にラップだと思った、大野が書いたポエムを載せておく。

NEW TOWN NEW CAR

家族と見返したアルバム
勉強、部活、ときどきゲーム
あたらしくないニュータウン
憧れのテスラ
思い出せない父の車

家族と出かけた旅行
アピタ、ジャスコ、イトーヨーカドー
あたらしくないニュータウン
憧れのテスラ
思い出せない父の車

辿り着けない夢
取り戻せない記憶の情景
あたらしくない今の私
憧れのテスラ
思い出せない父の車

 ここまで色々テキストに残したがこれもまた野暮な話で、今回のショーの総括はフロントローに座る大野の父が、終始笑顔だったとマスク越しでもはっきりわかったこと、それが全てである。

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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YOHEI OHNO 2024SS Collection

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